軍事的冒険は経済的自殺への道…安倍元首相が中国に警告 台湾の地位向上と同盟国の連帯を呼びかけ

2021/12/03
更新: 2021/12/03

安倍晋三元首相は1日、中国が軍事的な冒険を続ければ「経済的自殺への道」を歩むことになると警告し、中国共産党指導部が「判断を見誤まらないように」日本は確固たる意志を示すべきだと訴えた。成熟した民主主義と普遍的価値を有する台湾はインド太平洋地域の「キーストーン」であると強調した。

台湾のTPP加入と地位向上を

安倍氏は台湾のシンクタンク・國策研究院が主催する「インパクト・フォーラム」でオンライン講演を行った。権威主義の中国共産党政権が地域的影響力を広げていることを念頭に、自由で開かれた民主主義の枠組みのなかで志を共にする国が結束していくことが肝要だと述べた。

このなかで安倍氏は、ルールに基づく国際秩序を強固にするために地域経済連携協定「環太平洋パートナーシップ協定(TPP)」は重要であるとして支持を示した。人権保護と民主主義の制度を揃える台湾にはTPPへの参加資格が「十二分にある」と強調した。

台湾は国際社会で発言できる地位を獲得していくべきだとも訴えた。「一つの中国理論」を主張する中国共産党の妨害により、台湾は1971年以降、世界保健機関(WHO)を含む国連組織会議への参加が阻まれている。安倍氏はこの状況に「台湾の方々は半世紀もよくぞ耐えてこられた」とねぎらい、台湾が国際的発言権を取得できるよう努力を続けると語った。また、欧米諸国からの協力も必要だと呼びかけた。

安倍氏は中国の軍拡に警戒感を示した。これまでの30年で中国の軍事費は42倍になり、今や日本の防衛予算の4倍に上る規模だと説明。今後も中国は軍拡を続けることが想定されるとし、今後の約30年間は「世界にとって最も危機に満ちた状況になる」と危惧した。

中国共産党の圧力を受ける台湾に対して、安倍氏は「自由と民主主義、人権、法の支配といった普遍的価値の旗を高く掲げて、 世界中の人が見えるようにする必要がある」と期待を込めた。「民主主義は人の自発的なコミットメントを求める制度だ。上から権力で強制するものではない。民主主義はだから強い」と語気を強めた。

直接、習近平氏に伝えた…「日本の意志を見誤らないように」

日本や台湾に圧力を与え続ける中国共産党にどう自制を求めていくのか。

安倍氏は首相在任中に、自国の領土を防衛する日本の意志を繰り返し習近平主席に伝えていたと明らかにした。

台湾と日本の領土が近いことから、安倍氏は、台湾有事は日本の有事であり、日米同盟の有事でもあると明言した。そして、習近平主席を含む北京指導部は日本の決意を「見誤るべきではない」とくぎを刺した。

「世界の歴史は、戦争がいつどんな時に起こるのか教えてくれる。自分の都合に合わせて相手の意思を軽視したり、誤解したりすると、軍事的冒険に対するハードルが下がる。そうなるのを防ぐため、私たちは自分自身の能力を高めて確固たる意志を示していく必要がある」

安倍氏は、世界経済と深い関係を持つ中国が軍事的冒険を続ければ「中国自身も深傷を負うことになる」と述べ、「経済的自殺への道だ」とけん制した。

インド太平洋構想とクアッドで連帯を

安倍氏は首相在任期間中、日本の戦略的空間を拡大すると同時に中国に実利ある行動を促すために様々な策を講じてきたと説明した。例として、最新鋭F35戦闘機の導入や離島への陸上自衛隊配備などを挙げた。

日米同盟は地域の平和と安全の協定であることをふまえ「自国の防衛努力を続けることで日米同盟はさらに力を増す」と主張した。また日米同盟という基軸のほか自身が提唱してきた「インド太平洋」という地域構想を紹介。この構想を元にした日米豪印によるクアッドを含め、地域の民主主義のネットワークであると強調した。

この地域においては、航行の自由、法の支配、基本的価値の普及と定着を図ること、質の高いインフラを通じて連結性を高め経済的繁栄を追求すること、海洋法執行能力向上を図る構想だと説いた。

台湾の存在はインド太平洋地域で普遍的価値を共有するための要であり「キーストーンだ」と例えた。台湾の国際的地位向上は日本など自由と人権、民主主義、法の支配を尊ぶ国々と国際社会の共通の責務と述べ、自由で成長し人権を保障する台湾は「日本の利益であり、世界全体の利益だ」と講演を締め括った。

激しく反発する中国共産党

中国共産党は安倍氏のスピーチに激しく反発し、同日夜には日本の垂秀夫・駐中国大使を呼び出して抗議した。外交部の華春瑩副部長は垂大使と「緊急会談」したと述べ、「中国は日本政府に対し元首相に対する措置をとるよう強く求めた」と明らかにした。

これに対し、松野博一官房長官は2日の記者会見で安倍氏の発言に「政府として説明する立場にない」と述べたうえで、垂大使から中国への伝達事項を明らかにした。「台湾をめぐる状況について、日本国内にこうした考え方があることを中国は理解をする必要がある。中国側の一方的な主張は受け入れられない」と中国側に伝えたという。

一方的に圧力をかける中国共産党とは対照的に、民主主義諸国は相次いで台湾を支持する姿勢を示している。

東南アジアを歴訪中のクリテンブリンク米国務次官補(東アジア・太平洋担当)は2日、中国による台湾の威嚇や圧力が強まっているとの認識を示し、米国は自衛支援を含む防衛と通商面で「義務と約束を果たすつもりだ」と語った。

オーストラリアのダットン国防相は10月24日のインタビューで、オーストラリアは米国と70年にわたって同盟関係にあり、中国が台湾を武力で侵攻した場合には米国と協力して対処する可能性を示唆した。

日本の安全保障、外交、中国の浸透工作について執筆しています。共著書に『中国臓器移植の真実』(集広舎)。
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