中国共産党が支援してきた独裁者や反米勢力の「古い友人」たちが次々と失脚した。アサド、ハマス、ハシナ、ハメネイ体制の崩壊事例から、中共外交のイデオロギー偏重による限界とその影響を読み解く。
近年、中国共産党(中共)は、アメリカとの覇権争いにおいて、アメリカが敵視する独裁者やテロ組織の指導者、あるいは独裁志向の強い政治家を積極的に支援してきた。これらの「友人」たちは、中共のグローバル戦略を後押しし、アメリカの力を分散する存在として機能すると中共は期待していた。
しかし、現実は中共の思惑通りに進まず、支援を受けた「古い友人」たちは次々に倒れていった。以下に四つの事例を挙げる。
第一、中共の「古い友人」アサドの崩壊
シリア大統領アサドは24年間政権を維持し、「虐殺者」として西側諸国から非難を浴びてきた。国内の抗議運動に対しては武力で対応し、多くの民衆を殺害して、国際社会から孤立した。
それにもかかわらず、中共はアサドを「志を同じくする良き友人、良き兄弟、良きパートナー」と称賛し続けた。
2023年9月、中共は、杭州でアジア競技大会を開催したが、各国首脳の出席は限られていた。そのため中共は、体裁を整えるべく中国国際航空のチャーター機を使い、アサド一家5人を杭州に招待し、同じくチャーター機でシリアに送り返した。
9月22日、中共はアサド一家を杭州の千年古刹・霊隠寺に案内した。霊隠寺はこのために正門を開放し、赤いカーペットを敷いて最高レベルの待遇を用意した。
習近平は、西湖国賓館でアサドと会談し、「中国・シリア戦略的パートナーシップ」の構築を発表した。これは二国間関係における「重要なマイルストーン」と位置づけられ、「一帯一路」や経済協力など複数の協定にも署名が行われた。
しかしそのわずか1年と2か月後の2024年12月8日、シリア反体制派が首都ダマスカスを掌握し、アサド政権は崩壊した。アサドは混乱の中、ロシアへ逃走した。
第二、ハマス指導部の全滅
ハマスはアメリカおよび多くの西側諸国によりテロ組織と認定されているが、中共は合法的なパレスチナ組織として位置づけてきた。
2023年10月7日、ハマスはイスラエルに対するテロ攻撃を実行した。「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」が発表した236ページの報告書『消せない血の記憶』は、この襲撃の目的を「イスラエル民間人の殺害と人質の大量確保」と指摘した。少なくとも1195人が犠牲となり、うち815人は民間人であった。251人が人質となり、負傷者も多数に及んだ。犠牲者の中には中国人も含まれていた。
報告書は、ハマスが戦争犯罪に該当する行為――民間人の殺害、人質の強奪、性的暴力、遺体の損壊、人間の盾の使用など――を多く行ったと断定した。
イスラエルが反撃戦争を開始した後も、中共はハマスを公に非難せず、むしろ擁護の姿勢をとった。
しかし、イスラエル軍の圧倒的な反撃により、ハマスはほとんど有効な抵抗を示せなかった。
2024年11月1日、ハマス政治局委員で戦略・軍事関係の調整を担っていたカサブが斬首された。これにより、イスラエルが「デス・カード」に名を連ねた54人のハマス指導者は、全員が消滅させられた。死亡者には、政治局長ハニヤ、その後継者シンワル、副議長アルリ、カッサーム旅団最高司令官、10月7日襲撃の指揮官デイフなどが含まれた。
第三、バングラデシュの「古い友人」ハシナの逃亡
1996年以降、ハシナは通算5回、計20年間にわたり首相を務め、中共との関係を強化してきた。
2024年7月10日、習近平は、北京でハシナと会談し、両国関係を「全面的戦略的協力パートナーシップ」へと格上げした。
訪中の際、両国は、28件の協定に署名し、貿易・投資・インフラ事業が中心となった。中国は、バングラデシュの輸出品の98%にゼロ関税待遇を与える方針を示した。
バングラデシュは、2015年に南アジアで初めて「一帯一路」に参加し、2016年には「バングラ・中国・インド・ミャンマー経済回廊」を確立した。中共は240億ドル超の融資を行い、2022年時点で最大の投資国となった。以後、中共の総投資額が累計400億ドルに達し、主にインフラ分野に集中していた。
だが、ハシナの訪中からわずか26日後の2024年8月5日、バングラデシュ国内での大規模な抗議活動の中、ハシナは76歳の身でインドへの逃亡を余儀なくされた。
第四、中共の「古い友人」ハメネイ、傷弓の鳥(過敏に怯える)
中共が中東において最も重視してきた「古い友人」は、イランの最高指導者アリー・ハメネイである。
1989年からハメネイは、イランの精神的指導者の座にあり、統治期間は36年を数えた。彼は現代世界において、数少ない独裁者の一人として存在してきた。
