能登半島地震 災害のたびに沸く…原発デマのつぶし方

2024/02/01
更新: 2024/01/31

1月1日に能登半島地震が発生した。被災者の方の生活の再建をお祈り申し上げる。

私の関わるエネルギー問題では、この地震と同時に、能登半島にある北陸電力の志賀原子力発電所(石川県志賀町)の安全性をめぐり、デマ、不安をあおる情報が流れている。一カ月が経ち、それらはSNS上でようやく目立たなくなった。しかし大規模自然災害のたびに、原子力をめぐって同じことが繰り返される。今回の災害の情報流通の問題点を検証し、何が起こっているかを確認してみよう。そして、デマの潰し方を考えてみよう。

志賀原発の現状 事故の危険なし

今回の地震で二つの原子炉を持つ志賀原発(石川県)は災害で被災し、少し設備が破損した。しかし、人体に影響のある放射能漏れのような重大事故には至っていない。

それなのに「放射能が漏れる恐れ」、「地震で電源が喪失した」、「津波でメルトダウンするかも」などの話があふれた。こうした根拠のない情報は2011年の福島原発事故の後でも広く流布された。

実際の志賀原発の状況を簡単に説明しよう。

放射能は漏れていない。それはリアルタイムで示されるモニタリングポストの数値で明らかだ。以下ではブルーが正常値。放射線漏れなどない。

(図1)モニタリングポストの数値。1月10日時点(原子力規制庁)

2つの原子炉は新規制基準の審査中で、すでに10年以上停止している。地震で外部電源の一部は喪失したが、5回線のうち3回線は使えており、非常用の電源もある。電源喪失の可能性は極めて低く、主要機器は損傷していない。

気象庁によると、1月1日の揺れで、志賀町付近では3メートル前後の津波が観測された。志賀原発は、海面から高さ11メートルの場所に主要設備があり、そこに加えて高さ4 メートルの防潮堤が作られている。つまり海面から主要設備が水没するまで15メートルの高さの余裕がある。今回の津波による影響はない。

地震で繰り返される「原子力は危険」騒ぎ

つまり、この地震で、志賀原発に人体に影響が起きるような事故の可能性はほぼない。騒ぐ人々のリスク感覚のずれを筆者は不思議に思う。

志賀原発から北に25キロ離れた北陸電の七尾太田火力発電所(石炭、総出力120万kW)の被害は大きく、現時点で復旧のめどは立っていない。電力供給の観点からすれば、この損害の問題の方がはるかに大きく、復興への悪影響も懸念される。

原発ばかりを問題視する一部メディアや一部政党は、リスク感覚がおかしい。被災地に関心がなく、自分の反原発の主張のために、志賀原発をことさら問題にしているようだ。強く批判されるべきであり、実際にSNSでは大きな批判が出ている。

どのような施設であろうと、強い地震に見舞われたら、何らかの損傷が発生する可能性がある。それを回避し、どんなに強い地震でも傷一つ負わない施設を構築しようとすれば、頑丈すぎて使いづらく、膨大なコストや労力、時間が必要になる。被害を受けたとしても、重大事故の発生を防ぐ仕組み、対策をしっかりと講じることが大切だ。そして現実の地震の試練に、現時点で志賀原発は耐えている。

つまり、原子力の災害対策においては、リスクと対策のバランスを考え続けることが必要だ。一部の人とは異なり、賢明な日本国民の大半はその状況を理解している。地震での機材の破損を取り上げて危険だと騒ぐのは、意味のない行為だ。それを理解していない人が多すぎる。

問題解決を望まない人々

原子力に騒ぐ人々の中には、知識不足で事故を心配する人々と、反原発のために意図的に騒いでいる人々がいる。原子力反対を唱える政治家、政党、政治団体、反原発本を出したジャーナリストなどがこれに該当する。彼らは、問題の解決や沈静化ではなく、混乱を利益に変えている。

