米中貿易戦争の激化に伴い、中国共産党は、対外的に強硬な態度を取りつつ、経済への打撃を抑えるため、一部アメリカ製品への関税免除などの裏の措置を着々と進めていた。本稿では、表面と裏面で異なる中国共産党(中共)の対応の実態と、それが今後の米中関係に及ぼす影響について詳述する。
中国共産党は、「アメリカと貿易戦争を徹底的に戦う」と表明しながらも、裏ではアメリカの一部商品に対して密かに輸入を容認している。ロイター通信の報道によれば、中共は125%の関税を免除可能なアメリカ製品のリストを作成し、関係企業に対して非公開で情報を伝えていた。
裏で進むアメリカ製品への関税免除
この免税リストには、医薬品、マイクロチップ、航空機エンジンなどが含まれており、関係部門は、企業に対して緊急性の高い関税免除対象製品の特定を求め、中共は表では強硬な姿勢を示しているものの、裏では実質的な譲歩を進めていたのである。
かつて中共は、「アメリカが145%の懲罰的関税を撤廃しない限り、最後まで戦う」と繰り返し主張してきたが、現状の対応は、その発言を自ら否定するものとなった。
中国で、アメリカ製品を扱う製薬会社の従業員は、政府の関係部門が企業に直接連絡し、関税免除対象製品のリストを手渡したと証言した。
4月28日に、この従業員によれば、上海市浦東新区政府は、自社に連絡を取り、一部輸入製品が免除対象に含まれたと通達してきたという。
同氏は、同社が以前より政府に対して、関税免除を求めていた背景として、特定の医薬品がアメリカの技術に依存している事実を挙げた。
また、彼は「我々は多くのアメリカの技術を必要としている」と率直に語った。
別の関係者によれば、すでに一部企業が自発的に関係部門と連絡を取り、自社製品が関税免除の条件に合致するかどうかの確認を進めていて、この免除リストは拡大を続けているのだ。
4月29日、ロイター通信は、中共がアメリカから輸入するエタンに対して、関税を免除したと報じた。アメリカは、中国にとって、唯一のエタン供給国であり、関係業界の企業は、これ以前から関税減免を中共に申請していた。
アメリカのエネルギー情報局のデータによれば、中国は、アメリカのエタン輸出量の約半分を購入している。中国におけるエタン需要企業としては、衛星化工、新浦化工、中石化、三江精細化工、万華化学グループなどが挙げられ、一方、アメリカ側の主要輸出業者には、企業製品パートナーシップ会社およびエネルギー転送会社が存在する。
さらにブルームバーグの報道によれば、中共当局は、航空機リースに対する関税撤廃の検討も進めた。中国の航空会社は、すべての運航機を購入しているわけではなく、リース契約に基づいて、第三者に支払いを行っているため、関税負担がコストに直結する構造となっていた。
加えて、中共は、免除リストの作成にとどまらず、新たな企業調査を進め、関税戦争が経済に与える影響を綿密に把握しようとしていると言う。
ロイター通信の報道によれば、中国東部の地方政府部門は、非公開会議で外国商工会議所に対して、「関税緊張による危機的状況を報告し、具体事例の評価を行うように」と要請した。この会議は非公開で実施されたため、開催都市の詳細は公表されていない。
さらに4月21日に、厦門市政府の担当者は、繊維会社や半導体会社に対して調査票を配布し、これらの企業とアメリカとの貿易プロジェクト、そして関税の影響を調査する作業を進めた。
中国共産党の表向きの強硬姿勢
中共当局が水面下で多くの活動を展開する一方、表向きには、依然として強硬な態度を維持している。
4月29日、中共外交部は、公式WeChatアカウントで中英二言語による宣伝動画「跪(ひざまず)かない!(不跪!)」を発表し、アメリカによる関税制裁に屈せず、妥協もしないと主張した。
この動画は、外部の間で嘲笑の対象となっており、専門家は「中共が国内向けに責任を果たしている姿勢を示そうとしたが、むしろ自白のように見える」と分析した。
動画の冒頭には「台風の目」の映像が使用され、アメリカによって引き起こされた世界的な関税の嵐を象徴したが、ただし、アメリカが中共の不公正貿易を非難している点については一切言及していない。
さらに動画内では、アメリカが中国を排除し、他国には「90日間の猶予」という戦術を仕掛けていると説明し、「一見穏やかに見えるが、実際には罠であり、さらなる嵐の準備である」と主張した。
「中共が『率先して』アメリカに反撃し、関税戦争をエスカレートさせた」という事実には全く触れていないのだ。
また、日本とフランスの事例を引き合いに出し、「覇権に屈することは、毒を飲んで喉の渇きを癒すような行為である」と強調した上で、「卑屈になればなるほど追い詰められる。中国は跪かない」と訴えた。
動画には朝鮮戦争や、2021年に華為(ファーウェイ)の最高財務責任者(CFO)である孟晩舟が帰国する場面も含まれており、いずれも中共の「抵抗」を象徴するものとして描かれた。
中国国内の企業・市民の反応
しかし、このような戦狼的な宣伝が、すべての国民に共感を与えているわけではない。中共が厳しく管理する中国本土のインターネット上でも、ときおり疑問の声が見られる。
「口では跪かないと言っているが、心の中では跪きたいと思っているのかもしれないし、立っているとは限らない。うつ伏せでも寝転んでもいいが、立っていても『壁ドン』できる」、「奴隷だけが『跪かない』と叫ぶ」、「相手が対話を求めているのに、それに応じず、こっそり跪いておきながら『跪かない』と主張する」といった発言が散見され、台湾の政治経済評論家・呉嘉隆氏は、この動画の真の狙いは、中共が国内向けに「我々には気骨がある、跪かない」とアピールすることにあり、その実態は自白に等しいと指摘した。「誰も跪いたとは言っていないのに、自分から『跪かない』と言い出すのは、むしろ跪いたことを認めたに等しい」と述べた。
オーストラリア在住の歴史学者・李元華氏は、中共外交部が制作したこの短編動画は、戦狼的で攻撃的な姿勢を示しながらも、目的は国内世論を動員し、国民に苦労を強いてアメリカの関税戦争に対抗させる点にあると指摘した。ただし、現在の国民は容易には騙されず、覚醒する者が増えたのだ。
呉嘉隆氏によれば、中共指導部は、かつてトランプ氏を誤って判断し、関税戦争を仕掛けたが、現在はその構図が逆転した。以前の中国は、中低価格品を売り、高価格品を輸入していたが、強硬な関税戦争が状況を悪化させ、今になってその深刻さに気付いたと言うわけだ。
さらに呉氏は、中共が当初、トランプ氏をビジネスマンとして見て、買収や取引、圧力によって動かせると考えていたが、実際には通用せず、現在はこっそりと方針の修正に動いたと語った。ただし、もはや間に合わない可能性が高いとも述べ、「今の習近平には跪くチャンスすら残されておらず、仮に跪いたとしても意味をなさない」と辛辣に酷評した。
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