米・ベネズエラ合意 世界の石油市場を揺るがす可能性

2026/08/31
更新: 2026/08/31

米政府は新たな石油合弁事業の過半を支配し、確認埋蔵量ではサウジアラムコに次ぐ世界第2位の保有主体となる。

 

米国が確認埋蔵量650億バレル超の過半を支配することになるベネズエラとの新たな合意は、世界の石油市場を再編し、石油価格に対する米政府の影響力を大幅に強めるとみられている。

ドナルド・トランプ米大統領は、この合意を「世界史上最大の石油取引」と表現した。

不明な点は依然として多いものの、8月28日夜に発表された合意について、これまでに明らかになった内容と関係者の反応をまとめた。

合意の財務構造

合意に基づき、米政府はベネズエラの非公開の民間事業者と合弁会社を設立する。

米政府当局者は大紀元に電子メールで、「われわれが交渉した合意により、米国は新たな民間合弁事業の実質的な生産量の55%を確保する」と述べた。

米政府は「ベネズエラで経験を積んだ民間事業者」と提携し、確認埋蔵量650億バレルを有する油田について、100年間の採掘権を確保した。

当局者は「この新会社は、確認埋蔵量を保有する企業として、サウジアラムコに次ぐ世界第2位となる」と述べた。

米政府は、直接出資と原価での引き取りを保証する権利、すなわち割引価格で石油を購入する権利を通じて、新会社の価値の半分以上を支配する。

トランプ氏によると、合意の交渉にはルビオ国務長官、ピート・ヘグセス国防長官、ベネズエラのデルシー・ロドリゲス暫定大統領が当たった。

トランプ氏は、この合意に「米国の納税者の負担は一切ない」と強調した。

ルビオ氏は声明で、合意について米国人とベネズエラ人にとって「大きな勝利」だと述べた。

また、合意によってベネズエラに「約1千億ドルの民間投資がもたらされ」、新たな雇用が創出されるとともに、同国経済が再生するとした。

ロドリゲス氏は8月29日のテレビ演説で、石油合意を歓迎した。

同氏によると、この事業は「17か所の戦略的油田を開発し、日量150万バレルを超える生産を目指す」ものである。

ベネズエラ産原油で米戦略備蓄を補充

トランプ氏は8月30日、交流サイト「トゥルース・ソーシャル」への投稿で、今回の合意を通じて購入する原油を、米戦略石油備蓄(SPR)の補充に充てると表明した。

SPRは8月下旬、約2億9千万バレルまで減少し、44年ぶりの低水準となった。

トランプ氏は「ベネズエラ産原油を使って私が行うことの一つは、国家戦略備蓄を満たすことだ」と述べ、バイデン政権が備蓄を枯渇させたと批判した。

さらに、「満杯にする作業は間もなく始まる。これはベネズエラから米国民への贈り物である」と投稿した。

米政府当局者によると、合弁会社が生産を増やすにつれ、原価で供給される安定した原油がSPRの補充に役立ち、米軍の需要も支えることになる。

今回の合意は、イランとの紛争が始まって6か月が経過しても米国のガソリン価格が高止まりし、米軍がベネズエラの指導者ニコラス・マドゥロ氏を拘束してから約9か月後に発表された。

ベネズエラは、推定3030億バレルとされる世界最大の確認石油埋蔵量を有する。しかし、マドゥロ政権下では、不適切な運営と投資不足により、石油生産量が大幅に減少した。

世界の石油市場への影響

トランプ氏によると、この「歴史的な取引」により、現在460億バレルである米国の石油埋蔵量は2倍以上に増える。

同氏は、合意によって原油供給が増え、米国民が負担するガソリン価格が下がると述べた。

軍事戦略家で、米国務省の元中南米政策顧問であるエバン・エリス氏は、今回の合意によって世界の石油市場における米国の立場が強まるとの見方を示した。

エリス氏は大紀元に対し、「米国が採掘可能な原油650億バレルを支配することは、国際石油市場における米国の立場と、原価で原油を入手できることに大きな影響を及ぼす」と述べた。

今回の合意は、米国の石油精製会社、特に硫黄分が多いベネズエラ産重質油の処理に慣れているヒューストンの精製会社にとっても大きな利益となる。

ベネズエラは、1960年の設立に関わった石油輸出国機構(OPEC)から脱退する可能性もある。脱退すれば、世界の石油市場に数十年にわたって及ぼしてきたOPECの影響力がさらに弱まる可能性がある。

