オランダの複数のメディアは27日、オランダ政府が9月に同国の半導体企業「ネクスペリア」を接収したのは、同社のCEO・張学政氏が機密情報を中国へ流出させ、欧州事業を分割したうえで生産拠点を中国へ移転していたとの懸念が背景にあると報じた。
ロイター通信は27日、政府関係者4人の話として、張学政氏が欧州で従業員4割の削減計画を立て、ミュンヘンの研究開発拠点を閉鎖する予定であったと伝えている。張氏は、ネクスペリアの中国の親会社「聞泰科技(ウイングテック)」の創業者でもある。
オランダの裁判所は1日、張学政氏のCEOとしての職務を一時的に停止した。関係者によると、その前に張氏はすでにイギリス・マンチェスター工場の機密情報を聞泰科技の工場に移しており、その中にはチップ設計データや機械設定情報などが含まれていたという。さらに、ドイツ・ハンブルク工場の設備を中国へ移転する計画も進めていたとされる。
オランダの有力紙「NRCハンデルスブラッド」は14日付の報道で、新たに公開された裁判記録を引用し、張学政氏がネクスペリアに対し、自身が上海で経営する半導体ウエハー(基板)を製造する「鼎泰匠芯(ディンタイ・ジャンシン)」への発注を強要していたことを明らかにした。発注額は2億ドルに上ったが、ネクスペリアが実際に必要としていたのは7000~8000万ドル分のウエハーに過ぎなかったという。浪費された資金は、経営難に陥っていた鼎泰匠芯の資金繰りを支えるために流用されたとみられる。
ネクスペリアの主力事業は成熟プロセスによる半導体製造であり、アメリカの半導体技術に関する輸出規制の対象外となっている。しかし、今回の件が「商業機密の窃取」とみなされているのはなぜだろうか。
台湾南華大学の国際事務・ビジネス学科専任教授の孫国祥氏は、「第一に、サプライチェーンのリスクだ。ヨーロッパの自動車産業が、中国資本の支配下にある単一の供給拠点に依存するようになれば、供給停止などのリスクが生じる」と述べた。
「第二の論点は、技術主権の侵害リスクである。ヨーロッパで蓄積されてきた製造ノウハウ、生産ラインのパラメータ、品質管理システム、研究開発体制などが、中国国内の関連企業へと移転・複製される事態となれば、ヨーロッパ産業の基盤的競争力は著しく損なわれ、空洞化を招くおそれがある。オランダの裁判資料および複数の報道機関は、この状況を『利益供与と商業機密の流出が結びついた構図』として指摘している」
昨年12月、聞泰科技は「中共政権による、機微な半導体製造能力を持つ企業の買収を支援した疑い」で、米商務省の輸出規制リストに追加された。米政府はその後、聞泰科技の支配下にある子会社も同リストに加えている。
台湾国防部系のシンクタンク「国防安全研究院」国防戦略・資源研究所の蘇紫雲所長は、「たとえ成熟プロセスの半導体であっても、各企業は独自の生産技術や特許を有している」と述べ、「中国国内にも同様のプロセスは存在するが、歩留まりやチップの安定性の面では依然として劣る」と指摘。
そのうえで、「他社の製造ノウハウを入手すれば、生産精度を大幅に向上させることができ、その結果、公正な競争を損なう事態を招くおそれがある」と語った。
ネクスペリアが製造する半導体チップの約70%は、中国国内でパッケージング処理を経た後に再販されている。オランダ政府が「経営上の不正行為」を理由に同社を接収した直後、中共政権は報復措置として、広東省所在のネクスペリア工場とオランダ本社との業務連携を遮断した。
この結果、生産ラインは停止し、約1か月にわたり膠着状態が続いた。その影響は自動車業界にも及び、日米欧の各メーカーが相次いでチップ供給不足への懸念を表明した。
専門家は、今回のネクスペリア事件について、外国のハイテク企業が中国資本に買収された場合に、どのような影響が出るかを示す象徴的な事例になったとみている。
台湾南華大学の孫教授は、「第一に技術と生産ラインの流出、第二に重要供給の『兵器化』だ。中国側が出荷や輸出を止めれば、ヨーロッパの自動車メーカーはただちに生産停止の危機に直面する」と述べた。
「第三に、企業統治と国家安全保障が一体化する問題だ。オランダ政府は『戦略物資の供給確保法』などの安全保障関連法を根拠に、国家が直接企業を接収した。これは、技術主権の流出が国家およびEU全体の経済安全を脅かすとの懸念からだ。最後に、買収後の政治的波及効果として、企業が政治対立の最前線に押し出されることになる」
ネクスペリアはオランダ以外でも、イギリスで同国最大規模のウエハー製造拠点である「ニューポート・ウエハーファブ」を所有している。しかし2022年にイギリス政府は安保上のリスクを理由に、中国資本に対しこの工場の86%の株式売却を命じた。
さらに同年11月、ドイツ政府も安全保障上の問題を理由に、中国資本によるドイツの半導体企業2社の買収を禁止している。
孫教授は、「中共が主導する国家資本主義のモデルは、海外における高度な技術の吸収を『コーナーで追い抜く』ための常套戦略としている。しかし、西側諸国はもはやそれを容認せず、成熟プロセスの技術移転や生産ラインの移行も『機微技術』として管理対象に含めるようになった」と語っている。
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。