豪企業を装う偽求人サイト 中国情報機関のスパイ勧誘に利用か FBIが13ドメイン差し押さえ

2026/08/17
更新: 2026/08/17

オーストラリア企業「Horizzen」を装った偽サイトが、米政府・軍関係者らから機微情報を引き出すスパイ勧誘に利用された疑いが浮上した。米司法省とFBIは2026年6月、偽コンサルティング会社を装う13ドメインを差し押さえた。LinkedInやUpworkなどの求人・人材サービスを悪用する手口は、日本の研究者や安全保障関連分野にもリスクを広げている。米当局は、現職・元保安許可保有者を主な標的にしたとしている。

オーストラリア・ブリスベンの小規模コンサルティング会社「Horizzen」には、2025年半ば以降、同社が募集していないアメリカの求人への応募を希望する、見知らぬ求職者からの履歴書や電話が相次ぐようになった。

英紙ガーディアンが8月16日に報じたところによると、Horizzenは社名や住所、電話番号、ウェブサイトの内容が何者かに無断で使われていることを確認した。当初は粗雑な模倣サイトとみていたが、今年6月に米当局がこの偽サイトを差し押さえたことで、中国の情報機関によるスパイ活動をFBIが捜査する事件と関係していたことを知ったという。

豪企業「Horizzen」を装った偽サイト 求人応募から発覚

何者かは、Horizzenの企業情報やウェブサイトの内容を複製し、求人を掲載する偽サイトを作っていた。このサイトを本物と信じ、詳しい履歴書や応募書類を、Horizzenが実際に使うオーストラリアのメールアドレスに送った人もいた。

FBIによると、このサイトは米司法省が今年6月に差し押さえた、偽コンサルティング会社のサイト13件の一つである。これらのサイトは中国の情報機関と関係があるとみられ、架空の求人を通じて米政府の機微情報を得ようとした疑いがある。

ガーディアン紙の調査では、運営が複数の国にまたがっていたとみられる形跡もあった。Horizzenを装うサイトはインドで登録され、別の偽コンサルティング会社は西オーストラリア州にあると名乗っていた。その求人広告はタイにいる人物が掲載していた。

差し押さえの対象となった別の企業「Catalyst Global Solutions(CGS)」は、「ワシントンを代表する企業の一つ」と称していたが、登録住所はパキスタン・ラホールだった。FBIによると、CGSはオーストラリアの求人サイトで、「国際関係」や「地政学」を専門とするアナリストやコンサルタントを募集していた。少なくとも1件は、インド太平洋地域の専門家を直接募集していた。

Horizzenは、企業情報を大規模に複製したのは、偽会社を実在し信頼でき、長年営業してきた企業に見せかけるためだったとの見方を示した。今回、人工知能が使われたかは明らかではないが、その普及で偽サイトや架空の企業情報、偽の連絡文を作ることが容易になっていると指摘した。

FBIが偽コンサルティング会社の13ドメインを差し押さえ

米司法省は6月10日、連邦当局が13のドメインを差し押さえたと発表した。宣誓供述書によると、関係者は2023年11月以降、少なくとも13の偽コンサルティング会社のサイトを開設していた。

架空の求人を使い、米政府や軍の現職・元職員のほか、機密情報や機微情報にアクセスできる人、または過去にアクセス権限を持っていた保安許可保有者を標的にしていたという。

偽求人で機微情報を狙う手口 LinkedIn・Upworkも悪用か

司法省によると、勧誘側はソーシャルメディアのほか、UpworkやWellfoundを通じて標的に接触していた。求人の多くは中国共産党が関心を寄せるテーマに関連し、「シニアアナリスト」や「国際問題コンサルタント」といった職種名が使われていた。

偽サイトでは、偽名や架空の人物像、盗用した身元情報、人工知能で作成した人物画像などを使い、信頼できる企業を装っていた。比較的高額な報酬を提示して調査レポートを買い取った後、「独占的な情報」や「内部情報」、機微情報の提供を求めるケースがあったという。

さらに、Telegramなどの暗号化通信アプリに連絡手段を移し、オンライン決済アカウントや暗号資産を通じて支払うことで、資金の出所や関係者の身元を隠そうとした。

FBI防諜・スパイ対策部門のローマン・ロジャフスキー副局長は、差し押さえたドメインは、中国の情報機関による工作の一端を示していると述べた。中国の情報機関は人工知能で作成したコンテンツを使い、アメリカの現職・元保安許可保有者を欺いたり、勧誘したり、脅したりして、機微情報を漏えいさせようとしているという。

在オーストラリア中国大使館はこの指摘を否定し、米側の主張は「事実に何ら基づかない」もので、「中傷と誹謗」だと反論した。

日本でも類似の接触 研究者・防衛・地政学分野に警戒

日本でも似た手口を確認し始めている。青山学院大学の須原誠・特別研究員は2025年1月、ハンガリーの首都ブダペストにあると名乗る政治コンサルティング会社から、LinkedInを通じて勧誘を受けたと公表した。

相手は日中関係などに関するレポートを月3~5本書くよう求め、1本当たり約300~2千ドル(約4万5千~30万円)の報酬を提示した。支払いには暗号資産を利用できるとも説明したという。

海外のコンサルティング会社を名乗り、地政学分野の研究者に接触して、比較的高額な報酬や暗号資産による支払いを示す手口は、ファイブ・アイズが警告してきた事例と共通する。

一方、日本の実在企業名やウェブサイトの内容を丸ごと盗用するなど、Horizzenの事案に匹敵する規模の事例を日本で確認したとする当局の公表は、現時点でない。国内で明らかになっている事例では、LinkedInなどを通じ、海外のコンサルティング会社や人材紹介担当者を装って、政策、防衛、外交、地政学の分野に関わる人に直接接触する形が中心である。

ファイブ・アイズが警告する中国の偽リクルーター工作

ファイブ・アイズは今年6月の共同警告で、中国の情報要員が人材紹介会社、コンサルティング会社、シンクタンクの職員を装い、LinkedIn、Indeed、Upworkなどを通じて、外交・防衛分野などの機微情報に接触し得る人を標的にしていると指摘した。

日本はファイブ・アイズの加盟国ではないが、これらのサービスは日本でも広く利用されている。同様の勧誘の手口は、政府、学術研究、防衛、先端技術の各分野にリスクをもたらす可能性がある。

不審な求人・スカウトを見分けるための確認ポイント

AP通信が6月に報じたところによると、捜査のきっかけの一部は、標的となった人たちからの通報だった。FBIワシントン支局で防諜・サイバー部門を率いるダニエル・ビエルズビキ氏は、暗号資産や一般的ではないオンライン送金手段で支払いを受け、不審に感じた人がFBIに通報するケースが多かったと説明した。

同氏は、同じ目的で使われているウェブサイトがほかにもあるとFBIはみているとしたうえで、特定に向けて市民の協力を求めていると述べた。

今年6月には、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、イギリス、アメリカで構成するファイブ・アイズも共同警告を出した。中国の情報要員が、正規の企業に見せかけた「フロント企業」やLinkedInなどを使い、採用担当者やコンサルタントを装って標的に接触しているとして、注意を呼びかけている。

陳霆