このところの中国共産党(中共)による一連の外交・軍事動向は、西太平洋における核威嚇の様相を意図的に高め、新たな核軍拡競争を誘発せんとする狙いを露わにしている。これに対し米国は、太平洋地域における戦略的安定を確保すべく、核の三本柱(トライアド)の近代化を加速させている。
太平洋の戦略均衡を揺るがす二つの動き
先月6日、南シナ海海域において、中共海軍の094型原子力潜水艦一隻が、太平洋に向けて潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)一発を発射した。同ミサイルは模擬弾頭を搭載し、複数の主権国家・地域の上空を横断しつつ約7300キロメートルを飛翔、最終的に南太平洋の非核地帯に落下した。
発射されたのは、近代化された「巨浪(JL)3」大陸間弾道ミサイル(ICBM)とみられる。中共の海洋発射核打撃能力の増大を誇示する狙いがあったと推測され、潜水艦発射弾道ミサイルを国際公海に向けて発射したのは、中共として今回が初めてとなる。この試射は、中ロ海軍合同演習の直前、かつNATO首脳会議の開催直前というタイミングで実施されており、明白な示威的意図がうかがえる。
英シンクタンク「国際戦略研究所(IISS)」の分析によれば、巨浪3型の射程は、094型原潜が第一列島線を突破せずとも、南シナ海海域から米国本土を射程に収めることを可能にするという。こうした海洋発射能力の拡張は、これまで数十年にわたり維持されてきた核態勢の相対的均衡を突き崩すものであり、米国及びその同盟国の間で、西太平洋における戦略均衡への懸念を強めている。
さらに今年6月、習近平が平壌を訪問した際、中朝双方の公式声明において「朝鮮半島の非核化」への言及が一切なされなかった。これは2019年当時とは対照的である。習の訪朝は、対米牽制を念頭に置いた中朝戦略協力の強化に主眼が置かれ、北朝鮮の核放棄を促す姿勢は示されなかった。
習近平の平壌到着前日、金与正は北朝鮮の核保有国としての地位は「不可逆」であると公言し、いかなる非核化要求も拒絶する意向を示していた。こうした状況下で行われた習の訪朝であったにもかかわらず、会談後に発表された中朝の内容には非核化への言及が全く見られなかった。
これは、中共が事実上、北朝鮮の核保有の現状を黙認したことを示唆するものと言えよう。
これは、朝鮮半島の非核化問題における中共の重大な政策転換であり、対米牽制の戦略的緩衝地帯として北朝鮮を位置づけようとする意図の表れである。核兵器の拡散及び周辺国の核保有問題に対する中共最高指導部の意図的な沈黙、あるいは黙認とも言うべき姿勢は、西太平洋地域全体における核威嚇態勢の実質的な悪化を招いている。
中共の海洋核戦力 国際社会に懸念広がる
094型原潜は、中共海軍が保有するミサイル原潜の中でも、騒音が著しく大きく、音響的特徴が顕著であり、静粛航行能力において明らかな技術的劣位にある艦とされる。
こうした潜水艦から、射程1万キロに達する弾道ミサイルが太平洋の非核地帯に向けて発射され、ルソン島北部、日本、パラオ、北マリアナ諸島、マーシャル諸島、ミクロネシアの上空を通過し、フィジーを目標としたとされる。
国際社会では、こうした係争地域・主権国家・地域の上空を意図的に横断する行為を非難する声が広がっており、それが引き起こす危機は、米国及びその同盟国の高い警戒を呼び起こすに十分なものである。
中共当局は今回の実弾発射を通じ、自国の海洋核戦力が戦略的投射能力を備えたことを対外的に誇示したとみられる。戦略国際問題研究所(CSIS)の分析は、戦略核ミサイルを直接国際水域に撃ち込むという行為が、既存の大国間行動規範及び長年培われてきた国際的な暗黙の了解を破壊するものであると指摘する。
中共のこの行動には、自国の海洋核反撃能力がもはや近海防御の範疇にとどまらず、北米大陸に対して脅威を及ぼし得る段階に至ったとのメッセージを米国に送る意図があるとみられる。
西側諸国が懸念するのは、中共が核3本柱の完備を図るのみならず、核大国としての地位を急速に高めている点である。近年、中共の核弾頭保有数は約600発に達し、その増加速度は極めて速い。2030年までに約1000発、その後1500発規模にまで達する可能性があるとされる。
西側の論評によれば、中共の潜水艦部隊が騒音の大きさや顕著な信号特徴という技術的劣位を抱え、米国と比較して規模も大幅に劣るにもかかわらず、これを核三本柱に組み込み、潜水艦発射弾道ミサイルの能力を性急に誇示しようとする姿勢は、いわゆる軍事的優位の確立のためには手段を選ばない中共の姿勢を示すものだという。
