米中発表に食い違い 専門家が読む首脳会談の焦点

2026/05/15
更新: 2026/05/15

5月14日、北京で米中首脳会談が行われた。中国共産党(中共)官製メディアは、習近平が台湾問題をめぐって「警告」を発したと伝えたが、ホワイトハウスが公開した会談概要では台湾に一切触れられなかった。専門家は、中共が台湾問題を前面に出し、認知戦を仕掛けていると指摘する。米中間の根本的な対立は変わっていないという。

また、今回のトランプ米大統領の訪中では、貿易やイラン情勢、ホルムズ海峡をめぐる議題が重視されたほか、歓迎の形式や厳重な警備にも、米中間の駆け引きと不信感が表れたとの見方が出ている。

中共側は台湾問題を強調 米側会談概要は言及せず

中共中央テレビによると、トランプ米大統領と中共の習近平党首は5月14日午前から正午にかけて、北京の人民大会堂で会談した。会談は2時間以上に及んだ。

会談には、外交、国防、経済・貿易などを担当する双方の主要高官が参加した。米側はトランプ氏を含む11人、中共側は習近平を含む13人だった。

習近平は冒頭、米中関係について「協力すれば双方に利益があり、争えばともに傷つく」と述べた。一方、トランプ氏は「米中関係はこれまでになく良好なものになる」と語った。

新華社通信によると、習近平は会談で、台湾問題は米中関係の中で最も重要な問題だと主張した。適切に処理すれば両国関係は全体として安定を保てるが、処理を誤れば、衝突や対立に発展し、米中関係全体を極めて危険な状況に押しやることになると述べたという。また、「台湾独立」と台湾海峡の平和は相いれず、台湾海峡の平和と安定を守ることが米中双方の最大公約数だなどと主張した。

一方、ホワイトハウスが発表した会談概要では、台湾への言及はなかった。米側の発表は、イラン情勢やホルムズ海峡に集中し、経済協力にも言及した。

台湾国防安全研究院戦略資源研究所の蘇紫雲所長は大紀元に対し、台湾問題をめぐる米中間の対立は変わっていないと述べた。中共はこれまでも、台湾問題を米中関係の「最も重要で核心的な問題」と位置づけてきたが、今回も従来の主張を繰り返したにすぎないという。

蘇氏は、今回の会談では米中の核問題、イラン情勢、貿易問題も話し合われたと指摘した。そのうえで、中共は台湾問題を前面に出し、ほかの重要議題から世論の目をそらそうとしていると分析した。米側が詳細を発表する前に、中共側が一部の話題を先に公表し、世論を誘導しようとすること自体が、認知戦の手法だという。

蘇氏は、3つの米中共同コミュニケや「台湾関係法」などがあるため、台湾問題について過度に懸念する必要はないとの見方を示した。

米中首脳会談に先立ち、米下院の超党派議員らは5月13日、アメリカの長年にわたる対台湾政策を再確認し、台湾に対するアメリカの約束を外交交渉の「取引材料」にすべきではないと強調する決議案を提出した。この決議案は、「台湾関係法」、3つの米中共同コミュニケ、「6つの保証」が対台湾政策の基礎であることを改めて確認するものだ。

中国問題専門家の李林一氏は、中共軍上層部が習近平の主導で大規模な粛清を受け、軍内部の動揺は収まっていないと指摘した。習が冒頭で「協力すれば双方に利益があり、争えばともに傷つく」と述べたうえで、台湾問題で威嚇したことについて、表向きは強硬に見せているが、実際には弱さの表れだとの見方を示した。

米中首脳が会談する中、台湾外交部は、中国本土こそが台湾海峡の平和と安定にとって唯一のリスクだと表明した。また、アメリカなどと引き続き協力し、地域の平和と繁栄を守っていくと述べた。

