米海軍 超長距離ミサイルで太平洋の制空網を再構築

2026/08/29
更新: 2026/08/29

米海軍は、新世代の超長距離空対空ミサイルの開発を加速している。太平洋戦域の航空戦力バランスを大きく変える可能性がある。

アメリカと中国共産党(中共)が航空優勢をめぐって競うなか、この新兵器は米軍が優位を確保するうえで大きな意味を持つ可能性がある。同時に、新たな空からの脅威に対応するため、米軍が戦術・技術面の不確実性を減らそうとしていることも示している。

射程460キロの「マリス」

8月22日、米海軍はネバダ州リノで開かれた「テイルフック(Tailhook)」シンポジウムで、新型の超長距離空対空ミサイルの飛行試験を開始したと発表した。

新型空対空ミサイルAIM-424「マリス(Malice)」は、F/A-18E/F「スーパーホーネット」とF-35C「ライトニングII」への搭載を想定している。最大射程は460キロメ-トル。

米海軍にとっては、2年前のAIM-174B「ガンスリンガー」以来、艦隊防空・迎撃能力をさらに大きく高める動きとなる。

AIM-424は、レイセオンが主にステルス戦闘機向けに開発した超長距離空対空ミサイルで、2段式ロケットブースターを採用する。重量は約680キログラム、全長4.11メートル、直径約135ミリとされる。

弾体設計はAIM-174Bと大きく異なる。AIM-174Bは全長4.7メートルあり、「スーパーホーネット」など第4世代戦闘機の主翼下に搭載する。

一方、AIM-424はF-35Cの約4.27メートルある機内兵器庫に収納できるため、F-35Cはステルス性を維持したまま敵の防空網が強固な空域に進入し、超長距離空戦に参加できる。

米国防総省が公開した情報によると、こうした設計は、ステルス戦闘機が敵の防空網を突破して戦う能力を高める狙いがある。

米海軍はこれまで、AIM-424の開発計画を正式には公表していなかった。その技術的な起源は、米軍が2015年前後に進めていた「長距離交戦兵器(LREW)」研究計画にある可能性がある。

米国防総省は2017年、LREWの概念研究について、設計、エンジニアリング、キルチェーン分析などの技術検証を終えたと明らかにしている。

AIM-424がこの計画を基礎としているのであれば、開発は約10年にわたって続いてきたことになる。

計画の進捗を知る米当局者によると、AIM-424専用のネットワーク関連システムの開発チームは2026年初めに作業を開始した。超長距離で運用するための専用データリンクも開発しているという。

現在までにF/A-18Eを使った飛行試験と、F-35Cの機内兵器庫への適合試験を終えている。今後はF/A-18、F-35Cのほか、米海軍の次世代戦闘機F/A-XXや、米空軍の次世代戦闘機F-47への搭載も想定されている。

AIM-424は2027年に配備が始まり、2028年ごろに実戦運用能力を獲得する可能性があるとの見方もあるが、現時点で公式な確認はない。

「マリス」の姉妹ミサイル「ガンスリンガー」

米海軍が超長距離空戦に取り組むのはAIM-424が初めてではない。

2024年7月の環太平洋合同演習「リムパック」でAIM-174Bが初めて公になり、米海軍は2025年に「ガンスリンガー」と命名、2026年から配備を始めた。

AIM-174Bは、レイセオン製の艦対空ミサイル「スタンダード・ミサイル6(SM-6)」を空中発射型に改修したもので、すでにF/A-18E/F「スーパーホーネット」への搭載が実現している。

米海軍は主要性能を公表していないが、SM-6そのものの射程から判断すると、AIM-174Bの最大射程は少なくとも400キロメートルに達するとみられる。

AIM-174Bは、AIM-424が実用化されるまでの間を埋める役割を担う。

中共がPL-15やPL-17など長距離空対空ミサイルの開発を進めるなか、米海軍にとってAIM-174Bは、西太平洋の航空戦力バランスを維持するための重要な手段となっている。

西太平洋で重要性増す「ガンスリンガー」と「マリス」

米海軍がAIM-424とAIM-174Bの開発を積極的に進める背景には、西太平洋の航空戦力バランスが急速に変化していることへの強い警戒がある。

この十数年、中共空軍が配備するPL-15空対空ミサイルは、射程面で米軍のAIM-120Dを上回るとされてきた。

近年、中国の軍需産業は空対空ミサイルの改良を続け、PL-15を小型化したPL-16のほか、2022年には射程400キロメ-トル超とされる大型空対空ミサイルPL-17も明らかになった。

