上海ハロウィン百景 皮肉たっぷりの仮装で「政府や共産党体制を揶揄する民衆」

2023/11/02
更新: 2023/11/02

今年のハロウィンは過ぎ去ったが、その時の上海の市民や若者たちによる仮装やコスプレが、今もネットで話題になっている。

かつて上海は「魔都」の異名で呼ばれた。初めて「魔都」の名称を著作に用いたのは、日本の小説家・村松梢風(1889~1961)だったというが、その名の通り、珍しい「お化け」の群れが今年のハロウィンで上海に出現したようだ。

ハロウィンの期間中、若者たちは上海の街に繰り出しては、現代中国の世相を反映していると見られる仮装を披露した。それらは、そのまま中国共産党体制に対する痛烈な風刺であり、為政者を茶化して揶揄するものとなった。

10月31日、上海の警察当局はついに「人の流れが多すぎる」ことを理由に、仮装した若者が多く集まる「人気スポット」について道路封鎖を敢行した。

 

ハロウィン期間中、市民でにぎわう上海市内(上海警察公式SNSサイトより)

 

ハロウィン期間中、大型遊園地の「上海ディズニーランド」のほか、「巨鹿路」「富民路」「長楽路」などのスポットが仮装した若者たちの集結地となった。

そこに集まったのは、「中国による愛国プロパガンダ映画の主役」「バットマン」「台湾の蔡英文総統に似たキャラクター」「大白(白い防護服の防疫要員)」「死にそうな顔の労働者」「鴨のネズミ」など様々だ。しかし誰が見ても、それらが中国の現状に対する「皮肉たっぷり」のコスプレであることが分かる。

若者たちはそこで「経済低迷による株式市場の下落」「すさまじい就職難」「司法の不公正さ」など、中国がかかえる社会問題を提示し、これを揶揄する仮装やパフォーマンスを披露していた。

例えば、中国で驚異的なヒット作となった愛国プロパガンダ映画「戦狼2」で監督と主演を務めたウー・ジン(呉京)に扮した人は、雖遠必誅(遠きにありても必ず誅せん)と書かれた看板を掲げて「口先ばかりの政府プロパガンダ」を笑って批判した。

 

映画「戦狼2」のウー・ジン(下段、中)など、各種コスプレをする市民。(SNSより)

 

また、監視大国・チャイナそのものである「監視カメラ」のコスプレをする人もいる。

手の込んだ仮装としては、かつての名作映画『覇王別姬』のなかに描かれた、文化大革命の批判闘争大会に引きずり出された京劇の女形スター・程蝶衣に扮して「市中引き回し」の場面を再現する演出もあった。なお、映画の劇中ではあるが、程蝶衣は最後に剣でその身を突いて自殺する。

 

映画『覇王別姬』のなかに描かれた、文化大革命での「市中引き回し」の場面を再現する京劇の女形スター「程蝶衣」。(SNSより)

 

さらには「くまのプーさん」など、習近平主席を連想させるコスプレする人。体じゅうに「白い紙」を貼って、昨年末に起きた「白紙運動」を一人で再現する人もいた。

実のところ、これらはハロウィンだからこそできる仮装だ。通常であれば、警察が飛んできて連行されるほどの「きわどいコスプレ」である。

10月28日の夜には、急死した李克強前首相を追悼する「花輪」でコスプレした人もいた。同じく、李克強氏にちなんで「我在上海,很想你死(私は上海にいる。あなたに死んでほしい)」と書かれたスローガンを掲げた人もいる。

この2人は、当局の「敏感なところ」に触れたためか、警察によって処罰されている。

ちなみに「我在上海,很想你死」について意味を捕捉しながら読むと、「私(李克強)は上海で静養中に心臓麻痺で死んだ。しかし、国民が本当に死んでもらいたいと願っているのは、あなた(習近平)ですよ」ということになる。

 

「花輪コスプレ」と「我在上海,很想你死(私は上海にいる、あなたに死んでほしい)」と書かれたスローガンに扮した2人は、その後、警察によって処罰されたことがわかった。(SNSより)

 

このほか、コスプレの「大白(防疫要員)」が警察にとがめられ、尋問や連行されているシーンも多くSNSに投稿された。

昨年12月初めまでの約3年間、中国で強硬に続けられた「ゼロコロナ政策」である。その悪役として人々の目に焼き付いたのが、この「大白」であった。

その「大白」をハロウィンでコスプレにしたら警察にとがめられ、連行された。そのことについて、ネットでは「あれは歴史的事実じゃないか。なのに、わずか1年でもう認めないというのか?」といった非難が多く寄せられている。

 

白い防護服の「大白」に扮する市民。(SNSより)

(警察に連行されていく、コスプレの「大白」。昨年までは、これが「国の任務」だったはずだが)

「大白」に限らず、「バットマン」や「スパイダーマン」を含む多くの仮装者が、警察によって追い払われる様子を映した動画もSNSに投稿されている。このような「正義の味方」の出現を、中国の警察は許したくないらしい。

 

警察に追い払われる正義の味方「バットマン」。(中国のネットより)

 

関連投稿に寄せられたコメントのなかで、特に印象深かったのは、次の一文だった。

「上海のハロウィンは、表面上はカーニバルだが、その背景にあるのは民衆の心の傷だ。このような特別の日にしか、それを表に出して発散することができない。なんと悲しいことだろう」

 

くたびれ労働者(上段すべて)に扮する市民。(SNSより)

 

李凌
エポックタイムズ記者。主に中国関連報道を担当。大学では経済学を専攻。カウンセラー育成学校で心理カウンセリングも学んだ。中国の真実の姿を伝えます!
鳥飼聡
二松学舎大院博士課程修了(文学修士)。高校教師などを経て、エポックタイムズ入社。中国の文化、歴史、社会関係の記事を中心に執筆・編集しています。
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