米セントトーマス大学の国際研究講座教授、葉耀元氏はフェイスブックで、今回の会談について、双方は表向きには互いに配慮を示したが、実質的な協議では隔たりが大きかった可能性があると指摘した。首脳会談後に記者会見が開かれなかったことは、双方に共通認識がなかったことを示しているという。葉氏は、今回の会談について「華々しく始まったが、実質的な成果は乏しかった」と評した。

中共 貿易面で米国に譲歩か

新華社通信によると、習近平は非公開会議で、前日に行われた経済・貿易チーム間の交渉で、全体として均衡の取れた前向きな成果が得られたと述べ、米中経済・貿易関係の本質は互恵にあると主張した。

ロイターによると、事情に詳しい当局者は、今回の交渉について、トランプ氏と習近平が昨年10月に合意した貿易休戦を維持し、今後の貿易と投資を支える仕組みを構築することが目的だったと述べた。

これに先立ち、ベッセント米財務長官と中共の何立峰副首相は5月13日、韓国の仁川国際空港で第7回経済・貿易協議を行った。協議は約3時間続いた。

米中首脳会談後、中共商務省の何詠前報道官は、米側とともに、平等、尊重、互恵の原則に基づき、協力分野を広げ、対立点を減らしていきたいと述べた。

台湾国防安全研究院の沈明室研究員は大紀元に対し、トランプ氏の北京訪問における待遇や会談冒頭の発言からは、関係の安定を維持しようとする雰囲気が見られたと分析した。一方で、双方の発言には警告のニュアンスも含まれていたという。沈氏は、習の発言を見る限り、中共側がトランプ氏の貿易面の要求に一定程度譲歩した可能性があるとし、アメリカ製品の購入拡大などは、今回の会談である程度受け入れられた可能性があると述べた。

米中間では、貿易をめぐる対立も続いている。

今年2月、米最高裁はトランプ氏の世界一律関税を退けた。トランプ氏は、それでも関税を活用し続ける考えを示している。3月には、アメリカが中国産業に対し、新たな301条に基づく不公正貿易調査を開始した。4月には、中共国務院が関連部門に対し、「差別的措置」によってサプライチェーンに損害を与えたと認定された外国主体への対抗措置を取る権限を与えた。

同じく4月、アメリカはイラン産石油を購入した中国の製油所数社に制裁を科した。5月初めには、中共が「反外国制裁法」を発動し、この制裁に対抗したうえで、中国国内の関連企業に対し、アメリカの制裁に従わないよう通達した。

トランプ氏は訪中前、SNSに投稿し、中国に市場を「開放」するよう求める考えを示した。

約17人の米国財界トップが、トランプ氏の訪中に同行している。参加者は、テクノロジー、金融、半導体、航空宇宙、農業分野の企業幹部で、エヌビディアのジェンスン・フアン氏も最後の段階で訪中団に加わった。

台湾国防安全研究院の戦略専門家、鍾志東氏は、トランプ氏が大規模なCEO代表団を率いて北京を訪問し、さらに最後の段階でフアン氏を招いたことについて、アメリカからの購入を拡大させたい意図があると分析した。特に農産物を含むアメリカ製品の購入拡大を期待しているという。

中国問題専門家の陳破空氏は大紀元に対し、米中は貿易と関税交渉を主軸としているものの、実際には双方に別の思惑があると述べた。米中は戦略的競争相手であり、企業幹部団を同行させたとしても、アメリカが先端半導体に対する規制を緩めることを意味するわけではないという。中共の軍事力強化につながることは、アメリカの利益だけでなく、人類全体と世界の利益を損なうことになると指摘した。

時事評論家の蔡慎坤氏も、財界人は短期的な利益を重視しがちだと指摘した。中共のような全体主義体制の下では、政権との関係次第で大きな利益を得やすいという。こうした財界の大物たちは、かつて中共を通じて巨額の利益を得てきたが、現在、中共の政策はすでに変化している。蔡氏は、商人は自分たちが中国でさらに利益を得られるかどうかを重視し、中国の将来が政治的民主化に向かうのか、国際社会と歩調を合わせるのかには関心を払っていないと述べた。

