政府は26日、人命・人権最優先の「防災立国」の実現に向け、防災庁設置の基本方針を閣議決定した。本方針は、頻発する自然災害や南海トラフ地震等の巨大災害に対し、平時から発災時、復旧・復興までを一貫して担う強力な司令塔組織として「防災庁」を設置することを定めている。
防災庁設置の背景と必要性
日本は過去30年間、阪神・淡路大震災や令和6年能登半島地震など多くの甚大災害に直面してきた。現在、内閣府が総合調整を担っているが、発災時には応急対応に追われ、平時の事前防災や準備を万全に行う体制が不十分であるという課題がある。
- 国難級災害への備え: 南海トラフ地震では、最大で死者数約29.8万人、経済被害は約225兆円という甚大な被害が想定されており、被害を劇的に軽減する新たな対策が急務となっている。
- 社会の変化: 少子高齢化による地域コミュニティの弱体化や、地方自治体の人員不足が災害への脆弱性を高めている。
これらを克服するため、行政の縦割りを排し、産官学民の力を結集する司令塔が必要だとした。
牧野復興大臣会見:予算・人員と設置スケジュールの前倒し
牧野大臣は26日、会見において、防災庁の組織規模や具体的な準備状況を明らかにした。
- 設置時期の具体化: 従来「令和8年度中」としていた設置目標を、「令和8年(2026年)中」へと表現を強め、準備を加速させる方針を示した。
- 予算規模: 防災庁の設置・運営経費として約45億円を確保。既存の内閣府防災予算等と合わせ、総額で約202億円を計上した。
- 人員体制の大幅拡充: 現在の内閣府防災担当(220名)を、設置時期までに352名体制へと段階的に増員する。
- 中途採用の開始: 352名の定員を確保するため、閣議決定当日(12月26日)より実務経験の有無を問わず、民間企業や一般からも広く人材を募る中途採用の募集を開始した。
防災庁の機能と組織体制
防災庁は内閣直下の組織として設置され、内閣総理大臣を長とし、専任の防災大臣を置く。
- 強力な権限: 防災大臣は各省大臣に対し、資料提出の要求や尊重義務を伴う「勧告権」を行使できる。
- 4部門体制: 内部組織として「総合政策」「災害事態対処」「防災計画」「地域防災」の4部門(4統括官体制)を置く。
- 被災者支援の質的向上: 避難生活環境の抜本的改善に向け、国際的な人道支援の最低基準である「スフィア基準(正式名称は『人道憲章と人道対応に関する最低基準』。災害や紛争の被災者が尊厳ある生活を営むための人道支援活動における最低基準のこと )」の導入を推進する。
今後の予測とスケジュール
- 法整備: 次期通常国会に防災庁設置法案等の関連法案を提出する。
- 地方拠点と人材育成: 大規模災害時の業務継続性を高めるため、地方機関の設置について具体的な検討を進める。また、地方自治体職員や民間人材も対象とした「防災大学校(仮称)」の設置検討など、体系的な人材育成システムを構築する。
- 防災産業の創出: AIやドローン等の先端技術を徹底活用し、その知見を経済成長や国際協力にもつなげる「防災産業」の発展を目指す。
防災庁の設置は、単なる組織改編に留まらず、社会全体で災害に立ち向かう「皆で共に創る防災立国」への大きな転換点となることを期待している。
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