中国共産党の党首である習近平が14日間公の場から姿を消し、党メディアでも報道が途絶えている。側近の粛清や軍高層の異変も続発し、中国政局にかつてない緊張が走っている。
習近平は、6月3日時点で14日間にわたり公の場に姿を現していない。例年5月末に開催される中国共産党政治局会議に関する報道も見当たらず、6月2日および3日には、党の最重要メディアである「人民日報」や「新華社」のトップページに習近平に関する記事が掲載されなかった。この異常な沈黙が、習近平の権力喪失や権力基盤の不安定化を巡る観測を呼び起こしている。
習近平、党メディアから姿を消す
中国共産党の主要メディアである「新華社」や「人民日報」によれば、習近平が最後に公の場に現れたのは5月20日、河南省洛陽市の視察時であった。それ以降、習本人が登場する報道は止まり、外国首脳との書簡や電話、過去の発言の引用ばかりが紙面を占めている。5月27日には少先隊全国大会への祝電、5月29日には軍事科研奨励条例の公布命令の署名が伝えられたが、いずれも本人の姿は確認できない。
5月末以降、「人民日報」のトップページに習近平の写真や関連ニュースが掲載されない日が続いている。特に6月2日と3日には、習に関する記事がトップページから完全に消えた。アメリカの中国問題専門家ゴードン・チャン氏はSNSで、「人民日報から習近平が消えた事実は、彼が権力を喪失しつつある兆候だ」と発言した。
中国共産党の権力構造は非常に閉鎖的であり、党メディアの報道方針の変化が党内の異変を示す重要な手がかりとなってきた。過去にも政局が不安定な時期に、習近平が紙面から姿を消したことがあった。ただし、今回のようにすでに権力に関する不安が広がる中で長期にわたり沈黙を貫く事例は極めて稀である。
異常な沈黙の背景にあるもの
中国国内外では、習近平の権力に深刻な異常が生じているとの見方が急速に広がっている。アメリカ在住の時事評論家・唐靖遠氏は、「権力構造が正常であれば、党メディアは習近平の地位と統治の安定性を強調するはずだ。現状の沈黙は、党内で重大な異変が進行している証左である」と語る。
カナダ在住の文化学者である文昭氏は、「今回の状況は極めて異常である」と指摘する。過去に習近平が長期間姿を見せなかったのは2回のみである。1回目は2012年の第18回党大会前で、「水泳中に背中を痛めた」との説と「党元老との権力交渉が膠着した」との説が流れた。2回目は2024年7月末から8月中旬にかけての北戴河会議の時期であり、これは例年の「空白期間」と一致する。
文昭氏は続けて、「今回の特徴は『失踪』よりも前から異常な憶測が飛び交っていた点にある。例えば、『5月14日の政治局拡大会議で習近平の退陣が議題に上った』『軍の副主席 張又侠が習を批判し、胡錦濤が改革開放路線を強硬に主張した』などの噂が存在した。こうした不利な空気の中で、習近平が積極的に登場して権力の安定を示さないのは極めて異例である」と述べる。
さらに、「習近平が洛陽で軟禁状態にある」との情報も浮上している。台湾国防安全研究院の沈明室研究員は、「習近平がこれまでも何度か姿を消したことはあったが、今回の場合は党内の権力調整や闘争のために表舞台に立っていないと見るのが妥当である。軟禁と断定はできないが、党内における二大派閥の対立が激化しているのは間違いない」と分析している。
政治局会議の沈黙と党内の異変
中国共産党の政治局は毎月定例会議を開き、習近平がその議長を務めることが慣例である。しかし、6月3日現在、5月分の政治局会議や集団学習に関する報道は見られない。唐靖遠氏は、「異常事態でない限り政治局会議が開かれないことはあり得ない。仮に習近平が会議を開催しなかったのであれば、党内で極めて重大な事件が進行中である。逆に、会議が行われても報道されないのならば、その内容が極端に敏感で公表できない事情があるはずだ」と分析する。
また、5月には「政治局拡大会議」が開かれ、反習派が主導して習近平の権力移譲を議題に据えたとの情報も存在する。沈明室氏は、「会議が開かれなかったのは、習近平が洛陽から北京に戻らなかったため、または議題の調整が難航し発表に至らなかった可能性がある」と推測する。
側近への粛清と軍高層の異変
5月以降、党元老や軍の副主席・張又侠による権力掌握の動きが噂され、習近平の側近に対する粛清が進行している。側近の苗華は「重大な規律違反」から「重大な規律および法律違反」へと処分が強化され、中央軍事委員会副主席・何衛東も、3月の全国人民代表大会以降、公の場に姿を現していない。
6月2日には、元中央軍事委員会副主席・許其亮が北京で急死した。新華社は「運動中の心筋梗塞」と報じたが、沈明室氏は「前総理李克強の水泳中の急死と同様、不自然な点がある。人為的な関与の可能性を排除できない」と述べた。許其亮は鄧小平、江沢民、胡錦濤、習近平の各政権下で昇進を重ねてきた人物であり、福建時代からの盟友として習派に属していた。
沈明室氏は、「現在、習近平派に属する将軍たちが次々と粛清されており、許其亮もその動きに心労を抱えていた可能性がある」と指摘する。唐靖遠氏も「軍高層の急激な人事変動の多くが習近平派に対する粛清であり、習の権力基盤が動揺している証左である」と述べている。
結び 中国政局の行方
習近平による14日間の「失踪」、党メディアからの連続消失、政治局会議の沈黙、側近の粛清、軍高層の急死。これら一連の出来事は、中国共産党内でかつてない規模の権力闘争が進行している状況を示している。習近平が再び表舞台に姿を現すのか、それとも党内の権力構造が大きく転換するのか、今後の政局から目が離せない。
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