日本ではクマが出るとニュースになる。だが中国東北部では事情が違う。現れるのはトラである。それも一度きりではない。ほぼ毎年のように、村に下りてくる。
3月22日、吉林省琿春市の村で、野生の大型トラが早朝の村の中をゆっくり歩く様子を確認した。監視カメラには、人を警戒する様子もなく、落ち着いた足取りで道路を進む姿が映っていた。まるで自分の縄張りを見回るかのような動きに、現実とは思えない不気味さがある。
だが、地元の人にとっては「見慣れた光景」でもある。これまでも牛や羊、犬などの家畜が襲われる被害が繰り返されてきた。今年だけでも複数の牛が被害に遭ったとし、「また来たか」という声が出るほどだ。
当局は爆竹や大音量のスピーカーで追い払う対策を取っているが、効果は長続きしない。住民にできるのは、柵を強化し、戸締まりを徹底し、できるだけ外に出ないようにすることくらいだ。「一人で出歩くな」という呼びかけは出しているが、それ以上の有効な対策は示してない。
なぜトラは人の暮らす場所まで下りてくるのか。背景には、山の中で餌となる動物が減っている可能性や、人の生活圏の拡大があるとみられている。つまり問題は、トラそのものではなく、人と自然のバランスが崩れていることにある。
本来なら決して交わらないはずの距離が、今は簡単に破られている。トラが村を歩くという異常な光景が、気づけば日常の一部になりつつある。
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