11月26日夜(現地時間)、米ニューヨークの中国総領事館の外壁に、「習近平は退陣せよ」「独裁ではなく民主を」といった訴えが大きく投影された直径約18メートルの巨大な抗議映像が浮かび上がった。
これらの言葉は、2022年に北京・四通橋で彭立発氏が掲げた横断幕の訴え(「四通橋事件」)とも、白紙運動(革命)で若者たちが叫んだ声とも根っこは同じで、当時の抗議の核心をそのまま引き継いだ内容である。そのため今回の投影は、白紙運動三周年にあたる11月26日に合わせて実施された。
この投影を行ったのは、海外在住の中国人らでつくる市民団体「中国行動(China Action)」と「全民反抗運動(China Resist)」。投影機材は領事館向かいの歩道に設置され、映像は数十分間にわたり放映された。
投影が始まると、領事館側は建物の照明を最大にして映像を弱めようとした。しかし、数十メートル先の壁面に文字をくっきり映せるほどの500ワット級の強力な投影灯にはかなわず、照明による妨害は効果がなかった。職員が外に出て止めに来ることもなかったが、現場には監視しているとみられる人物の姿もあったという。
(中国総領事館の外壁に投影された抗議メッセージ、2025年11月26日夜、米ニューヨーク)
姿を変えて受け継がれる自由への訴え
今回の投影は、北京で掲げられた「自由を求める横断幕」や白紙運動で広がった若者たちの声を、もう一度「目に見える形」で示すことを目的に企画されたものである。技術者やNGO関係者など多様なメンバーが約2か月かけて準備に参加した。
主催団体の担当者である蘇雨桐さんは本紙の取材に応じ、白紙運動以降、海外の中国人社会でも意識の変化が進み、これまで政権寄りだった層が抗議活動に加わる例も増えていると語った。
2022年11月、新疆ウイグル自治区・ウルムチで起きたマンション火災で住民10人が避難できず死亡した。マンションは中共による非人道的な感染拡大対策「ゼロコロナ」政策により屋内の逃げ道は封鎖されていたとされる。この事件が契機となり「白紙運動」が全国的に広まった。
抗議者が何も書かれていない白い紙を掲げたことから「白紙運動」と呼ばれる。なぜ、何も書かれていないのか。それは、当局は「どの言葉やスローガンが違法か」を特定し、削除することができない上、「私たちが言いたいことは自明だ」という意思表示でもある。

当時、上海市の「ウルムチ通り」でウルムチ火災の犠牲者を弔う集会が開かれ、集会はいつしか学生たちを中心とした市民の抗議活動に発展した。抗議集会の現場からは「共産党下野」「習近平退陣」などのスローガンまで叫ばれ、街に響いたスローガンは長い沈黙を強いられてきた若い世代の悲痛な叫びでもあった。
こうした自発的な抗議活動の広がりは3年間にわたる「ゼロコロナ」の撤回につながり、中共執政以来で数少ない抗議の成功例となったが、今もなお大勢の若い抗議者が投獄され、あるいは行方不明になっている。
それでも、あの夜に掲げられた白紙は消えていない。今回の投影は、その思いが三年経った今も続いていることを静かに示していた。

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