12月4日、中国・広東省深セン市の音響機器などを受託製造する電子機器メーカー「深圳易力声科技有限公司」で、製造ラインの従業員約3000人がストライキを行った。
会社が突然「残業なし」を通知し、従業員の月収が1000元台(約2万〜3万円弱)に落ち込んだことが直接の引き金である。深センの最低賃金である2520元(約5万円)を大きく下回る水準で、「この収入では生活できない」と抗議が一気に広がった。
現場の動画では、数千人の従業員が工場門前に集まり、荷物運搬車の進入を止めて声を上げる中、一部従業員が警備員ともみ合いになり、警察が従業員を連行しようとしたところを仲間が阻止する場面も確認できる。こうした混乱を受け、ついには武装警察が追加投入され、工場周辺は緊張状態が続いている。

従業員の要求は明確である。「生活を維持できるだけの残業を戻すか、勤続年数に応じた正当な補償を払え」というものだ。
企業が従業員を「自主退職扱い」にできれば、本来支払うはずの勤続年数に応じた補償金を大幅に抑えられる。こうした背景から、従業員を追い詰めて自ら辞めるよう仕向ける手法は、業種を問わず中国の企業でしばしば取り沙汰される行為である。
そのため、会社側が今回の残業禁止について「海外需要の減少で注文が約20%減ったため」と説明しても、従業員の間では「実際には注文をベトナムなど別の工場に回し、私たちには生活できないほど低い賃金のまま働かせ、自主退職に追い込もうとしているのではないか」という強い不信感が広がっている。
(「深圳易力声科技有限公司」の従業員が集まり抗議する様子、2025年12月5日、広東省深圳市)
深センでは基本給が極めて低く、多くの従業員が残業代で生活を成り立たせている。残業が止まれば生計が一気に崩れる脆い構造があり、「月2000元(約4万円)前後では一人暮らしすら困難」という訴えも多い。
抗議の事態を受け、会社側は補助金の増額や週末の一部残業再開を提示したが、従業員は「信用できない」と拒否し、復帰のめどは立っていない。
(従業員による抗議が続く現場の様子、2025年12月5日、広東省深圳市)
今回のストライキは、深センの一工場だけの問題ではなく、生活が成り立たない働き方が各地で広がる中で、多くの労働者が抱える不安と不満を象徴している。
一見すると巨大な経済の足元で、声なき労働者が積み上げてきた歪みが限界に達しつつある。中国の本当の姿は、華やかな映像ではなく、この現場の叫びにこそ表れている。
ネット上には「生活が成り立たない状況が続けば、行き場を失った不満が思わぬ形で噴き出すかもしれない」とする投稿もあり、労働者の置かれた厳しい現実への不安が静かに広がっている。
(大勢の警察が動員され、従業員の抗議が続く現場を警戒する様子、2025年12月5日、広東省深圳市)
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