【寄稿】性転換の手術要件は違憲か トランスジェンダーめぐる闇とは

2023/09/11
更新: 2023/09/21

然るべき手術を受ける意思がないのであれば、生来女性の人権に配慮するのは当然であり、生来女性が覚えるであろう違和感、恥辱感、恐怖感を研修で克服すべきとするのは理不尽極まりない。

現在、最高裁大法廷では、性同一性障害特例法が課している手術要件についての違憲審査が行われている。つまり、申立人は、戸籍上の性別を変える為に現在求められている性転換手術が違憲だと訴えているのだ。9月27日には申立人側の意見を聞く弁論が開かれ、公開されるという。申立人は、身体は男性だが性自認が女性の人物で、高額の手術費用や後遺症への不安を理由に性転換手術(精巣摘出手術)は受けていない。

私は手術要件を外すことに断固反対する。以下にその理由を述べる。

経産省職員の女性トイレ使用をめぐる裁判の判決に付加された裁判官の補足意見では、生来女性が覚える違和感は「トランスジェンダーに対する理解が必ずしも十分ではなく、研修により相当程度払拭できる」と主張されていた。我々は確かに「トランスジェンダーに対する理解が不十分であったこと」を素直に認めなければならないが、最大の間違いは、トランスジェンダーと性同一性障害を混同していたことだ。性自認という曖昧で主観的な概念の導入に反対することに集中するあまり、その基本的なポイントを見落としていたのだ。

我々の理解不足を思い知らせてくれたのは、ほかならぬ、裁判の原告であった経産省職員である。原告職員は手術要件違憲申立人同様、身体は男性で性自認は女性だが、手術を受けていない。いわゆる、トランスジェンダー女性だ。判決文によれば、「(原告の)血液中における男性ホルモンの量が同年代の男性の下限を大きく下回っており、性衝動に基づく性暴力の可能性が低いと判断される旨の医師の診断を受けていた」とのことだった。

我々は性自認を女性とする男性が女性トイレや女湯に入ってくることを懸念していたが、果たしてこの懸念は杞憂なのだろうか。

海外ではトランスジェンダーによる事件が後を絶たない。さらに、ゲイを公言して政治活動に従事する松浦大吾氏によると、男性器を持ったトランス女性が偽装して女湯に入り込むことは既に日常的に行われているという。彼(女)たちの中にはそのことに性的興奮を覚えている者もいるという。

ここで気づくべきは、トランスジェンダーと性同一性障害はイコールではないという厳然たる事実だ。性同一性障害に悩む人は、真剣に心と肉体の乖離に苦しんでいる。あまりにも苦しいが故に、肉体的、金銭的負担を覚悟して性転換手術を決意するわけで、そこに至るまでいくつもの医療的ステップを踏んで行く。このため「本物」なのであって、戸籍上の性別を変えることが許される。このような人々は少数ではあるが確実に存在するし、保護すべきである。

いっぽう、トランスジェンダーとはより広い定義であることを認識しなければならなくなった。件の経産省原告は性転換手術を受けない理由として健康上の理由をあげている。つまり、トランスジェンダー(女性)というカテゴリーの中には、手術を決意するほど悩まなくても生きていけて、かつ、男性器を持ち、女性を妊娠させることが可能な人々も含まれるということなのである。このような人々を、性同一性障害に苦しみ、真剣に性転換手術を希望する人々と同じカテゴリーに含むことが果たしてできるのだろうか。

この現実に鑑みれば、改めて本人の主観による性自認だけで性別を決定することが危険なばかりか、トランスジェンダーというカテゴリーが実は曖昧で、本当の性同一性障害とは区別すべきことが認識される。

さらに、男性器を持ったまま法的に(戸籍上)女性になることを許すと、さらに奇妙なことが発生し得る。例えば、「子どもたちの未来を繋ぐお母さん連合会」が指摘するように、身体が男性のままの母親と、身体が女性のままの父親が発生してしまう。この場合、二人の間にできた子供であることには変わりがないが、その子の母親には男性器があり、父親は女性の身体をしている。その子は女性である父親の母乳で育つのか、それともホルモン治療で出るようになった男性である母親の母乳らしき体液を与えられるのか? また、授乳室には男性の身体をした母親が堂々と入って来るのか?

こうしたなか、厚生労働省は令和5年6月23日付で、各都道府県、保健所設置市、特別区の衛生主管部(局)長宛の以下の通達を出している。

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公衆浴場や旅館業の施設の共同浴室における男女の取扱いについて

公衆浴場や旅館業の施設の共同浴室については、「公衆浴場における衛生等管理要領等について」(平成12年12月15日付け生衛発第1811号厚生省生活衛生局長通知)の別添2「公衆浴場における衛生等管理要領」及び別添3「旅館業における衛生等管理要領」において、「おおむね7歳以上の男女を混浴させないこと」などと定めています。

これらの要領でいう男女とは、風紀の観点から混浴禁止を定めている趣旨から、身体的な特徴をもって判断するものであり、浴場業及び旅館業の営業者は、例えば、体は男性、心は女性の者が女湯に入らないようにする必要があるものと考えていますので、都道府県、保健所設置市及び特別区におかれては、御了知の上、貴管内の浴場業及び旅館業の営業者に対する周知や指導等について御配慮をお願いいたします。(以下略)

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これは、生来男性が性自認は女性であると主張して、女湯や女性トイレなど、女性用施設に侵入することを防ぐ趣旨であると理解されるが、もし最高裁において性同一性障害特例法が課している手術要件が違憲であるとの判決が出てしまえば、この通達も違憲と見なされ無効化されかねない。その結果、身体は完全に男性で、男性器を有するトランスジェンダー女性が堂々と女性用施設に入ることを主張するだろうし、女装をしているだけの生来男性と見分けがつかなくなる。そのようなことが許されていいわけがない。

性自認が女性だとする男性が女装をするのは本人の自由である。しかし、然るべき手術を受ける意思がないのであれば、生来女性の人権に配慮するのは当然であり、生来女性が覚えるであろう違和感、恥辱感、恐怖感を研修で克服すべきとするのは理不尽極まりない。今度こそ裁判所にまともな判決を出させる必要がある。その為には世論の喚起が必要だ。

(了)

情報戦略アナリスト。令和専攻塾塾頭。中央大学卒業後、モービル石油株式会社を経て、豪シドニー大学大学院、ニューサウスウエールズ大学大学院より修士号取得。豪州滞在中、現地コミュニティの支持を得て、「慰安婦像」設置阻止に成功した経験を機に日本の危機に目覚める。公益財団法人モラロジー道徳教育財団道徳科学研究所研究員。著書に『日本よ、もう謝るな! 』(飛鳥新社)、『日本よ、情報戦はこう戦え!』(育鵬社)など多数。
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