国際戦略研究所(IISS)は2020年4月の報告書で、中共のJ-20戦闘機について、機内兵器庫にPL-15を4発、またはPL-16を6発搭載できると指摘し、米軍が長年維持してきた航空優勢への新たな脅威になるとの見方を示した。

米国はAIM-260「統合先進戦術ミサイル(JATM)」の試験と初期配備を急いでおり、2026年5月には搭載試験の映像も公開した。

しかし、射程面でPL-15を明確に上回るわけではないとされる。

このため、見通し外射程(BVR)での空戦能力をめぐる米国と中共の競争では、優劣はいまだ明確になっていない。

「マリス」と「ガンスリンガー」の登場によって、米海軍はこの射程差を埋め、超長距離空戦で優位に立つための有力な手段を手にしつつある。

戦闘機のレーダーより遠くを攻撃するミサイル

従来の空戦では、戦闘機は自機の火器管制レーダーを使い、目標の捜索、識別、追尾、ロックオン、攻撃までを一貫して行うことが基本だった。

しかし、こうした方式だけでは現代の空戦に対応しきれなくなっている。

AIM-424が象徴する超長距離空戦では、「兵器がどこまで届くか」と「発射する戦闘機自身がどこまで探知できるか」を切り離して考える。

発射母機以外のセンサーから目標情報を受け取ることで、ミサイルは戦闘機自身のセンサー探知距離を大きく超える範囲で交戦できる。

AIM-424の最大射程は、戦闘機に搭載されたレーダーの一般的な探知距離を大きく上回る。この距離で「発見、識別、追尾、照準、誘導、撃破」までを完結させるには、複数のセンサーを分散配置したネットワークが必要になる。

艦艇や早期警戒機、前方展開するステルス戦闘機、「ロイヤル・ウィングマン」と呼ばれる無人機、地上配備の超水平線レーダー、将来の宇宙配備レーダーなどを活用し、目標の発見から追尾までに必要な情報を生成、共有する仕組みである。

ミサイルの中間誘導段階では、外部センサーが目標の最新位置情報を継続してミサイルに送る必要がある。

ミサイルが標的に接近して自身のアクティブレーダーを作動させるまで敵機に察知されないままであれば、警報が出た時点では回避に使える時間がほとんど残されていない可能性がある。

超長距離空対空ミサイルをめぐっては、米海軍と米空軍で異なる開発方針が見えている。

両軍はAIM-260を共同開発しているが、海軍はそれに加えて、さらに射程の長いAIM-174BとAIM-424を相次いで公にした。

一方、空軍は関連情報の公開を控えている。

米空軍の装備開発計画を見ると、現在は第6世代ステルス戦闘機F-47とロイヤル・ウィングマンに多くの資源を投入し、機体性能の向上で兵器の射程面の不利を補おうとしている。

これに対し、米海軍の第6世代戦闘機F/A-XXは開発が遅れている。新型機の装備が遅れる可能性があることも、海軍が既存戦闘機に長射程兵器を早期装備しようとする理由の一つと考えられる。

太平洋戦域の広大な作戦空間と戦力バランスも、米海軍が超長距離空対空ミサイルを必要とする大きな理由だ。

中共空軍は現在、巡航ミサイルや対艦弾道ミサイルを発射できるH-6系列の爆撃機に加え、大型空中給油機や各種早期警戒機を保有している。米海軍は、中共の戦闘機の能力向上に加え、長距離爆撃機と対艦兵器を組み合わせた飽和攻撃が、米空母打撃群に直接的な脅威を与えるとみている。

大量に飛来する敵のミサイルを防空圏内で逐次迎撃する方法は、効率が悪く、リスクも大きい。

より効果的なのは、敵の爆撃機が兵器を発射する前に撃墜することだ。

AIM-424は、米海軍にこうした遠距離迎撃能力を与える兵器と位置付けられる。

「ガンスリンガー」と「マリス」の相次ぐ登場により、米海軍は太平洋上空に、これまでより広い範囲をカバーする防空・迎撃網を構築しようとしている。特にステルス戦闘機と超長距離空対空ミサイルの組み合わせは、将来の空戦に新たな交戦形態をもたらす可能性がある。超長距離空戦能力をめぐる競争では、米海軍が一歩先行している。

この記事で述べられている見解は著者の意見であり、必ずしも大紀元の見解を反映するものではありません。
夏洛山
大紀元時報(中国語)記者。長い従軍経験があり、軍事番組「Military Focus」を主宰する。