5月20日、中国・四川省にある紡績工場「錦裕紡織有限公司」で発生した大規模火災は、地元の消防が総力を挙げても鎮火できず、実に37時間以上にわたって燃え続けた。
出火原因は、同工場に勤務していた男性社員(27歳)の文が「800元(約1.6万円)の未払い賃金」に激怒し、会計担当を刃物で刺し、放火に及んだと伝えられている。
文は過去にこの未払い賃金の支払いを求めて何度も訴えるも無視され続けたという。彼はSNSで「800元兄貴(800哥)」と呼ばれ、逮捕される時の様子の動画が拡散され、瞬く間に“怒れる底辺の象徴”として祭り上げられた。

だが、当局の動きは異様に早かった。火災発生からわずか3日後の5月23日、地元公安は「800元未払いは事実無根」と発表し、「デマを流した」として市民3人を“造言者(デマを流す者)”として逮捕。
しかし皮肉なことに、ただでさえ信用されていなかった当局が、自らの発表で“自らがデマ”と呼んでいた真実を裏付けるという皮肉な結果となり、当局の“火消し”は完全に裏目に出た格好となった。
(放火容疑者の文が逮捕され、連行される場面)
「放火は悪だ。しかし、なぜここまで共感が集まるのか」
それは、中国社会の底辺で、声をあげても無視され、正義が通らない日常に生きる人々の“鬱屈の噴出”でもあるからだ。「800元は社長にとって昼飯代かもしれないが、我々には命をつなぐ生活費だ」と語る労働者の言葉に、多くの人々が深くうなずいた。
働いても賃金をもらえない、声をあげれば「デマ」として捕らえられる。この国では、不正義の方が先に正当化される。800元を惜しんだ経営者は、結果として数千万元の損失を被り、社会には「火種」としての怒りだけが残った。

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