アラブ首長国連邦(UAE)は5月1日、約60年間加盟してきたOPECから正式に脱退した。

ベネズエラの民間事業者を巡る疑問

複数のメディアは匿名筋の話として、米政府が、アレハンドロ・ベタンクール・ロペス氏が所有するノース・アメリカン・ブルー・エナジー・パートナーズと協力し、同社を事業のベネズエラ側民間運営会社とする計画だと報じた。

また、この事業は米国防総省の戦略資本局(OSC)から資金面の支援を受けるとも報じられている。

しかし、ホワイトハウスと国防総省はいずれも、取引に関与する民間事業者の特定を拒んだ。

国防総省のショーン・パーネル首席報道官は大紀元に対し「戦略資本局は民間企業の株式を取得しない」と述べた。

その上で、「法令上の権限に基づき、OSCの役割は融資、融資保証、技術支援という形で資本支援を提供することに厳格に限定されている」と説明した。

民間事業者を巡る懸念について、交渉に詳しい関係者は大紀元に対し、米政府は国営石油大手ベネズエラ国営石油会社(PDVSA)を含むベネズエラ政府機関との提携をすべて排除したと述べた。

関係者によると、米国務省と米戦争省が民間事業者と交渉して合意をまとめた。事業が効果的に運営されるよう、強力な監督措置も設けたという。

国防総省のキングスリー・ウィルソン報道官は、条件付き融資確約の手続きに関連する具体的な商業上または法的な検討事項について、コメントを控えた。

ウィルソン氏は大紀元に対し、「OSCは、資本支援の実施または融資の実行に先立ち、適用されるすべての法律上および規制上の要件を満たすため、候補となる取引について広範なデューデリジェンスと包括的な法的審査を行う」と述べた。

合意への反応

米国とベネズエラの合意については、政治家や経済学者から賛否双方の反応が出ている。

ハーバード大学教授で、ベネズエラの元企画相であるリカルド・ハウスマン氏は、合意を「恥ずべき取引」「大失敗」と批判した。ベネズエラ暫定政府を率いるロドリゲス氏には、「ベネズエラをこのような合意に拘束する正統性も憲法上の権限もない」と主張した。

ベネズエラの経済学者フランシスコ・ロドリゲス氏はXへの投稿で、この合意はトランプ氏の圧力の下で結ばれたもので、ベネズエラ国民の利益にならないと批判した。同氏はベネズエラ国民議会に対し、自身が「略奪的な合意」と呼ぶ今回の取引を拒否するよう求めた。

エリス氏によると、暫定政府と合意を結ぶことは、米政府に一定の政治的リスクをもたらす。長期的な政策目標を達成するには、ベネズエラに正統な民主政府と法の支配が必要だと強調した。

一部の民主党議員も、合意はベネズエラの民主化を進めるのではなく、石油会社に利益をもたらすものだとして反発した。

民主党のティム・ケイン上院議員(バージニア州)は、マドゥロ氏の排除は主に、企業が石油資源を利用する機会を拡大する目的によるものだったと主張し、トランプ氏を批判した。

ケイン氏はXに「民間企業による石油の収奪のために米軍を使うことは、途方もない規模の腐敗だ」と投稿した。

民主党のクリス・バンホーレン上院議員(メリーランド州)も、同様の批判を示した。

同氏は「はっきりさせておこう。これは勝利ではない。トランプ氏が億万長者の仲間にベネズエラ産原油を与えるため、米軍人を危険にさらした証拠だ」と投稿した。

一方、一部の共和党議員は、合意が米国とベネズエラの双方に利益をもたらすと主張した。

共和党のバーニー・モレノ上院議員(オハイオ州)はXに、「ワシントンの民主党議員に任せていれば、マドゥロ氏は今も権力の座にあり、ベネズエラ産原油は半値で中国へ渡り、ベネズエラ国民は腐敗した政権に搾取され続けていただろう」と投稿した。

Emel Akan
エポックタイムズのホワイトハウス上級特派員、トランプ政権担当記者。 バイデン前政権とトランプ第一次政権時は経済政策を担当。以前はJPモルガンの金融部門に勤務。ジョージタウン大学で経営学の修士号を取得している。