ドナルド・トランプ大統領は10月13日、ハマスのテロ組織が生存する人質を解放し、イスラエルがパレスチナ人拘留者を釈放するという停戦協定の第1段階を記念するために、イスラエルとエジプトを訪問した。
この停戦協定は、2023年10月7日にハマスがイスラエルを攻撃して以来、2年以上続いた戦闘の終結につながる可能性がある。その攻撃では約1200人が死亡し、ハマスの戦闘員はさらに251人を人質としてガザ地区に連れ去った。
ハマス支配下のガザ地区政府の保健省によると、イスラエル軍の2年間の攻撃でガザ住民6万7千人以上が死亡したとしているが、戦闘員と非戦闘員の区別はなく、正確な死傷者数は確認されていない。
地域各国の指導者を前に演説したトランプ氏は、ガザでの停戦プロセスの次の段階が進行中であると述べ、この瞬間を「恐怖と死の時代の終焉であり、信仰と希望の時代の始まりである」と位置づけた。
以下は、大統領の中東訪問における5つの重要な場面である。
人質の解放
2年以上前にハマスのテロリストに拉致されていたイスラエル人の人質20人全員が10月13日に解放され、家族と再会した。
トランプ氏はクネセットでの演説で、「闇と囚われの中で過ごした2年間の後、20人の勇敢な人質が家族の栄光の抱擁に帰る。それはまさに栄光だ」と述べた。
大統領はすべての人質を生還させることをかねてから誓っており、亡くなった人質の遺体も含めている。
トランプ氏はエジプトへ向かう途中、記者団に対し、イスラエルとパレスチナ側が捕虜収容中に死亡した約24人の遺体を捜索していることを明らかにした。瓦礫と化したガザ地区では、捜索隊が遺体の発見を続けている。
人質の返還と引き換えに、イスラエルは各種犯罪で服役していた約250人を含む1900人以上のパレスチナ人を釈放した。
家族と再会した人々の映像や写真がソーシャルメディアに投稿され、感涙する様子が映し出されている。
イスラエル国防軍が公開した映像では、エイタン・モール氏が父親を抱きしめ、両親が喜びの涙を流す姿が見られた。別の家族は世界中からの支援に感謝を示した。
テロ攻撃時に拉致され、738日ぶりに夫と幼い息子と再会したリブカ・ボーブット氏は、人質支援団体「ブリング・ゼム・ホーム・ナウ」を通して、「この瞬間を2年間待っていた。私たちの小さな家族が再び一つになる瞬間を。支えてくれた全ての人に感謝する」と述べた。
解放された人質を乗せた車列を迎えるために、何千人ものイスラエル市民が街路に並び、旗を振り、歓声を上げたという。
この帰還は、ユダヤ教の祝祭シムハット・トーラーの前夜に行われた。
「新たな中東の夜明け」を宣言
10月13日、トランプ氏はイスラエル国会で演説し、イスラエルとハマスの停戦は中東全域の平和に向けた重要な一歩であると述べた。
「これは、まもなく真に壮大な地域となるイスラエルとすべての国々のための大調和と恒久的な平和の始まりだ。まさに“新しい中東”の夜明けだ」と語った。また、中東全域でのイスラエルおよび米軍の軍事的成功がこの和平の機会を生み出したと説明した。
「イスラエルの喉元に向けられていたヒズボラの短剣は完全に砕かれた」と大統領は述べた。
さらに、6月にイスラエルと米国が実施した対イラン軍指導部および核関連施設攻撃にも言及し、「イスラエルは我々の支援を得て、武力で成し得るすべてを勝ち取った。今度はその勝利を平和と繁栄に変える時だ」と語った。
アブラハム合意の再始動
トランプ氏は今回の訪問を、自身の第1期政権で始めた和平構想「アブラハム合意」の再活性化の機会とした。同合意は、イスラエルとイスラム諸国との外交・経済関係を正常化させることを目的としている。
トランプ氏は、「古代の分断を乗り越えて、イスラエルとの協力を選び積極的に関係を深めた国々は、この地域で最も成功している。彼らはイスラエルと協調し、繁栄している」と述べた。
バイデン前大統領もサウジアラビアをこの枠組みに加えようとしたが、ガザ紛争により頓挫した。サウジ当局は当時、パレスチナ国家樹立への明確な道筋なしにイスラエルを承認することはないと述べていた。トランプ氏は演説で前政権を批判し、「以前の政権は非常に弱く、我が国史上最悪の大統領だった。この偉大な文書、アブラハム合意を何も成し遂げずに放置したが、今はそれを完成させられる」と語った。
エジプト・サミット
世界35か国の指導者がエジプト・シャルムエルシェイクに集まり、ガザ和平サミットで安全保障協定に署名した。
調印式でトランプ氏は、「この日を待ち望み、努力し、祈ってきた世界中の人々のための日である」と述べた。
新設された「平和理事会」が現地情勢を監視し、長期的な安定を確保する役割を担う。加盟国は抽選で選ばれるという。
トランプ氏は「誰もが不可能だと言ったことを我々は成し遂げた。中東に平和をもたらした」と強調した。
フランス、イタリア、ドイツ、ヨルダン、トルコ、英国の首脳に加え、国連のグテーレス事務総長とEU委員長フォン・デア・ライエン氏もサミットに出席した。当初、イスラエルのネタニヤフ首相も参加予定とされたが、ユダヤ教の祭日と重なるため欠席した。
第2段階交渉の開始
10月13日、エジプトのシシ大統領との共同記者会見で、ガザ停戦協定の第2段階実施交渉の開始時期を問われたトランプ氏は、「今回の協定の段階はそれぞれが少しずつ重なり合っている」と述べ、戦闘によって生じた瓦礫の除去作業にも言及した。
以前の段階的停戦合意は、次の段階への移行方法を巡る意見対立により、今年初めに崩壊していた。
その際、ハマスは第1段階の条件に従い合意通りに人質の一部を解放したが、第2段階の交渉移行では、イスラエルは米国中東特使スティーブ・ウィトコフによる提案を支持し、第1段階の停戦条件を延長して追加交渉時間を確保しようとした。
ウィトコフ氏は10月13日の記者会見で、自身とトランプ氏の義理の息子ジャレッド・クシュナー氏が和平の実現に向けて細部交渉に引き続き関与することを明らかにし、「我々はすでに実施段階に取り組んでいる。ここにしばらく滞在して作業を続ける。それは大統領の指示だ」と述べた。
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