中国・四川大地震15周年 「手抜き工事」の責任追及もなく、遺族には「口封じ」する当局

2023/05/16
更新: 2023/05/26

今から15年前の2008年5月12日。現地時間の14時28分に、中国四川省の汶川県を震源とするマグニチュード8.0クラスの巨大地震が発生する。

甚大な被害を出した四川大地震から15年を数える今年も、人的被害を拡大させた建物の手抜き工事、いわゆる「おから工事(豆腐渣工程)」の問題も含めて、その責任を問う声は続いている。しかし、震災悲劇の風化を願う当局は、震災で子供を亡くした親たちの「口封じ」に躍起になっている。

犠牲者の実数は「いまだ不明」

この地震による犠牲者数は、中国の公式な数字としては「約7万人が死亡。約1万8千人が行方不明」とされるが、あまりにも甚大かつ広範囲にわたる被害であるため、政府も実際の数を把握できず、また政治的意図により発表もされていない。そのため、その正確な数は「公式発表を上回る」と見るしかない。

今年5月12日で震災から15年が過ぎた。中国政府は、15年の復興を「党による成果」として盛んに宣伝している。しかし、約7万人の死者のうち、1万9千人ともいわれる児童生徒が犠牲になった校舎倒壊について、その主な原因とされる「手抜き工事」への言及はない。

震災から15周年を迎えるにあたり、ネット上では「手抜き工事」への責任追及や消えた巨額の義援金の行方(関係者の懐に入ったか?)などについて、政府の対応を問う声が再び高まっている。

いっぽう政府は、この震災の被害を拡大させた原因が「手抜き工事」を代表とする社会の腐敗構造にあり、これがまさに「人災」であることに批判が向くのを恐れて、とくに震災で子供を亡くした親たちの「口封じ」に躍起になっている。

震災後、中国政府は被災地を「愛国教育」の拠点として活用するとともに、倒壊した建物を保存して被災地の観光地化を進めてきた。

今年も、地震で倒壊した校舎などが残されている、震源地である四川省汶川県の「震災遺跡」では、地元政府の幹部による追悼式典が行われた。しかし、実際に子供や家族を亡くした遺族は入場を止められた、とする報道もある。

「手抜き工事」最大の犠牲者は子供たち

震災当時、付近の民家は大きな被害を受けなかったにもかかわらず、多くの小学校や中学校の校舎がパンケーキ現象を起こして全壊。大勢の児童や生徒が、一瞬にして犠牲となった。

数年前にできたばかりの新しい小学校まで倒壊した原因は、コンクリートにほとんど鉄筋が入っていない「おから工事(豆腐渣工程)」と呼ばれる「手抜き工事」がなされていたため、とされている。

この問題をめぐっては、震災直後は中国メディアも報じていたが、批判の拡大を恐れる当局によって報道は後に規制された。

それでも「原因解明」や「手抜き工事を許した地元政府の責任追及」を求める声は、この15年、止むことはなかった。

遺族らは集団で北京の中央政府に陳情を行うも、当局の圧力や懐柔でつぶされた。今年震災15周年を迎えるにあたり、遺族らは公安当局から「海外メディアなどから取材を受けるな」と脅迫され、監視下に置かれて声を上げられないでいる。

 

 

鬼の現場監督が生んだ「倒れない校舎」

壊滅的な被害を受け、校舎が軒並み倒壊したなかで、同じ被災地でも企業家・劉漢氏が出資して建てた小学校、劉漢希望小学校は「倒れなかった学校」として全国にその名を轟かせた。

震源地から15キロ離れた郊外の山間部にあるこの小学校は、校舎の倒壊どころか、窓ガラスもほとんど割れなかったという。

校舎がしっかりと地震に耐えてくれたおかげで、同校の生徒と教員483人は全員が無事にグラウンドへ避難することができた。ネット上では「史上最強の希望小学校」とも呼ばれている。

これまであまり知られてこなかったが、多くの子供たちと教員の命を守った「最強の校舎」を生んだ「功労者」について、中国人作家で人気ブロガーでもある李承鵬氏はこう明かした。

李氏が、同校の校舎が奇跡的に生き残った理由について、校長や教師などの関係者にたずねたところ、皆が口を揃えて「全ては、あの極めて厳しい現場監督のおかげです」と話したという。