米側は中東問題を重視 中共側発表は簡潔に言及

トランプ氏の中国訪問は、アメリカとイランの停戦合意が発効し、ホルムズ海峡が閉鎖されている時期と重なった。イランは中共にとって、中東で重要な関係国だ。

中共機関紙「人民日報」が発表した会談概要では、中東問題について「両国首脳は中東情勢、ウクライナ危機、朝鮮半島などの重大な国際・地域問題について意見を交換した」と述べるにとどまった。

一方、ホワイトハウスの会談概要では、イラン情勢とホルムズ海峡問題に多くの部分が割かれていた。

NBCによると、ホワイトハウス当局者は、「双方は、エネルギーの自由な流通を保障するため、ホルムズ海峡の自由な航行を維持しなければならないとの認識で一致した」と述べた。習近平も、中国はホルムズ海峡の軍事化や、同海峡の通行に料金を課そうとする動きに反対すると明言したという。また、将来的にホルムズ海峡への依存を減らすため、アメリカ産石油をさらに購入する意向を示したとされる。さらに、両国はイランが核兵器を保有してはならないという点でも一致したという。

5月11日、米財務省は3人の個人と9社に制裁を科すと発表した。その中には、香港に拠点を置く4社、アラブ首長国連邦に拠点を置く4社、オマーンに拠点を置く1社が含まれる。これらの企業がイランによる中国向け石油輸送を支援したためだという。

トランプ氏は訪中に出発する前、イラン情勢について習近平と長時間話し合う考えを示したが、イラン問題で習の支援が必要ではないと述べた。

NBCによると、ホワイトハウス当局者はさらに、トランプ氏と習近平が、フェンタニル前駆体のアメリカ流入を阻止する面で得られた進展を定着させる必要性や、中国によるアメリカ農産物の購入拡大についても協議したと述べた。

また、米中首脳会談に先立ち、米政界関係者、学者、専門家、人権活動家などから、トランプ氏に対し、人権、信教の自由、越境弾圧などの問題を習近平に直接提起し、拘束されている中国の政治犯の釈放を求めるよう呼びかける声が相次いだ。

米下院は5月13日、414対0で決議を可決し、トランプ氏が習近平と接触する際、中共によって不当に拘束されている良心の囚人の釈放を優先課題とするよう求めた。

トランプ氏訪中 歓迎の格と厳戒警備に注目

トランプ氏が搭乗した大統領専用機エアフォースワンは、5月13日午後7時50分ごろ、北京首都国際空港に到着した。中共の韓正国家副主席、馬朝旭外務次官、謝鋒駐米大使が空港で出迎えた。トランプ氏はその後、宿泊先の北京フォーシーズンズホテルへ向かった。ホテルの外には数百人の市民が集まっていた。

陳破空氏は、韓正が空港でトランプ氏を出迎えたことについて、最高レベルの接遇だと述べた。また、少年少女に花束を持たせ、「歓迎、歓迎」と叫ばせる演出も行ったと指摘した。中共側がトランプ氏に最大限配慮する姿勢を示したという。

さらに陳氏は、トランプ氏が中国訪問に国防長官を同行させたことについて、アメリカが敵視する勢力に対していつでも対応できる態勢を示すもので、中共に対する心理戦でもあるとの見方を示した。

陳氏は、今回の北京訪問では、米側の警備が前例のないほど厳重だったとし、これは米中双方の極度の不信感と、大きな潜在的対立を示していると述べた。今回の会談には、関係の悪化や偶発的衝突を避ける狙いが大きいという。

NBCによると、トランプ氏は5月14日午後、天壇を訪問した。その際、中共側の警備員が、米シークレットサービスの武装要員1人に対し、武器を携行して入場することを拒否したため、双方が一時対立した。この影響で、トランプ氏に同行していた記者団の天壇での取材活動は30分遅れた。

唐兵
駱亜
中国語大紀元の記者、編集者。