米英政府は8日、2国間の貿易協定を締結することに合意したと発表した。イギリス製自動車の輸入に年間10万台の低関税枠を新設し、同枠内の関税率を現行の27.5%から10%に引き下げるという。
これは、4月2日に発表された包括的な関税政策以降、初の正式な対外貿易合意の前段階とされる。
今回の合意は署名には至っていないものの、アメリカ製品への不当な差別となる多数の非関税障壁の削減や撤廃により、輸出の市場アクセスが拡大する見通しだという。
トランプ氏は自身のSNSトゥルース・ソーシャルに輸出拡大に関する図表も投稿。アメリカ産の牛肉、エタノール、果物・野菜などで50億ドル相当の輸出増加を見込んでおり、関税収入も60億ドル増えるとしている。
イギリスの平均関税率は現在の5.1%から1.8%に引き下げられる。一方、イギリス製品に課している10%の基本関税は当面維持される。
イギリスのスターマー首相は、「これは始まりにすぎない。我々は今後も、アメリカをはじめ世界各国との貿易障壁を取り除くための協議を続けていく」と述べた。
今回の合意には、アメリカがイギリス製自動車に課している関税を27.5%から10%に引き下げ、さらに鉄鋼とアルミニウムに対する関税を撤廃する内容も含まれている。また、イギリスからアメリカに輸出される自動車については、10万台を上限とした特別割当枠が設けられ、10%の関税で輸出可能となる。
トランプ氏はこの合意について「米英の長年の友好関係を反映したものであり、これを皮切りに多くの協定が続く」と表明。「他国との交渉も進展しており、今後の発表に期待してほしい」と述べた。
この発表の直前、イングランド銀行(イギリス中央銀行)は政策金利を0.25ポイント引き下げ、4.25%とした。同銀行のアンドリュー・ベイリー総裁は、「この協定が実現すれば、イギリス経済にとっても朗報となるだろう」と期待を寄せた。
スターマー首相の慎重戦略が奏功 報復関税を避けて協調路線へ
今回の協定は、トランプ政権の関税政策に対し、スターマー首相が報復措置を避ける「協調的アプローチ」を取ったことが奏功した形だ。
4月2日の関税発表では、イギリスは相互関税の対象とはならなかったが、すべての国に適用される10%の基本関税は課された。スターマー氏は先月、「貿易戦争は誰の利益にもならない。業界団体も報復措置には慎重だ」と述べており、冷静な対応が結果として早期の合意につながった。
カナダとEUは多数のアメリカ製品に対して報復関税を課している。
イギリスはEU離脱(ブレグジット)を決定した2016年以来、アメリカとの2国間協定を模索してきた。2020年から交渉は始まっていたが、前政権下では進展がみられなかった。
米英の貿易関係の現状
2024年の米英間のモノとサービスの総貿易額は約4千億ドルに達し、アメリカは119億ドルの貿易黒字を記録。前年から17%以上の増加となった。
アメリカはイギリスにとってEUに次ぐ2番目に重要な貿易相手国で、イギリスの総貿易のうち約16%を占めている。
スターマー政権はインドをはじめとする他国との貿易協定も推進しており、今週にはインドとの「画期的な合意」を発表。自動車、衣料品、食品、宝飾品などに対する関税の引き下げが盛り込まれた。
スターマー氏は、この協定はイギリス経済を活性化し、「英国民と企業に利益をもたらす」と述べた。
市場の反応と金融動向
市場はトランプ政権による貿易協定への進展に好意的に反応し、主要株価指数は上昇した。ダウ工業株30種平均は約200ポイント上昇し、ナスダック総合指数とS&P500指数も0.5%程度上昇した。
10年物アメリカ国債利回りは4.3%まで上昇し、ドル指数(主要通貨に対する米ドルの強さを示す指標)も0.3%上昇。年初来の下落幅は8%未満まで縮小した。
Catalyst Funds(カタリストファンド)のポートフォリオマネージャーであるチャーリー・アシュリー氏は、「現在、市場にとって最も懸念されるのは、FRBの政策ミスよりも、貿易政策の失策だ」と指摘。「今後の市場動向は、FRBの決定以上に、貿易交渉の行方がカギを握る」と述べている。
米連邦準備制度理事会(FRB)は、5月7日の政策会合で金利を4.25〜4.5%に据え置いた。声明では、経済活動は堅調である一方で、「失業率とインフレ率がともに上昇するリスクが高まっている」とし、スタグフレーションへの懸念もにじませた。
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