中共が仕掛けるグローバル認知戦が深刻 今「沖縄は日本の一部」という認識が揺らいでいる

2025/12/30
更新: 2025/12/30

沖縄を巡って、目に見えない形の攻防が続いている。

争われているのは基地や政策ではない。「沖縄は日本の一部である」という前提そのものだ。中国共産党(中共)はこの前提を揺るがせるため、歴史、国際法、人権、メディア、軍事行動を結び付けた認知戦を水面下で進めている。

この動きは、偶発的な発言や一時的な宣伝ではない。日本沖縄政策研究フォーラム理事長の仲村覚氏は、国家基本問題研究所(JINF)の記事で中国の対沖縄戦略を、軍事・法律・倫理を同時に動かす「複合法律戦」と位置付けた。

認知戦の中核に据えられているのが、「琉球地位未定論」と呼ばれる歴史・法的ナラティブである。中共政府側は、清朝から現在に至るまで、琉球が日本領であることを正式に認めた中国政府は存在しないと主張している。また、琉球が長期間にわたり明・清の藩属国であった点を強調し、1879年の日本による編入は非合法であったとする言説を展開している。

加えてこの印象を補強するため、国際法の解釈を動員し、中国側はサンフランシスコ講和条約を「不法」と位置付け、日本の領土を四大島に限定したポツダム宣言を優位に解釈する立場を取る。

その根拠として中共政府が出しているのが、2014年に日中間で合意された一つに「日中間4つの基本文書」の遵守だ。

その基本文書の一つに1972年の日中共同声明で、そこには「ポツダム宣言第8項に基づく立場を堅持する」とある。同宣言第8項には、「カイロ宣言の条項は履行されるべし」とあり、清国から日本が盗取したとされる領土を返還することが謳われているという。

中共政府側の論理は、2014年の合意により、日本はポツダム宣言に基づき尖閣を返還する義務があるという論理で、尖閣を係争地として既成事実化し、尖閣問題から沖縄の地位にまで拡大適用したポツダム宣言体制を復活させることにある。仲村氏は「2014年合意を見直さなければ、危険なドミノ倒しの最初のピースを見逃すことに等しい」と警鐘を鳴らしている。

仲村氏はこれらが中国のナラティブ戦略の一環として国際社会と日本国内に浸透しつつあり、現在、周辺海空域などで展開されている海警船や空母艦隊などによる軍事的威嚇は、これら複合法律戦を円滑に遂行するための手段の一つだと述べている。

また仲村氏は主権の問題が「人権」の言葉へと置き換えられ、沖縄の基地問題は国家安全保障の文脈から切り離され、「先住民族に対する人権侵害」として再定義されていると述べている。

国連では2008年以降、沖縄の人々を「先住民族」と位置付け、その権利を保護するよう日本政府に勧告する動きが続いてきた。仲村氏は、この分野において日本が認知戦で不利な位置に置かれたままであると指摘する。

現在こうしたナラティブは、インターネット空間で一気に拡散されているという。

ジャーナリストの矢板明夫氏によれば、米国のメディア監視会社の分析で、11月、中国・香港メディアにおける「琉球」「独立」を含む記事は、前年同期の約20倍に当たる600本以上に急増していたと指摘。これらの記事は、日本の高市早苗氏らが国会で「台湾有事」に言及した直後に集中しており、矢板氏は、日本側の台湾発言への報復として、「日本が台湾を問うなら、中国は沖縄を問う」という構図を意図的に作り出したものだと述べている。

宣伝は日本社会の内部にも向けられている。沖縄の若い世代の一部にみられる「自分は日本人ではなく琉球人である」という意識や、基地問題、戦場にされることへの不安といった感情が、ナラティブの受け皿として利用されている。

認知戦は言葉だけで完結しない。軍事行動は、言説に現実感を与える役割を担う。2024年9月18日、満州事変の記念日に合わせる形で、中国の空母「遼寧」が与那国島と西表島の間」という非常に狭い水域を通過した。仲村氏は、この行動を、日本の主権に対する政治的メッセージであると同時に、当該海域を掌握していることを誇示する示威行動と位置付けている。

こうした戦略に対する日本社会の受け止め方について、矢板氏は沖縄における独立支持は約3%にとどまり、多くの住民は現状維持や自治権拡大を望んでいると述べた。

矢板氏は、自国では分離独立の議論も、住民投票も、自由な結社も認めていない政権が、他国の領土について突如「歴史的未定論」を声高に語ること自体に、説得力を見いだせないと感じる人が少なくないと述べ、中共の論理に矛盾があることを指摘している。

沖縄を巡る中共の認知戦は、軍事衝突の前段階として、主権の意味付けそのものを揺さぶる作業として進められている。歴史と法律を再構成したナラティブを軸に、国連、人権、メディア、軍事行動を連動させるこの戦略の実態が、浮かび上がってきている。

エポックタイムズの記者。東京を拠点に活動。政治、経済、社会を担当。他メディアが報道しない重要な情報を伝えます