習近平のジョークとビスマルク戦略

2023/04/15
更新: 2023/04/15

軍事演習は恫喝

習近平は台湾とアメリカの接近を許さないから人民解放軍の軍事演習で恫喝した。人民解放軍の軍事演習は3日間続き台湾を包囲する動きで習近平の意志を伝えた。さらに習近平は人民解放軍海軍に対して実戦を想定した訓練を強化するように発言。習近平はアジアの安定を無視した発言を隠さない。
 

習近平のジョークとビスマルク戦略

中国は台湾周辺での軍事演習が終わるとジョークを披露した。“5000年に及ぶ中華文明は常に平和と協調を希求し、その精神は中華民族の精神に深く根ざしている”とコメントしているが、国際社会では国家体制が変わると過去の国家体制とは別物として扱われる。実際に今の中国の建国は1949年になっているので過去の5000年の歴史は含まれないのが現実。

簡単に言えば今の中国による歴史の乗っ取りだからジョークに該当する。だがこれだけでは終わらず強烈なジョークも用意されていた。“習近平は「中国は平和的発展の道を堅持する」「中国が覇権を求めることは永遠にない」と強調している。中国は平和的発展の道を堅持することを憲法に明記しており、確固たる決意を示している”としているが、実際は人民解放軍の軍事強化と軍事演習で覇権拡大を続けている。中国は日本の領土である尖閣諸島の主権まで主張しており、さらに人民解放軍海軍に戦争を前提とした訓練強化を訓示しているので真逆のことを言っている。

一番強烈なジョークは、“中華人民共和国の建国以来、中国は紛争を起こして他国の土地を占領したり、集団軍事行動に参加したりしたことはない”とのコメントだ。今の中国は1949年に建国したが、チベット・東トルキスタンに侵攻して占領した事実を無視している。さらにベトナムと中越戦争(1979)まで無視するのだから驚きだ。

南シナ海に人工島を建設し人民解放軍の基地を置いていることも無視するのだから、中国のジョークの連発に驚かされる。だがこれらはビスマルク戦略と見なせば中国の狙いは明らか。それは近い将来始まる戦争宣言なのだ。そこでビスマルク戦略を説明したい。

ビスマルク戦略を簡単に言えば軍備増強は外国に脅威を与えないと誤魔化す戦略。ビスマルクは1862年に、「鉄(大砲)と血(兵士)がなければドイツ連邦の融和はない」としてウイルヘルム一世(プロイセン)の首相兼外相になり軍備を強化した。すると周辺諸国のデンマーク・オーストリア・フランスはプロイセンの軍備増強に脅威を感じて反発する。周辺諸国の反発に対してビスマルクは次の様に説明した。

「プロイセンの軍備増強はドイツ連邦の安全のため」

ビスマルクは他国への侵攻ではなくドイツ連邦の安全のためと称したが、2年後からデンマーク・オーストリア・フランスと戦争して勝利した。この戦争で勝利するとドイツ連邦はドイツ帝国(初代皇帝ウイルヘルム一世)に変わる。

習近平が求めるもの

歴史を見ると類似のパターンが存在する理由は、人間が求める方向性は国が異なっても同じなのだ。だから過去のパターンを現代でも確認できる。習近平は中国の覇権拡大と人民解放軍を使った軍事侵攻を考えているが可能な限り誤魔化したい。警戒されたら困るからビスマルク戦略を用いて誤魔化している。

何処の国でも自国の国防をするからビスマルク戦略を容易に否定出来ないのが現実。NATOは集団的自衛権であり防御限定の組織で、NATOに加盟していない国が侵攻した時に加盟国が団結して戦うことが目的。だからNATOからは加盟していない国に侵攻しない。この場合の国防強化が有るがビスマルク戦略との区別は難しい。

習近平が求めるものは中国共産党を頂点とした世界。これは今の強国であるアメリカを倒すか国力で超えれば実現する世界。この現実の達成は難しいが習近平は邁進しているとしか思えない。

中国は建国後にチベット・東トルキスタンに侵攻して併合した。これで中国は、“紛争を起こして他国の土地を占領したり、集団軍事行動に参加したりしたことはない”と言い切っている。こうなると人民解放軍に占領された土地・国は中国の領土となり侵攻も無かったことにされることは明らか。これがロシアにも適用される可能性も出ている。

さらに習近平はロシアの弱体化を喜びロシア経済の支配を目論んでいる。ロシアはウクライナに侵攻したが勝つどころか勝利が見えない。さらに欧米からの経済制裁でロシアから欧米企業が撤退した。しかも地下資源の輸出すら規制されたので売り先が激減。そんな時に中国企業がロシア市場に進出しロシアの地下資源を買う様になった。

