中国では近年、「高収入の仕事がある」とだまして若者を東南アジアに渡航させ、現地で監禁し、暴行で従わせて詐欺を強要する事件が後を絶たない。
国連は、少なくとも30万人が人身売買によって東南アジアに送り込まれ、オンライン詐欺に従事させられていると推計する。規模はもはや犯罪集団の域を超え、産業化している。
米連邦捜査局は、これらの拠点を中国共産党が主導する組織犯罪ネットワークと位置づけ、司法省や国務省と連携して取り締まりを強化すると発表した。被害はアメリカだけで年間数十億ドル規模に達している。
タイ軍の摘発で明らかになったカンボジアの拠点内部には、偽の警察署を装う部屋、各国別に用意した詐欺台本、被害者の個人情報が大量に残っていた。建物には鉄格子を設置し、人身売買で連れて来られた人々を監禁していた事実も確認している。そこには日本人高齢者の銀行口座情報も含まれていた。
専門家は、これらの詐欺拠点の背後に中国共産党の影響力と資金の流れがあると指摘する。東南アジア各国が中国の圧力を意識し、強硬な対応に踏み込みにくい構図も指摘してきた。
詐欺に従事させられている被害者の多くは中国人だ。自国民を監禁、暴行し、犯罪を強要している。
それでも国内では、被害を告発する動画が削除される。
だからこそ怒りは広がる。
当局は本気で取り締まっているのか。
それとも、触れてはならない何かがあるのか。
「違反」とされた祖母の告発
中国・貴州省六盤水市。ある祖母は亡くなった息子に代わり、孫を育ててきた。2023年、中学2年生だった孫は「海外で高収入の仕事がある」と誘われ出国した。
だが送り込まれたのは東南アジアの詐欺拠点だった。逃げようとして暴行を受け、その後は消息不明となった。
2年戻らない孫を思い、2026年2月25日、祖母は涙を流しながら動画を撮った。
「返してほしい」
それが、ただ一つの願いだった。

動画の中で祖母は、孫を東南アジアへ誘い出した人物の名前と顔写真を公開した。警察への相談も続けてきたが進展はなく、世論に訴えるしかないと考えたという。
しかし、中国の動画アプリ「抖音(ティックトック)」はこの投稿を「他人のプライバシー侵害」と判断。表示を制限し、拡散を止めた。家族が異議を申し立てても、処分は覆らなかった。
この対応が伝わると、ネット上では疑問と怒りが一気に広がった。
なぜ被害者の告発が規約違反になるのか。
なぜ守られるのは加害者の「プライバシー」なのか。
消されるべきは、拡散され続ける「高収入」をうたう勧誘動画ではないのか。
なぜそれは残り、祖母の告発だけが消されるのか。
一方で、実名や顔写真の公開がプライバシー侵害に当たる可能性があるのも事実だ。誤認や私的制裁を防ぐため、プラットフォームが慎重になる理屈も理解できなくはない。
だが今回、家族はすでに警察に相談し、正式な手続きを踏んできた。それでも事態が動かない中で、祖母は最後の手段として世論に訴えたという経緯がある。
もし公的な救済が機能していれば、SNSに実名を出す必要はなかったはずだ。制度が動かない状況で、被害者側に残された選択肢は極めて限られている。
問題は単なる規約違反かどうかではない。
なぜ祖母は、ここまで追い詰められたのかという点にある。
公的機関が十分に機能せず、被害者が救われない状況が続けば、人々はやがて制度よりも世論にすがるようになる。
だがその最後の訴えさえ遮られるなら、残されるのは沈黙だけだ。
若者がだまされ、国境を越えて監禁される。
家族が助けを求めても届かない。
そして告発の声まで消される。
祖母は今も孫の帰りを待っている。
待つことしかできない時間が、今日も続いている。
「守られるべきは、いったい誰なのか」
これは類似事件の報道の下に、多くの人が書き残した言葉である。
そう、守られるべきは、いったい誰なのか。


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