日中間の緊張が高まっている。中国側は日本への旅行警告を発令し、日本映画の上映を中止するなどの対応を強めており、これらの措置は高市早苗首相が台湾有事について『存立危機事態になり得る』と国会で発言したことに対し、中国共産党政権が強く反発したことに端を発している。
日本政府は11月18日、中国に滞在する自国民に対し、以下の安全対策を強化するよう注意喚起した。
- 大勢の人が集まる広場や多くの日本人が利用すると思われやすい場所は可能な限り避ける。
- 一人での外出を控える
- 周囲の状況に注意を払う
- 子供連れの場合は特に慎重に行動する
- 少しでも不審に思える人や集団を見かけたら近づかず、すぐにその場を離れる
在北京日本大使館がウェブサイトに掲載した注意喚起は、こうした内容だ。これは、高市首相が今月、議員たちに対して「中国が台湾を武力攻撃し、それが日本の存立危機事態に該当すると判断されれば、集団的自衛権を行使して軍事対応する」と発言したことがきっかけで起きた一連の外交危機を受けての措置である。
中国外交部は18日に日中高官協議を行い、日本側に首相の発言撤回を強く要求したが、日本政府の木原稔官房長官は「政府の立場は変わらない」と述べ、要求を受け入れる考えがないことを明らかにした。ただ、両国とも対話による平和的解決を望んでいるのも事実だ。
台湾問題の背景
中国は民主的に統治されている台湾を自国の領土だと主張し、必要なら武力行使も辞さない姿勢を示している。一方、台湾側は中国の主張を完全に拒否しており、世論調査でも大多数の台湾国民が現状維持を望んでいる。
事態がさらに悪化したのは、中国の在日外交官がSNSで高市首相に対して脅迫めいた投稿を行ったことだ(投稿はすでに削除)。日本政府は強く抗議し、中国側に謝罪を要求しているが、中国国内のメディアでは首相に対する激しい個人攻撃が続いている。
中国側の対抗措置と日本経済への影響
中国共産党は国民に対して「日本への渡航は控えるように」と呼びかけている。中国人観光客は日本を訪れる外国人観光客の約4分の1を占めており、この措置で日本の観光関連株は急落した。
すでに中国の主要航空会社10社以上(中国国際航空、中国東方航空、中国南方航空など)が、日本行き航空券の払い戻しを受け付けているほか、四川航空は成都-札幌便の運航計画を少なくとも来年3月まで取りやめた。
さらに中国では、日本映画少なくとも2作品の上映が中止された。その一つが人気漫画の実写化『はたらく細胞』だ。
日本は電子機器や自動車に不可欠な重要鉱物を中国に大きく依存している。小野田経済安全保障担当大臣は18日の記者会見で「こうしたリスクのある国に経済的に依存しすぎるのは危険だ」と指摘した。
尖閣諸島をめぐる問題も再燃
日中間には尖閣諸島をめぐる領有権争いもある。17日には中国海警局の船4隻が尖閣周辺の領海に侵入し、日本の海上保安庁が退去させた。
台湾は日本の最西端・与那国島からわずか110kmしか離れていない。台湾周辺海域は日本にとって極めて重要なシーレーンであり、ここに米軍の最大規模の海外駐留部隊も存在する。
アメリカは尖閣諸島の主権については立場を明確にしていないが、2014年以降「攻撃を受けた場合は日米安保条約に基づき防衛義務がある」と明言している。ジョージ・グラス駐日米国大使はXで「ここではっきりさせておこう。疑念を抱く者などいないと思うが、米国は尖閣諸島を含め、日本の防衛に全面的にコミットしている。中国海警局の船団がどうしようとも、その事実を変えることはできない。トランプ大統領は今年初め、『尖閣諸島に対する日本の長きにわたる平和的施政を侵害しようとするいかなる行動にも断固として反対する』という米国の立場を重ねて表明している」と発信した。これに対し中国外務省の毛寧報道官は「政治パフォーマンスだ」と反発した。
今後の見通し
今週南アフリカで開かれるG20サミットで、中国の李強首相が高市首相との会談を行う予定は現時点でない。中国側が拒否した形だ。
ただし日本側は「さまざまな形での対話には常にオープンである」と木原官房長官は述べており、完全にドアを閉ざしたわけではない。
日中関係は台湾発言をきっかけに急速に冷え込んでいるが、経済的結びつきが非常に強い両国だけに、どこかで落としどころを探る動きが出てくるかどうかが焦点だ。
※2025年11月19日、23:17に文章を一部訂正致しました。記事冒頭に高市首相の発言に問題があるような誤解を招く文章表現があったため文章を一部修正しました。慎んでお詫び申し上げます。
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