フランス海軍のラファール戦闘機の元パイロットが、機密情報を収集し、中共に提供した疑いで、フランス当局の捜査対象となった。元パイロットは米海軍で訓練を受けた経験もあり、現在は司法監督下に置かれている。
「ユーラシアン・タイムズ」が7月29日に報じたところによると、捜査対象となったのはピエール=アンリ・シュエ(Pierre-Henri Chuet)。フランス海軍で艦上攻撃機シュペル・エタンダールや艦載戦闘機ラファールMを操縦し、原子力空母「シャルル・ド・ゴール」で勤務していた。
シュエ容疑者は、カタパルトで発艦し、着艦時に制動索を使用するCATOBAR方式の空母運用に精通している。2025年5月のインドとパキスタンの軍事衝突を巡っては、インド空軍がラファール戦闘機1機を失ったと主張し、議論を呼んだ。
シュエ容疑者はフランスの国内情報機関、国内治安総局の事情聴取を受けた後、7月下旬に予審判事へ送致された。その後、正式な捜査対象とする手続きが取られた。
この問題は「インテリジェンス・オンライン」が7月27日に最初に報じた。AFP通信も29日、パリ検察当局の情報として伝えた。
AFP通信によると、元パイロットの氏名は公表されていないが、国防上の機密を漏らした疑いも持たれている。中共とのつながりが疑われたことから捜査が始まり、現在は予審判事が担当しているという。
フランスの刑事手続きにおける「mise en examen」は、有罪や起訴を意味するものではない。予審判事が、正式な捜査を進めるだけの重大な証拠や、互いに裏付け合う複数の手掛かりがあると判断したことを示す。
中共が元艦載機パイロットに関心を寄せる背景
シュエ氏はフランスとカナダの二重国籍を持つ。カナダ航空でボーイング737型機の操縦訓練を受けたほか、交換将校として米海軍でも訓練を受けた。
退役後は著述家や講演者として活動し、YouTubeでも航空関連の情報を発信している。
米海軍で訓練を受けたほか、作戦任務やラファールMの展示飛行も経験している。空母への着艦回数は200回を超える。カナダ航空で民間機のパイロットになる前には、戦闘機部隊で8年間勤務していた。
中共海軍にとって、こうした空母艦載機の運用経験を持つ人材は極めて価値が高い。
中共海軍は現在、空母3隻を就役させており、4隻目も建造中とみられている。3隻目の空母「福建」は、カタパルト発艦と制動索による着艦を組み合わせたCATOBAR方式を採用している。
「福建」が就役するまで、米海軍以外でCATOBAR方式の空母を現役運用していたのはフランス海軍だけだった。このため、フランス海軍で訓練を受けた艦載機パイロットは、CATOBAR方式の実際の運用経験を持つ数少ない人材となっている。
フランス海軍唯一の空母「シャルル・ド・ゴール」は原子力空母で、排水量は約4万2500トン。蒸気式カタパルト2基を備えている。
2001年の就役以来、ラファールM戦闘機やE-2Cホークアイ早期警戒機を搭載し、現在も運用されている。
中共海軍の「福建」もCATOBAR方式を採用しているが、完全な作戦能力の獲得に向け、艦載機の発着艦訓練や運用態勢の整備が続いているとみられる。
欧米の元軍人を狙う共通の手口
シュエ氏の事件は、単独の事例ではない。
これまでにも、中共空軍のパイロットに戦術や作戦手順を指導したとして、複数の欧米出身パイロットが警告や捜査の対象となっている。
訓練は中国国内で行われる場合もあれば、第三国で実施される場合もある。
一連の事件には共通した手口がみられる。中共空軍は実戦経験が乏しいため、欧米の元戦闘機パイロットを雇い、パイロットの養成や空戦戦術の不足を補おうとしているとみられる。
採用には第三国に拠点を置く仲介業者が使われることが多く、中共軍との直接的な関係を隠す狙いがあると指摘されている。
フランスの調査報道紙「ル・カナール・アンシェネ」は2025年4月、パリ検察当局が同年2月19日、外国勢力との情報協力が疑われる元軍人について、フランス軍から資料の送付を受けたと報じた。
報道によると、この元パイロットは現役中の2018年9月と2019年8月に中国を訪れたが、軍の規則で義務付けられている上官への報告を行わなかった。
いずれの渡航も、南アフリカの航空関連企業が手配し、費用を負担した。
今回の事件で関与が疑われている南アフリカの仲介機関は、NATO加盟国で確認されたほかの事件でも、同様の方法を使っていたとみられている。
英スカイニュースは2022年の調査報道で、南アフリカ試験飛行学校(TFASA)が、元英軍パイロットを採用する窓口の一つになっていたと報じた。
これを受け、英国防省は現役および退役軍人に対し、安全上の警告を出した。イギリス当局によると、約30人の元英軍パイロットが中共軍のパイロットを訓練していた。
英紙「メール・オン・サンデー」は2026年6月28日、TFASAから接触を受けたとされる元英軍関係者7人の氏名を新たに報じた。
スペイン紙「ABC」は2026年7月25日、少なくとも2人の元スペイン航空宇宙軍パイロットが、中共軍パイロットの訓練に関わっていたことを情報機関が確認したと報じた。
これらの元パイロットらは、TFASAを含む南アフリカの仲介機関を通じて採用された。
米司法省は2017年、元米海兵隊パイロットのダニエル・ダガンを起訴した。
ダガン氏はTFASAとの契約を通じ、中共軍のパイロットに空母からの発艦や着艦に関する戦術、技術、手順を指導したとして訴追されている。
ダガンは2022年10月、アメリカの要請を受けてオーストラリアで逮捕された。オーストラリアの司法長官は2024年12月、アメリカへの身柄引き渡しを承認した。
ダガン氏は決定の取り消しを求めたが、オーストラリア連邦裁判所は2026年4月、訴えを退けた。
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