生徒の無事を聞いて「鬼監督は泣き崩れた」

この「極めて厳しい現場監督」は、劉漢氏の企業から派遣された人物だった。

彼は毎日、小さなハンマーをもってコンクリートの柱や壁を叩いて音を聴き、自ら検査をした。万一にも「手抜き」が発覚した場合、この監督は容赦なく施工業者を呼びつけて厳しく叱責し、やり直しをさせていたという。

建設工事の期間中、現場では騒がしい工事音よりも大きく、この現場監督が施工業者を叱責する「どなり声」が響き渡っていた、と教師らは明かしている。

ある時、学校にグラウンドを建設する必要があるかどうかについて口論になった。この監督は「教育だけは、手を抜いてはダメだ!(黑什么,也不能黑教育)」と大声で一喝し、グラウンドも健全な教育に不可欠なものだと主張した。

最終的にグラウンド建設案は通ったが、震災時は、まさにこのグラウンドが数百名の子供の避難に役立ったのだ。

大地震が発生した時、この監督はもちろん遠く離れた別の場所にいたが、思わず小学校のある山に向かって走り出してしまった。

その途中で「子供たちはグラウンドに避難し、全員無事だ」と聞いた。建設当時の現場を指揮した「鬼監督」は、喜びのあまり、その場で泣き崩れたという。

また、この監督が現地で担当した5つの学校は、いずれも大地震の際に「奇跡的に、倒壊しなかった」として、人々の記憶に残った。

もう一つの顔は「ヤクザの親分」だった

震災後「劉漢希望小学校」の奇跡について、民間ではこのように語られてきた。

「いくら手抜き工事が横行する世の中だからといって、あの劉漢のプロジェクトで手を抜く勇気のある業者はいないよ。手抜きするどころか(自社が)損をしてでもベストを尽くそうとするさ。なにしろ劉漢を怒らせたら、大変だからな」

あの「鬼の現場監督」を送り込んだ実業家・劉漢氏とは、どんな人物か。

それほど民間で畏怖されていた劉漢氏は、当時の四川省を代表する民営企業「四川漢龍集団」の会長であり、実業家であるとともに、悪名高い暴力団組織のトップでもあった。

劉漢氏は、震災に前後して、四川省に数十もの校舎を建て、巨額の寄付をしてきた。しかし、2015年に「殺人や暴力団組織を率いた罪」などにより死刑が執行された。

震災から15周年を迎えるにあたり、劉漢氏と彼が出資した「良心プロジェクト」に関連する投稿が、再びSNSなどで拡散されている。

多くの「イイね!」がついた関連投稿には、こう書かれていた。

「劉漢には、少なくとも、次の世代のことを思い、子供たちにだけは悪いことをしたくないという善良な心があった。多くの子供の健康を害した毒ミルクや毒ワクチン、さらには、おから工事を承認した四川省の政府関係者や施工業者と比べれば、よっぽど良心のある人だよ!」

「教育に手を抜くな」の真意は何か?

最後に、劉漢氏の部下である「鬼の現場監督」が以前に怒鳴った言葉「教育だけは、手を抜いてはダメだ!(黑什么,也不能黑教育)」を、もう一度、考えてみたい。

中国語の「黒(黑)」が意味するものは、色のブラックだけでなく、世の中のあらゆる不正なこと、道理に合わないこと、悪事全般などを幅広く指している。

そこで鬼監督の言った「黑什么,也不能黑教育」についてであるが、この言葉は、鬼監督のボスである劉漢氏も、日常よく口にしていたらしい。

つまり、自身が黒(悪)の側にいるという前提で、それでも子供たちにだけは良い教育を施し、まっすぐな人生の道を歩ませてやらなければならないという、男の義侠心からくる固い信念があるのだ。

そこで、いくらか意味を補足しながら再度翻訳すると、このようになる。

「おい、お前たち。よく聞け。世の中に悪事がどれだけあろうが、子供たちにだけは、曲がった教育をするわけにはいかねえんだよ!」

つまりは「教育に手を抜くな」という意味になるわけだが、鬼監督が侠客の迫力でこのセリフを言えば、その場の全員が圧倒されて、ひれ伏したに違いない。

劉漢氏(写真左)と彼が出資した「良心プロジェクト」の小学校(写真、右上、右下)

 

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。
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