華為の新型スマホ、本当に5G? アップル締め出しの布石か

2023/09/13
更新: 2023/09/13

米国の厳しい制裁を受けている中国の華為技術(ファーウェイ)は、8月末に予告なく最新製品「Mate 60 Pro」を発表した。中国の官製メディアは「米国の圧力に屈しない」と報じ、ナショナリズムを鼓舞している。一方、業界の専門家は、この新しいスマホが真の5G技術を持っているかどうか疑問を投げかけている。

米国は2019年以降、安全保障上のリスクから華為に輸出規制を課しており、日本や韓国、欧州などの同盟国へも制裁網を広げている。これにより、華為のスマホ市場の占有率は大きく下落した。制裁前は世界で12%を占めていたが、2022年には2%まで落ち込んだ(調査会社カウンター・ポイント・リサーチによる)。

華為は2021年7月に発表したP50シリーズで、4G技術に戻ることを余儀なくされた。そんな中、今年の8月29日に華為は新型Mate 60 Proの先行販売を発表し、革新的な半導体技術を取り入れて5Gサービスに対応できるとアピールした。各都市の店舗や、タオバオ、京東などの中国国内のオンラインプラットフォームで同時に販売を開始し、西側諸国に大きな衝撃を与えた。

中国のSNS上での速度テストの動画によれば、Mate 60 Proのダウンロード速度は主流の5Gスマホと同等であるとされる。しかし、英国の市場調査会社ラジオ・フリー・モバイルの創設者であるリチャード・ウィンザー氏は、これらのシンプルな速度テストだけでは、このスマホが5G接続能力を持っているかどうかを完全に証明することはできないと指摘している。

7ナノチップ、旧式の技術を使用?

華為の新しいスマホには、中国の半導体メーカーである中芯国際集成電路製造(SMIC)が製造した7ナノの「キリンチップ」が使用されている。しかし、多くの専門家は、7ナノは数世代遅れであり、SMICが「半導体での技術革新を遂げた」との見解は、「過度に誇張されている」と考えている。

通信技術情報機関GSMアリーナが公開したMate 60 Proの仕様書には、5G技術に関する記述が見当たらない。これに対して、主要なスマートフォンメーカーの仕様書では5G技術の情報が明記されている。

華為の公式サイトでも、新型スマホの技術仕様に5Gの言及はない。欧州の通信業界コンサルタント、ストランド・コンサルティングのジョン・ストランド最高経営責任者(CEO)は、華為自身が真の5G技術を持っていれば、それをアピールするはずだとコメントしている。

いっぽう、タカ派の米共和党議員マイク・ギャラガー氏は、Mate 60 Proが「米国の技術なしには生産できない可能性がある」と指摘。周辺国への生産委託など制裁を迂回した恐れがあるとして、華為とSMICに対する輸出規制の穴を塞ぐべきだと主張した。

あげつらう官製メディア

中国の公式メディアや一部のネットユーザーは、華為のMate 60 Proの存在を、西側諸国の制裁を突破し、米国の「圧力」に対する勝利の象徴として讃えている。同製品発表後、大手検索エンジンの百度のホットキーワードによれば、日本の東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出を連想する言葉の検索数が低下し、関心の移り変わりが窺える。

華為のMate 60 Proが商業的に成功するかどうかはまだ不明だ。前出のウィンザー氏は、中国のナショナリストたちの期待に応えるものではないと指摘する。

「華為がクアルコムやメディアテックの5ミクロン以下の(チップ技術の)スマートフォンと商業的に競争できるかどうか、すぐさま判明する。7ナノメートルでも華為のスマホは大きくて高価。消費電力も大きく、性能も低い」と語っている。

中国政府は、米国の制裁を突破するために総力を挙げて対抗する姿勢をみせる。このため、この低効率なチップ製造戦略は政府の強力な支援を受ける可能性がある。

中国市場1位のアップル 締め出しか

これまでも中国共産党は強引な手法で外資企業の締め出しや恣意的な課税などを行なってきた。競争相手であるアップルに対しても、圧力をかけるかもしれない。カウンターポイント・リサーチによると、2022年第4四半期の中国におけるスマートフォン販売台数の24%がアップルであり、シェア1位だった。

華為のMate 60 Proの発表から10日後、中国政府は政府機関職員に対し、アイフォンを業務で使用したり持ち込んだりすることを禁じた。これによりアップルの株価は、過去2日で4%近く下落。市場の反応は、今後の更なる中国当局の規制に投資家の懸念を示したともいわれている。

前出のギャラガー議員は、アイフォン使用禁止について、西側諸国による市場アクセスを制限する手段とみている。7日ロイター通信に対して「通信分野における王者を宣伝する中国共産党による典型的な行動」と述べた。

いっぽう労働者たちの都合に合わせれば、中国が“アイフォン制限”を推せない理由も浮かぶ。米ブルームバーグによれば、アップルは中国国内で何百万人もの労働者を支えており、中国政府が自国民への打撃を回避しつつ、アップルを「懲らしめる」のは難しいと報じている。

中国国内総生産(GDP)の4割を支えるとされる不動産業界の危機や、金融業者次第の突然の口座凍結、北京や香港の洪水と当局の不作為への不満、相次ぐデモなど、共産党が重視する「安定」維持コストはますます高まっている。厳格なゼロコロナ政策で多くの富裕層は日本など国外に移住したとされる。西側の外資に強く出ようとも、中国共産党政権の体力も限られているのが実情だ。

日本の安全保障、外交、中国の浸透工作について執筆しています。共著書に『中国臓器移植の真実』(集広舎)。
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