世界保健機関(WHO)の加盟国は2025年5月20日、スイス・ジュネーブで開催中の世界保健総会(WHA)のA委員会において、将来のパンデミックへの備えを強化するための「パンデミック条約」案を採択した。
5月19日にA委員会で審議され、5月20日の世界保健総会本会議で最終採択された。条約案は、各国が感染症の発生を未然に防ぎ、発生時には迅速かつ公平に対応するための国際的な枠組みを定めている。
WHOのテドロス・アダノム事務局長は「各国がCOVID-19の教訓をもとに協力し、より公正で安全かつ持続可能な世界を目指す歴史的な合意だ」と述べたとされ、加盟国の努力を称賛した。
条約案には、今後の具体的な実施に向けた複数の段階的措置が盛り込まれている。
まず、病原体へのアクセスと利益配分を定める「病原体アクセス・利益配分制度(PABS)」の詳細を決めるため、政府間作業部会(IGWG)が設置される。
PABS制度の詳細は政府間作業部会で今後詰められる予定であり、詳細がまとまり次第、各国の署名・批准手続きが進められる。
PABS制度により、ワクチンや治療薬、診断薬などのパンデミック関連製品の約20%を、WHOを通じて迅速かつ公平に各国に配分する仕組みが整備される予定だ。特に発展途上国への優先供給が重視されている。
また、パンデミック対策のための資金調整メカニズムや、医薬品や医療用品の供給網を強化する仕組みの設置も提案された。これにより、将来の国際的な公衆衛生危機時にも、必要な医療資源が迅速かつ安全に届けられる体制が構築される。
A委員会での採択は、賛成124、反対0、棄権11(ブルガリア、イラン、イスラエル、イタリア、パラグアイ、ポーランド、ロシア、スロバキアなど)、欠席46で承認された。アメリカは総会を欠席した。
条約案は一定数の国が批准すれば正式に発効する仕組みとなっているが、パンデミック条約の批准プロセスは、世界保健総会(WHA)での採択後、すぐに各国が署名・批准できるわけではない。
条約の中核となる病原体アクセス・利益配分制度(PABS)の詳細を定めた付属書が、今後数年以内にWHAで採択されるまで、署名プロセスは開始されない見通しである。
PABS付属書は今後、政府間作業部会(IGWG)で交渉される予定であり、病原体情報の共有やワクチン・治療薬などの利益を公平に分配する仕組みが盛り込まれる。付属書が採択された後、各国は国内法に従って署名や批准手続きを進めることになる。
条約は60か国が批准書を提出した一定期間後に発効するが、批准は各国の主権に基づく自発的な手続きであり、批准を拒否したり特定の条項について留保する権利も認められている。
WHOが各国に強制的な措置を課す権限はなく、国家主権が尊重されている。
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