中国外交部が最近の公式発言で、高市早苗首相に対する呼称を変更していることが分かった。従来付けていた「日本首相」の肩書を外し、氏名のみを挙げる例がみられる。中国共産党政権の対日姿勢を示す一つの変化として注目される。
中国外交部の郭嘉昆・報道官は9月30日の記者会見で、高市氏について「日本首相・高市早苗」とせず、「高市早苗」と氏名のみを挙げた。外交部が公表した記者会見記録でも、「日本首相」との表記は削除している。
同日の記者会見では、小泉進次郎防衛相についても氏名を挙げず、「日本の現任の防衛部門責任者」と表現した。
こうした中共側の呼称について、台北を拠点とする民間シンクタンク「インド太平洋戦略シンクタンク」執行長の矢板明夫氏は、中共の外交・宣伝において過去にもみられた手法だと指摘する。
矢板氏はX(旧ツイッター)への投稿で、中国共産党(中共)の政治宣伝では、相手に対する敵意が強まるのに伴い、対象となる人物への呼称を段階的に変えることがあると説明。最初の段階として、肩書を外すケースを挙げた。
これまで「○○大統領」「○○総書記」などと呼んでいた人物について、関係が悪化すると肩書を付けず、氏名だけで呼ぶようになるという。特に文化大革命期には、中共側が敵対国とみなした国の指導者を、姓名のみで呼ぶ例があった。
矢板氏は、肩書を外すことについて、「あなたが大統領であることは分かっている。しかし、あえて大統領とは呼ばない」という意思表示だと説明。この段階では比較的穏当な対応だとしている。
さらに関係が悪化すると、氏名の前に形容詞を付けたり、政治的な「レッテル」を付けたりするようになるという。
矢板氏によると、過去にはアイゼンハワー政権で米国務長官を務めたジョン・フォスター・ダレス氏を「戦争屋ダレス」、リチャード・ニクソン大統領を「帝国主義の頭目」、佐藤栄作元首相を「日本反動派の頭目」などと呼んだ例がある。
こうした呼称は外国の指導者に限らず、中共内部の人物にも用いた。
中国国家主席だった劉少奇が失脚した後の1968年には、中共中央の文書で、劉少奇に「裏切り者」「内通者」「労働者階級の裏切り者」などの政治的なレッテルが付けられた。
矢板氏はさらに、政治的な肩書や批判的な表現を用いる段階を経て、最終的には個人を侮蔑するあだ名が使われるようになると指摘する。
例として挙げるのが、旧ソ連の最高指導者フルシチョフ氏だ。
中ソ関係が良好だった時期には「ソ連共産党中央委員会総書記フルシチョフ同志」などと呼ばれていたが、関係悪化後には肩書を外して「フルシチョフ」と呼ぶようになり、その後、「修正主義の頭目」などと批判する表現が使われるようになったという。
さらに、中共側の宣伝では、フルシチョフ氏の頭髪が薄かったことを揶揄する「禿頭フルシチョフ」といった侮蔑的な呼称も使ったと、矢板氏は説明している。
中共が外国の指導者に対する呼称を変える理由について、矢板氏は「現実の世界で相手に対して何もできなければ、まず言葉の上で少し優位に立とうとする。少なくとも自分自身を納得させることができる」と指摘。こうした心理を、魯迅の作品で知られる「阿Q精神」にたとえている。
今後、中共側が高市首相に対してどのような呼称を用いるのかについて、矢板氏は「さらに格下げが進むのか、注目する価値がある」としている。
中共側の対応をめぐっては、ネット上でもさまざまな意見が出ている。
「負けを認められず、勝つこともできないため、このような方法で自分を慰めているだけだ」といった批判のほか、「子供同士のけんかで相手にわざと嫌なあだ名を付けるようなものだ」とする意見もみられる。
一方、「相手を貶めようとしているつもりでも、かえって自国の印象を悪化させている」「北京が悪口によって鬱憤を晴らすようになった時こそ、外交的な手段が尽きていることの表れではないか」といった指摘もある。
中共側が今後、高市政権や閣僚に対してどのような呼称を用いるのか。首脳や閣僚に対する公式の呼称の変化は、今後の日中関係をみる上での一つの材料となりそうだ。
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。