国際人権団体アムネスティ・インターナショナルは6月26日、カンボジア国内にある50以上の詐欺拠点で、組織的な奴隷労働や人身売買、児童労働、拷問といった深刻な人権侵害が横行しているとの調査報告書を発表した。報告では、カンボジア政府がこうした犯罪行為を黙認し、中国系犯罪組織と結託している疑いがあると指摘している。
アムネスティのアグネス・カラマール事務総長は、「アジアなどから集まった求職者が高収入の求人に惹かれて渡航し、犯罪組織が運営する詐欺拠点に拘束された。彼らは暴力による脅迫のもと、詐欺行為を強要されている」と述べた。
報告によれば、これらの詐欺拠点の多くはもともとカジノやホテルとして使われていた施設で、カンボジア政府が2019年にオンライン賭博を禁止した後、中国系の犯罪集団によって転用されたという。
こうした詐欺ビジネスの背後には、中国共産党(中共)が支援や指示を行っているとの見方もある。今年2月、詐欺組織の実態に詳しい関係者・李氏は、「これらの詐欺ビジネスは中共の一帯一路と共生関係にある。カンボジア、フィリピン、タイ、ミャンマー、アフリカなど、一対一路が展開される地域には必ず拠点が存在する」と語った。
台湾外交部は2022年、カンボジアのシハヌークビルで台湾人が拉致・監禁・性的暴行・臓器強制摘出などの被害に遭っているとし、「これは中共による一帯一路の負の遺産だ」と警告を発していた。
今回発表された報告書『私は他人の財産だった―カンボジア詐欺拠点における奴隷制、人身売買、拷問』は、この問題に関する最も包括的な調査とされている。
アムネスティは18か月にわたり調査を行い、53か所の詐欺拠点のうち52か所を訪れた。加えて、疑わしいとされる45か所についても調査を実施した。被害者の証言は8か国出身の生存者58人(うち9人は未成年)から得られ、さらに336人分の記録も分析された。
カンボジア政府と犯罪組織の癒着
報告書によると、カンボジアの詐欺拠点に拘束された被害者の中には、自力で脱出した人のほか、家族が身代金を支払って解放されたケースもある。生存者たちは、高給の求人に騙されてカンボジアに渡航し、人身売買の被害に遭い、詐欺に加担させられた体験を語っている。
報告書は、深刻な人権侵害が行われているにもかかわらず、現地警察が詐欺拠点を閉鎖していないと批判。中国系の詐欺拠点の経営者とカンボジア警察の間に、協力関係や癒着の疑いがあると指摘している。
カンボジア政府は「国家人身売買対策委員会」や複数の省庁によるタスクフォースを通じて、詐欺拠点の危機に対応していると主張しており、警察の救出活動も監督しているとしている。
しかし、アムネスティの報告では、3分の2以上の詐欺拠点が、警察の強制捜査や救出後もそのまま営業を続けていたとされる。たとえば、ボトゥムサコルにある詐欺拠点は、人身売買に関する報道が多数出たにもかかわらず、警察の複数回の介入後もいまだに稼働している。
アグネス・カラマール事務総長は「こうした状況は、カンボジア政府が黙認している証拠だ」と述べ、「政府の失策によって、犯罪ネットワークはますます大胆になり、国際的に拡大し、何百万人もの人々が詐欺の被害を受けている」と非難した。
また、カンボジア当局は詐欺拠点に関する議論を行う活動家や記者への弾圧も行っている。報告書によると、この問題に関心を寄せた人権擁護者やジャーナリストが複数逮捕されているという。さらに、地元メディア「Voice of Democracy(民主の声)」は、関連報道を行ったことにより、2023年に閉鎖へと追い込まれた。
逃げ出すことは不可能だった
報告書は、詐欺拠点が徹底した監視下にあり、鉄条網で囲まれ、武装した警備員が常駐していると伝えている。生存者によると、警備員は電気スタンガンや、場合によっては銃も所持しており、「逃げ出すのは不可能だった」という。
多くの被害者は、FacebookやInstagramなどのSNSに掲載された偽の求人広告によって、カンボジアに誘い込まれていた。
生存者の一人、タイ出身のリサ(仮名)さんは、18歳のときに高給の事務職に応募し、豪華なホテルの写真で騙されてカンボジアに渡航。そこで11か月にわたり詐欺業務を強要されたという。逃げようとした際には複数の男に殴打され、足の裏を金属棒で打たれたと話している。「4人の男に囲まれ、そのうち3人に押さえつけられて、リーダー格が私の足の裏を何度も打った。『叫ぶのをやめなければ、叫ばなくなるまで殴る』と言った」と証言している。
生存者たちは、恋愛詐欺、投資詐欺、虚偽の商品販売、または信頼を築いたうえで金銭をだまし取る、いわゆる「豚殺し(殺豬盤)」と呼ばれる手口など、SNSを利用した詐欺を強制されたという。
また、拠点やその周辺で死亡者が出ているとの証言も相次ぎ、アムネスティは、中国籍の未成年が施設内で死亡したことを確認した。
生存者のシティ(仮名)さんは、ベトナム人男性が詐欺拠点の経営者から約25分間殴打され、全身が紫色になるまで電気スタンガンで拷問されている場面を目撃したという。「その後、彼は別の詐欺拠点に『売られた』と聞いた」と語った。
9人の未成年の生存者のうち、5人は拷問や虐待を受けたと証言。17歳のタイ人少年サワット(仮名)さんは、複数の管理者から暴行を受け、「服を脱いでビルから飛び降りろ」と脅されたという。
アムネスティは調査結果をカンボジア国家人身売買対策委員会に提出した。委員会は詐欺拠点への対応状況を示すデータを提供したが、内容は曖昧で、人身の自由を奪う行為以外の人権侵害について、捜査や起訴を行ったかどうかは明らかにされていない。
アムネスティが提示した詐欺拠点および疑わしい場所のリストについても、委員会はコメントしていない。
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