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オランダ経済大臣 ネクスペリア紛争の内幕を語る 「まるで経済復讐ドラマのようだった」

2025/11/17
更新: 2025/11/17

オランダ政府による半導体メーカー「ネクスペリア」接収は、中国への依存リスクが高まる中、欧州経済安全保障の強化が急務となった象徴的な出来事である。経済大臣カレマンス氏はその内幕について語り、各国政府と企業の協議が続いている。

オランダ政府は9月、半導体メーカーのネクスペリア(Nexperia)を接収する決定を下した。この重要な判断の中心人物であるカレマンス氏経済大臣は「同じ状況になっても決定を変えることはなかっただろう」と語り、この一連の騒動は「まるで経済復讐ドラマのようだった」と述べた。

英紙「ガーディアン(The Guardian)」は11月13日、カレマンス氏へのインタビューを掲載した。これは彼が初めてネクスペリア問題の経緯を詳細に語ったものであり、ドイツの同僚、欧州の自動車業界、そして米国政府高官との協議内容にも触れた。また、ネクスペリアの中国人最高経営責任者(CEO)が一部の実体事業を中国へ移転しようとしていたという重要な情報を得ていたことも明らかにした。

カレマンス氏は、欧州連合(EU)と中国共産党の間でネクスペリアをめぐり、自動車向け半導体の供給依存をめぐる6週間にわたる膠着状態があったと述べた。そのうえで「この出来事は、各国首脳に中国への依存リスクを自覚させる警鐘となった」と語った。

彼は「この争いを引き起こしたことを後悔していないし、たとえ今振り返っても決定を変えることはなかっただろう」と述べた。

「皆が何が起こったのかを知りたがっている」と彼は言う。「これはまさに経済復讐ドラマのようなものだ」。

カレマンス氏はさらに「もし同じ立場に置かれ、今知っているすべての情報を持っていたとしても、やはり同じ選択をしただろう」と付け加えた。

中国共産党(中共)商務部は11月14日、カレマンス氏の新たな発言に強い不満を表明した。中共側はこれまでオランダ政府に対してネクスペリアの接収命令を撤回するよう圧力をかけ続けてきた。

オランダ政府が13日に発表した声明によれば、オランダ代表団は来週初めに北京を訪れ、ネクスペリア問題を「双方が納得できる形」で解決する方法を模索する予定である。

オランダ企業としての認証維持

ネクスペリアは2018年、中国のウィンセム(聞泰)テクノロジーに買収された。2023年、米国政府はオランダ政府に対し、ウィンセムを国家安全保障上の脅威となりうる「関連企業リスト」に加えることを検討していると通知した。

同年、オランダ政府はウィンセムの創業者であり、ネクスペリアCEOの張学政と対話を開始し、ネクスペリアの独立性を確保するための措置を協議した。

オランダ政府はネクスペリアに独立した監査委員会の設立を求め、張学政に対してはCEOと人事主管の職を兼任しないよう要求した。

カレマンス氏は「昨年の夏、私は経済省で張学政とこの問題について話し合った。彼は当時『取締役会は非常に前向きに支持している』と約束していた。我々は実施すべき措置のリストを作成し、その後、米国側に『この企業はオランダ企業である』と説明する準備を進めていた」と語った。

9月の急展開

しかし今年9月、事態は急展開を見せた。

「ある日、私のオフィスにある人物来て『大臣、話があります』と言った。そして彼らは張学政が何をしているのかを教えてくれた。知的財産の移転、社員の解雇、さらにハンブルクから中国への生産移転を計画しているという内容だった」とカレマンス氏は説明した。

大臣は情報提供者の身元を明かさなかったが、「我々には実際に移転が行われていることを裏付ける確かな証拠があった」と強調した。

9月にカレマンス氏がオランダ国会に送った書簡によると、ネクスペリア内部のガバナンス上の欠陥に関する深刻な訴えが政府に寄せられており、それはいずれも張学政に関連するものであった。

9月30日、オランダ政府は「欧州の経済安全保障が危険にさらされている」との理由で、ネクスペリアの監督権を掌握した。政府は冷戦期に制定されたが、一度も使われたことのなかった法律を発動した。

カレマンス氏は「この件は、アメリカが9月29日にネクスペリアを輸入規制企業リストに追加したこととは一切関係がない。我々はアメリカからの圧力を受けていない」と述べた。

彼によれば、アメリカ側からは事前に「政府の一時閉鎖前に新たな輸出管理リストにネクスペリアが加わることを確認したい」という通知があったという。

静かに迅速に処理するはずだった

オランダ政府の接収決定は中共の強い反発を招いた。中共政府はネクスペリア製半導体チップ(完成品が大半)を中国から輸出することを4日間禁止した。この措置により、自動車メーカーの供給網が混乱した。

その後、10月末にアメリカのトランプ大統領と中共党首の習近平が韓国で会談し、中国が欧州向けネクスペリア製チップの供給を再開することで合意した。

ネクスペリア問題をめぐり、オランダと中共の緊張は急速に高まった。カレマンス氏はドイツの経済相カタリーナ・ライヒェ(Katherina Reiche)氏とも電話で協議し、ドイツ側はオランダの行動を支持する一方で、自動車業界への影響を深く懸念していると伝えた。

その後、EU、アメリカ、中国、フランスなど各国の指導者たちが次々とこの問題の進展について報告を受けた。

「本来なら公にしたくなかった。迅速かつ静かに処理するつもりだった」とカレマンス氏は振り返った。

中共側の強硬な反応が危険性を露呈

アメリカが「関連企業リスト」に対する制裁を一時停止し、制裁適用の50%相当分の延長を1年延期すると発表したのち、中国もネクスペリアのチップ輸出を再開した。

今後の見通しについてカレマンス氏は「ヨーロッパに最初のチップが到着するまでは何の行動も取らない」と述べた。

また「供給が回復し、それが持続すると確信できた段階で、オランダ政府として必要な措置を講じる」と語った。

カレマンス氏は今回の出来事が「警鐘」となり、人々が「一国に重要な技術や原材料を過度に依存する危険性」に気づくことを願っていると述べた。

ガーディアン紙とのインタビューでカレマンス氏は、「もしウィンセムがネクスペリアのウエハー製造ラインを中国へ移していたら、欧州と中国の間にあった相互依存関係は、一方的依存へと変わっていた。それは欧州にとって極めて危険である」と語った。

カレマンス氏が所属する自由民主党(VVD)は10月の選挙で第3党となり、同氏は新政権発足後に退任する予定である。この移行には最長で1年を要する可能性がある。

社内対立の深まり

ガーディアンによると、ウィンセム側はハンブルクから中国へ一部の生産ラインを移転する計画の噂を否定し、「オランダ政府の介入によってドイツでの投資計画が停滞している」と説明している。

同日、ネクスペリア中国工場は全従業員に向けて公開書簡を発表し、本社がウエハー供給を断ち切り、中国での生産を妨げていると非難した。また契約通りの資金提供や支援を行っていないと主張した。

これに対し、ネクスペリア本社は声明を出し、供給停止の主張を否定した。「10月に中共政府の輸出制限が発令された後も、本社は中国工場にウエハーを直接供給し続けてきた」と説明した。

さらに「中国工場には数か月間は稼働可能な十分なウエハーと完成品の在庫がある」と指摘した。
声明は「出荷を完遂できなかった責任は中国法人にある」と結んでいる。

本社側は「一定の前進はあったものの、中国政府はネクスペリアのチップ輸出制限を一部のみ緩和している段階にあり、供給網はまだ完全に回復していない」と付け加えた。

林燕