輸入も輸出も一国に限定すると内政干渉を受ける。だから複数の国と貿易を行い一国の依存度を下げるのが基本。食料輸入を一国に依存すると輸入国は輸出国に胃袋を支配されるから生殺与奪権を輸出国が持つことになる。そうなると食料価格なので内政干渉を行なうのは明らか。

これは輸出でも同じで、輸出先が一国しかないなら輸入国の気分次第で内政干渉を受けるのは明らか。実際にロシアは天然ガスを低価格でヨーロッパに売った。そしてヨーロッパが低価格のロシア産天然ガスに依存したら本性を剥き出しにしている。これでヨーロッパは苦労したが、ロシアによるウクライナ侵攻を見てロシア産天然ガスを放棄している。

皮肉なことにロシアがしたことを今度は中国がロシアに対して実行している。ロシアとしては有望な海外市場は中国だけなので中国への依存度は高い。ロシアの外貨獲得と生産を中国企業に依存しているなら、ロシアは“中国の経済的植民地”になると推測されたのだ。

 

北朝鮮は中国の駒ではないのか?

北朝鮮は日本海に向けて何度も弾道ミサイルを発射しているが、アメリカはトランプ大統領時代の約束を反故にする行為だが無視している。しかも北朝鮮は新型の固体燃料を使うICBMだと発表してもアメリカは無反応。

北朝鮮は瀬戸際外交でアメリカから何度も食料と金を獲得した。アメリカとしては北朝鮮との戦争はコストが合わないから瀬戸際外交に参加したが、トランプ大統領時代に無視することで対応できることを証明した。これで今のバイデン大統領も無視を選んでいると思われる。

だがアメリカは北朝鮮の火遊びを無視しなければならない別の問題も発生している。ロシアがウクライナに侵攻するまでは、中国としてはアメリカが北朝鮮を占領することを嫌っていた。なぜならアメリカ軍が北朝鮮を占領すると中国の首都北京はアメリカ軍の射程圏内。アメリカ軍は北朝鮮をジャンプ台にして北京まで侵攻できるから嫌っていた。だがロシアのウクライナ侵攻から状況が変わった。

今のアメリカ軍は北朝鮮に侵攻すると簡単に勝利できる。だがアメリカ軍は北朝鮮を占領すると隣国ロシアと直接対峙する。こうなるとヨーロッパと北朝鮮でロシア軍と対峙する二正面作戦になるので回避したい。しかもNATOがロシアと戦争になればアメリカ軍は二正面作戦で損害を出すことは明白。

さらに、中国は北朝鮮を支援してゲリラ戦でアメリカ軍に挑ませることも明白。アメリカ軍はロシア軍と戦闘している時に占領地の北朝鮮でゲリラ戦を行われたら大迷惑。しかも人民解放軍の目の前で戦闘するから戦闘要領・損害などを隠せない。リアルタイムで人民解放軍の情報となるからアメリカ軍としては今の北朝鮮に侵攻できないのが現実。中国から見れば今の北朝鮮はアメリカ軍を苦しめる道具になるので、北朝鮮を支援して弾道ミサイルを発射させていると見るべきだ。端的に言えば北朝鮮を噛ませ犬にしてアメリカ軍を北朝鮮まで侵攻させたいのだ。

 

主導権を中国に握られている

ロシアがウクライナに侵攻してから状況が変わった。それまではアメリカが主導権を持っていたが今では中国が主導権を持っている。こうなったのはプーチン大統領の失策が原因。結果的だが習近平は漁夫の利を得ているからこの好機を最大限活かすのは当然だ。

習近平は選択肢が多いので北朝鮮とアメリカを戦争させてアメリカの弱体化を行なうか、それとも日本を踏み台にして在日米軍と戦うことも選べる。なぜなら日本の政治家の多くが国防を軽視しているから、一部の島が人民解放軍に占領されても反撃を禁止する可能性すら有る。

日本の政治家が外交で解決すると言い出したら日本の国土に人民解放軍が居座り在日米軍すら動けない。日本は北朝鮮に拉致された国民すら救出しないのだから、一部の島が占領されても戦争回避を名目に奪還作戦を放棄することは有り得る。こうなると習近平のビスマルク戦略は成功することになる。この予測を日本の政治家を見て否定できますか?

 

この記事で述べられている見解は、著者の意見であり、必ずしもエポックタイムズの見解を反映するものではありません。
 

戦争学研究家、1971年3月19日生まれ。愛媛県出身。九州東海大学大学院卒(情報工学専攻修士)。軍事評論家である元陸将補の松村劭(つとむ)氏に師事。これ以後、日本では珍しい戦争学の研究家となる。
関連特集: オピニオン