米国防総省は、近年の中国軍事力報告書において、中共の核政策、核戦略及び核戦力整備における透明性の欠如について繰り返し警告を発しており、これが対外的な能力・意図の評価をより一層困難にし、戦略的不確実性を大きく高めていると指摘する。
米 核3本柱の刷新を加速
これに対し、米国はオハイオ級潜水艦の後継として、より先進的なコロンビア級原子力潜水艦の建造を加速させている。海洋核戦力刷新の象徴たるコロンビア級は、今後数十年にわたり米国の海洋核抑止任務を担う存在であり、核3本柱の中でも最も秘匿性が高く、敵対勢力による追尾・撃破が最も困難とされる要素である。
2030年から2031年にかけて艦隊に正式編入され、実戦哨戒任務に就く見通しである。この時期の重要性は、中共及びロシアに対する継続的な戦略的抑止の維持にある。
コロンビア級は、先進的なX字尾翼、全電気推進システム、新型原子炉、そして極めて低い信号特徴を備え、いかなる海域においても敵目標に対する破壊的打撃能力を保持し続けることで、いかなる敵対国家による核攻撃の企図をも打ち砕くことを企図している。
中共の094型潜水艦と比較すれば、コロンビア級は静粛技術及び水中生存能力において世代を超えた絶対的優位性を有しており、これが米国の第二撃能力における主導権を確固たるものとしている。米海軍が本計画を最優先事項として位置づけていることは、深刻化する西太平洋の安全保障環境への直接的対応にほかならない。
同時に米国は、核3本柱のもう一つの柱である空中核打撃力の強化にも注力しており、その代表格が爆撃機「B-21」である。国防総省はB-21計画の加速を推進しており、同機は前例のない高度なステルス性能と先進的な推力管理システムを備え、高強度対抗環境下での生存性を確保しつつ、先進的なスタンドオフ精密攻撃兵器を搭載可能とする。
プラットフォームの侵徹能力と兵器の長距離精密打撃能力の相乗効果により、この通常戦力・核抑止力を兼ね備えた空中戦力はほぼ迎撃不可能とされ、戦略均衡維持における重要な戦力として位置づけられている。B-21計画は現時点まで順調に進展しているとされる。
大陸間弾道ミサイルの分野では、国防総省が老朽化した「ミニットマンⅢ」システムの後継として「センチネル」計画を全面的に推進しており、その戦略的重要性は代替不可能なものとされる。
国防総省は同計画の実戦配備を軌道に乗せるべく、組織体制の再編を進めている。「センチネル」は、モジュール式設計と先進的誘導技術を採用し、比類なき即応性と打撃精度を提供するとされる。
これにより米国は、突発的な核危機や敵対勢力による先制攻撃という極限的事態においても、最も信頼性が高く、生存性に優れた地上発射型反撃手段を確保することになる。
米政府が核三本柱の全面刷新をこれまでにない速度で推進している背景には、中共とロシアの双方に対して新たな核抑止態勢を同時に構築する必要性を認識したことがある。中共による潜水艦発射弾道ミサイルの試射という事実は、米政府のこうした先を見据えた対応が、現実的な必要性に基づくものであることを裏付けている。
中共による地域不安定化と核による威嚇
模擬核弾頭を搭載した大陸間弾道ミサイルを南太平洋の非核地帯に撃ち込んだ今回の中共の行動は、核拡散防止条約(NPT)の基本精神を踏みにじるものでもある。事前通告も透明性も欠き、軍事的挑発性を帯びたこの一方的行動は、周辺国との戦略的信頼関係を損ない、太平洋地域における核抑止均衡の一層の脆弱化を招くことになるとみられる。
国際社会はこれまで北朝鮮の核保有国としての地位を一貫して認めてこなかった。中共が外交面において北朝鮮の核保有の現状を黙認したことは、北東アジアの安全保障均衡をさらに変質させるものである。長年にわたり朝鮮半島の非核化は国際社会の共通認識であり、地域安全保障分野における米中間の数少ない協調基盤の一つであった。
今回の中朝声明がこの共通認識をあえて無視したことは、核保有国となった北朝鮮を、米国及びその地域同盟国に対する牽制勢力として位置づけようとする中共の意図を示すものであり、朝鮮半島の非核化をより一層困難にするとともに、米国の太平洋地域への関与に伴うコストとリスクを客観的に増大させるものである。
中共は、既存の国際戦略枠組み及び安全保障秩序の変更を図り、核戦力を地域の戦略的構図を再編するための手段として位置づけようとしている。中共によって太平洋の核抑止均衡は崩され、新たな核軍拡競争はもはや不可避の様相を呈しつつある。
しかしながら、依然主導権を握り続けているのは米国である、という点もまた否定し難い事実である。
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