「前は、いつでも臓器があったんです」そう語る中国の男性の声は、どこかひそやかであった。
中国では長年、大きな病院に行けば臓器移植が比較的早く受けられると言われてきた。ところが最近になり、その「当たり前」が急に崩れ始めている。
肝臓、腎臓、心臓。必要としても「順番が来ない」「いつになるかわからない」と言われる患者が各地で急増している。以前なら考えられなかった状況である。
背景にあると指摘されているのは、ミャンマーやカンボジアの詐欺拠点が摘発された後、「臓器の提供者が減ったためではないか」という見方である。この時期と前後して、中国国内では若者の失踪が増えていると感じる人も多いという。
二つの出来事があまりにも同じ時期に起きていることに、人々は言葉にできない違和感を覚えている。
山東省の男性は、周囲で行方不明になる若者が目立つようになったと感じているという。警察から詳しい説明もなく、公式な数字も公表されていない。「みんな、わかっている。でも誰も大声では言わない」と彼は語った。
腎不全を患った女性は、地元では腎臓が見つからず、遠く離れた南方の病院で多額の金(日本円換算で数百万円)を支払い移植を受けた。「どこから来た腎臓なのかは聞かされなかった」という。手術後の体調は安定せず、今も不安を抱えながら暮らしている。
別の女性患者は、移植という選択肢そのものを恐れている。臓器の出どころがわからず、説明を求めても「それ以上は聞かないほうがいい」という空気が漂う。そのため、彼女は一生続く透析を選んだ。
心臓病を患った若い男性は、移植を待てず人工心臓を装着した。電源につながれたまま、重い機械を抱えて生きる生活を送っている。「本物の心臓があれば、こんな生活をしなくて済むのに」その言葉には、諦めにも似た響きがあった。
こうした中、1月28日、北京の軍系病院(301病院)が地方の子供(0歳~18歳)を対象に、無料の心臓検査を実施するという情報がネット上で拡散した。
一見すると善意の医療支援に見えるこの取り組みに対し、ネット上では別の見方も広がった。この病院が、高官のために適合する臓器提供者を探しているのではないかという疑念である。
それが事実かどうかは確認されていない。しかし、中国では臓器移植の仕組みも、失踪者の実態も十分に公開されていない。だからこそ、人々は説明のない出来事同士を結びつけ、不安を膨らませていくのである。
誰が消え、誰が臓器を待ち、どこから臓器が来るのか。それが見えない社会では、恐怖は噂として静かに広がり続ける。
この「わからなさ」が、いま中国で生きる人々の背中に、冷たい影を落としている。
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