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米下院 中国フェンタニル阻止法案を可決 合成オピオイド対策強化

2025/09/03
更新: 2025/09/03

アメリカの連邦議会下院は9月2日、賛成407票、反対4票という圧倒的多数で「中国のフェンタニル阻止法案」(Stop Chinese Fentanyl Act)を可決した。同法案は、制裁と法執行を強化し、中国からアメリカへの違法フェンタニルおよびその前駆体化学物質の流入の阻止を目的としたものである。

法案は、合成オピオイドやその前駆体の生産、販売、資金調達、輸送に関与する中国の個人や団体に対し、米政府が制裁を科す権限を付与している。また、アメリカの麻薬取締活動に協力しない組織に対して責任を問うことも可能としている。同法案は現行の「フェンタニル制裁法」(Fentanyl Sanctions Act)の拡充版にあたる。

さらに、法案は大統領に対し、中国のフェンタニル問題に関して「国家非常事態」を宣言した場合、定期的に議会へ評価報告を提出し、制裁や法執行の効果を検証することを義務付けている。議会は中国共産党(中共)の関与について強く批判している。

この法案を提出したのはケンタッキー州選出の共和党下院議員アンディ・バール(Andy Barr)氏であり、超党派の支持を得て成立した。バール議員は声明で「中共当局はフェンタニル危機のあらゆる段階で中心的役割を果たしている。前駆体化学品の供給から麻薬組織のマネーロンダリングに至るまで関与し、薬物拡散を助長している。アメリカは供給源を断つため、より強力な行動を取らなければならない」と強調した。

また、ノースカロライナ州選出の共和党下院議員グレッグ・マーフィー(Greg Murphy)氏は、中国製フェンタニルがメキシコ経由でアメリカに流入し、オピオイド危機をさらに深刻化させていると指摘した上で、「アメリカはこの危機を放置できず、中共に断固として立ち向かわなければならない」と述べた。

さらに、アイオワ州選出の下院議員ザック・ヌーン(Zach Nunn)氏は「フェンタニルは若年層から中年層にとって最大の死因となっている。アメリカは国境警備を強化するだけでなく、供給源を徹底的に追跡し、北京に責任を負わせるべきである」と強調した。

フェンタニル危機の深刻化

アメリカ国土安全保障省(DHS)のデータによれば、アメリカ税関・国境取締局(CBP)は2023会計年度に2万ポンド以上の違法フェンタニルを押収した。これは数十億人分の致死量に相当する。2024会計年度の押収量はさらに増加し、2万7千ポンドを超えた。その大半はアメリカとメキシコの国境で押収している。

中共当局は2019年にフェンタニルの直接輸出を禁止したが、アメリカの法執行機関は依然として中国企業を前駆体化学品の主要供給源とみなしている。こうした化学品はメキシコ経由で密輸組織に渡り、地下ラボで合成されてアメリカに流入しているのが実情である。

アメリカの対応強化

この危機に対処するため、アメリカ政府は近年、多くの新たな対策を導入してきた。ハイテク検査装置の配備、メキシコおよびカナダとの国境協力強化、さらには2023年7月に設立した「グローバル合成薬物脅威対策連合」(Global Coalition to Address Synthetic Drug Threats)などである。現在、この連合には160か国以上と15の国際機関が参加し、国際的な麻薬密売ネットワークとの戦いを展開している。

2023年11月には、米中両国が麻薬取締協力の再開を発表し、連絡メカニズムを設置することで合意したものの、成果は限定的であり、政治的緊張が進展を妨げている。

最も致命的な薬物の一つ

フェンタニル(Fentanyl)は合成オピオイドの一種であり、モルヒネのおよそ50倍、ヘロインの約100倍の効力を持つ。わずか2ミリグラム(食塩数粒程度)で致死量に達するため、「最も致命的な薬物の一つ」とされている。

アメリカ疾病予防管理センター(CDC)の統計によれば、フェンタニルは薬物過剰摂取死の最大要因である。1999~2023年までに薬物過剰摂取による死者数は約5.2倍に増加した。2023年には10万人以上が薬物過剰摂取で死亡し、その約69%がフェンタニルなどの合成オピオイドに関連していた。

王君宜
王君宜