アメリカは世界で唯一の超大国であり、また最も裕福な国の一つである。しかしながら、政府は常に数兆ドル規模の財政赤字を抱えており、しかも「財源不足により政府閉鎖」という事態に陥ることを繰り返しているのが現実である。
本年10月1日午前0時、アメリカ連邦政府は正式に閉鎖した。議会が予算案を承認できなかったことから、政府は一部業務を停止せざるを得なくなったのである。
政府閉鎖の原因
今回の閉鎖は、上院と下院の間での予算案をめぐる深刻な対立に端を発している。報道によると、争点の一つは医療支出と移民政策であり、民主党議員は不法移民の医療費の一部を連邦資金で賄うべきだと主張した。その額は2千億ドル(約29.5兆円)に上るとされ、これに対して共和党は強く反発した。
フィリバスターという制度
このため、民主党は上院の議事運営上の制度である「フィリバスター(長時間演説による議事妨害)」を活用し、予算案の採決を阻止した。上院では演説妨害を打ち切るために少なくとも60票の賛成を必要とする。しかし共和党の議席数は53にとどまり、採決では55対45となった。結果として、民主党は引き延ばし戦術に成功し、政府予算案は否決され、アメリカ政府は閉鎖に追い込まれた。
政府閉鎖がもたらす影響
政府閉鎖と聞くと、アメリカが大混乱に陥るのではないかとの懸念が広がる。しかしアメリカの統治機構は建国以来「政府は国民の代表によって運営される存在にすぎない」という原則を掲げており、政府が停止しても国民の日常生活そのものが完全に止まるわけではない。ただし、現実的には生活や行政サービスに確実な影響が生じる。
これは初めての出来事ではない。1981年以降、アメリカでの政府閉鎖は今回で14回目となる。直近ではトランプ前政権期の7年前に発生しており、そのときは35日間にわたり政府機能が一部停止した。
では、政府閉鎖によって具体的にどのような機関が停止し、市民生活にはどのような影響が出るのだろうか。
各部門への影響
約74万人の連邦政府職員が自宅待機を命じられている一方で、軍、連邦裁判所、交通運輸部門、FRB(連邦準備制度)などの主要機関は業務を継続している。一方、その他の多くの部門は業務に支障が出ている。国税庁はほぼ全面的に閉鎖し、議会、財務省、住宅関連部門、さらには全米各地の国立公園も閉鎖あるいは部分的に閉鎖。そのため、観光客が国立公園を訪れる際には、事前に閉鎖状況を確認しなければならない。
加えて、パスポートやビザ、社会保障カードの発給業務も遅延している。低所得世帯向けのフードスタンプ(食糧補助)や失業保険の申請・給付も滞りつつある。さらに空港では保安検査員や航空管制官の人員が不足し、フライトの遅延が発生する可能性もある。都市部ではごみ収集が滞り、市民生活の環境悪化が懸念される。また、公立学校における児童向けの学校給食も停止されることもある。
最も深刻な打撃を受けているのは連邦政府の職員である。多くの公務員が自宅待機となり、その間は給与が支払われない。さらに厳しい見通しとして、トランプ大統領は今回の政府閉鎖を利用して「不要不急」とされる部署の人員削減を一気に進める可能性を指摘している。トランプ氏はかねてから、連邦政府が肥大化しすぎており、一人で対応できる業務に複数人を配置して納税者の負担を増やしていると不満を漏らしていた。
専門家の見立てと議会内の動き
専門家によれば、民主党は2~4週間以内に妥協し、政府を再開させるとみられている。そうでなければ、トランプ政権と国民世論の双方から強い圧力に直面することになるとの分析である。
また、フロリダ州選出の上院議員リック・スコット氏は、政府閉鎖中に議員報酬を停止する法案を提出した。スコット氏は「民間企業では、仕事を果たさなければ報酬を受け取ることはない。なぜ国会議員だけが職務を果たさずに報酬を受け取ることが許されているのか」と述べ、議員に対しても責任を求める姿勢を鮮明にしている。
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