米国の初代FBI長官ジョン・エドガー・フーバー(1895-1972)は、アメリカにおける共産主義活動家を以下のように分類している。

  1. The card-carrying Communist(IDカードを持ち歩く共産主義者)
    アメリカ共産党のメンバーであることを公然と明らかにしている者。
     
  2. The underground Communist(アンダーグラウンドの共産主義者)
    アメリカ共産党のメンバーであることを秘匿している者。
     
  3. The Communist sympathizer(共産主義者のシンパ)
    共産主義者と同じ政治的な見解を有するがゆえに、潜在的な共産主義者である者。
     
  4. The fellow traveler(同伴者・同調者・協力者)
    共産主義に同調するが、影響力のあるアドボケイト(代弁者・支持者・唱道者)でもなければ、潜在的な共産主義者でもない者。利益を得るものもいる。
     
  5. The dupes(騙されやすい者・まぬけ・カモ・手先・傀儡)
    明らかに共産主義者でなく、潜在的な共産主義者でもないが、例えば、平和主義や少数民族・宗教的な少数派など社会的少数者のための公民権(人権・自由)を代弁・支持・唱道する、聖職者・宗教指導者や、市民的・政治的権利の違法な圧縮であるとして反対・抗議する者など、その政治的な言動が共産主義者による破壊を円滑・可能にする者。

フーバーは、最初の共産党構成員を「確信層」とか「コア(核)」とも読んでいる。彼らは思想を変えない。それとの対話ではなく、その活動を「デュープス」や一般市民に影響させないようにすることが必要だと説く。

フーバーは共産主義への敵意がむき出しにするなど、エキセントリックな面のある人間だ。福島原発事故や外国人労働者問題など、解決の糸口のみえない社会問題を取材してきた筆者から見れば、フーバーの指摘は遠からず的確だと思える。共産主義に限らず、社会問題で特定の思想に凝り固まった人たちが、問題の解決ではなく、撹乱を仕向けるのだ。

今回の志賀原発をめぐるデマでも、おかしな情報のある程度は、そのような人々から発信されている。これが一つの場所からの指示か、漠然とした合意の中で発せられるのかはわからないが、悪意のデマを拡散する少数の発信源が、SNSを通じて社会を混乱させてゆく。

問題を止めるには? 政府しかできない反論を

この混乱を止めるには、どうすれば良いか。反論することがその一つの方法となる。罵り合いという不毛なことではなく、当事者が事実をしっかり示し続ければ良い。そんな反論さえ、多くの場合に行われない。

23年秋、福島第一原発の処理水の海洋放出をめぐる問題があった。当事者である日本政府、東京電力が事実を発信し続けた。すると、そのデマ拡散の「発信源」である中共政府も、国際社会で動けなくなった。私は大紀元への寄稿記事「『馬を鹿』からみる…原発処理水で事実無視 中共政権の行く末」で問題を分析したので参照いただきたい。

『馬を鹿』からみる…原発処理水で事実無視 中共政権の行く末

日本国民は賢明だ。正確な情報を手にしていれば、デマを見抜くことができる。

ところが、今回の志賀原発では、どうも様子が違った。北陸電力、電気事業連合会は、志賀原発の安全性を積極的に広報した。ホームページなどでわかりやすい文書、映像、写真を掲載した。北陸電力はホームページでトップに「令和6年能登半島地震について」 などのコンテンツを設け、発信し続けている。

しかし、原子力の安全を担う独立行政委員会の原子力規制委員会、それの指示を受けて実務を行う原子力規制庁は、志賀原発の安全性を積極的に広報していない。ホームページを見ても、志賀原発の状況がわかるようになっていない。

行政当局である規制委員会は、自分たちの安全性の広報は原子力推進と受け止められると及び腰になっているようだ。しかし、その消極的な姿勢は、意図して原子力を潰そうという人たちの存在を考えると頼りない。地震災害ごとに、原子力への攻撃が広がり、原子力への不安がそのままになっている。このままでは、地震国日本で同じ混乱が繰り返されるだけだ。

これは原子力だけではない。他の社会問題でも、不気味な人たちや外国の影が見える。2024年は東アジアで、台湾、朝鮮半島での戦争が起きかねない危険な状況になっている。そうした中で、今のままで大丈夫なのだろうか。

デマやその背後にある日本への攻撃に反撃する、言論戦での仕組みづくりが必要だ。しかし、平和ボケの日本政府にそれを期待するのは難しい。日本の安全保障が心配だ。

ジャーナリスト。経済・環境問題を中心に執筆活動を行う。時事通信社、経済誌副編集長、アゴラ研究所のGEPR(グローバル・エナジー・ポリシー・リサーチ)の運営などを経て、ジャーナリストとして活動。経済情報サイト「with ENERGY」を運営。著書に「京都議定書は実現できるのか」(平凡社)、「気分のエコでは救えない」(日刊工業新聞社)など。記者と雑誌経営の経験から、企業の広報・コンサルティング、講演活動も行う。
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