イランは、アメリカおよびその同盟国にとって、中東テロリズムの最大の供給源と見なされ、イラン革命防衛隊のコッズ部隊、ハマス、ヒズボラ、フーシ派、クルディスタン労働者党、イスラム聖戦機構、さらにシリア・イラクのシーア派民兵組織に至るまで、主要なテロ組織に資金と武器を供給してきた。
イランは直接的な行動のみならず、レバノン、シリア、イラク、イエメン、ガザなどに展開する代理勢力を通じて、中東各地で多数のテロ攻撃を引き起こしてきた。
中共はこれらのテロ行為に対して一貫して沈黙を保ち、無視を決め込んできたのだ。
2016年1月、習近平は初めてイランを訪問し、「包括的戦略的パートナーシップ」の構築を発表した。ベルギーのデータ分析企業ケプラー(Kpler)によれば、現在イランの石油輸出の90%以上が中国向けであり、イランは中共の「一帯一路」構想における戦略拠点として位置付けられ、2021年には、中共とイランが25年間にわたる包括的協力協定を締結し、その中で中共は、イランに4000億ドルの投資を行う計画を明示した。
両国は、軍事面でも緊密な連携を続けてきた。たとえば、イランのNegah防空指揮システムの中核は、中共のJY-10防空指揮統制システムが担い、さらに中共は、1980年代初頭から1997年まで、イランの核計画を技術と人材で支援し、イスファハーン核研究センターの設立にも関与した。1990年には核協力協定を締結し、翌年には1トンの六フッ化ウラン(UF6)をイランに提供した。
軍事専門家は、イランの核開発がここまで進展した背景に、中共による長年の支援が存在すると指摘した。
国際原子力機関の機密報告によれば、2024年8月17日時点で、イランは60%濃縮ウランを49.8ポンド(約23キログラム)追加し、備蓄量は363.1ポンド(約165キログラム)に達した。この量は、核兵器4発分の高濃縮ウランにわずかに届かない水準である。専門家の分析によれば、60%濃縮ウランを兵器級の90%濃縮ウランに転換するには、2週間もかからないとされる。
イランは中東の反イスラエル組織を長年支援してきた。「イスラエルを地球上から抹消する」と公言し、さらに核兵器の完成が目前とされる状況にあった。これらの脅威が重なった結果、イスラエル政府は、イランの存在を国家安全保障に対する明確かつ切迫した脅威と捉えるに至った。
イスラエルは小国であり、一発の原爆で壊滅的打撃を受ける恐れがある。
2025年6月13日、こうした現実を背景に、イスラエルはイランに対して先制攻撃を開始した。イスラエル空軍はイランの防空網を突破し、制空権を確保した上で、核施設、軍事情報本部、弾道ミサイル基地、石油貯蔵施設などに対して、大規模な空爆を実施した。
この攻撃によって、ハメネイ指導部の中核に位置する高官の多くが命を落とした。革命防衛隊司令官サラミ少将、軍参謀総長バゲリ少将、国防相ナシルザデ准将、最高指導者上級顧問シャムハニ少将、中央司令部司令官ラシード少将、新任戦時参謀長シャドマニ少将、警察司令官ラダンなどがその中に含まれた。さらに、少なくとも10名の核科学者が殺害された。
ハメネイの潜伏場所はすでに特定されており、彼自身も暗殺の標的となる状況に置かれていた。
現在の戦局を冷静に見れば、ハメネイによる36年の独裁体制は崩壊の瀬戸際にある。中共が重用してきたこの「古い友人」の政治生命は、いまや終焉のカウントダウンを迎えた。
結語
なぜ中共が支援してきた「古い友人」たちは、次々と歴史の舞台から姿を消していくのか。その根本的原因は、中共が国際および国内の情勢を判断する際、客観的事実ではなく、イデオロギーを唯一の基準としているからにほかならなかった。
中共のイデオロギーとは何か。それはマルクス主義である。そしてその核心とは、「資本主義を憎み、打倒し、取って代わり、全人類を解放する」ことにある。
中共は今日でもこの思想を忠実に継承している。ただし「全人類の解放」という表現を、「人類運命共同体の構築」という美辞麗句に置き換えただけにすぎない。
現代世界で最も強大な資本主義国家はアメリカである。中共はアメリカを憎み、打倒し、その地位を奪い、中共主導の「人類運命共同体」の実現を目指す。この目的のために、世界各地の反米勢力と連携し、反米陣営の形成に奔走する。
中国の古い成語に「一葉障目、不見泰山(小事に目を奪われて大局を見失う)」という言葉がある。
歴史の数々の事実はすでに証明済みである。マルクス主義とは、人類が何世代にもわたり受け継いできた普遍的価値観に、真っ向から反する、ねじれた理論である。
中共がこのような歪んだ理論を行動原理とする限り、自らが築き上げた幻想と虚構の中に生きる運命を免れない。そしてその色眼鏡のままでは、独裁者やテロ首領たちがたどる結末の本質を見抜くことも、理解することもできないのであった。
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