国際 「WHOが諮問機関から公衆衛生の世界的権威へと昇格する」

米24州知事が共同でパンデミック条約に反対 バイデン氏に署名しないよう要請

2024/05/24
更新: 2024/05/25

米バイデン政権が進めているパンデミック条約などの交渉に対し、24州の知事が共同で反対の声を上げている。知事らは、同条約が世界保健機関(WHO)に「米国とその国民に対する前例のない違憲の権限を付与することになる」と懸念を示した。

バイデン氏に宛てた3月22日付の書簡で、知事らはパンデミック条約と国際保健規則(IHR)の改定案に「一致団結して反対する」と表明した。

知事らは、書簡の中で「パンデミック条約とIHR改定案の目的は、WHO、特にその制御不能な事務局長に、言論やプライバシー、旅行、医療の選択、インフォームド・コンセントなどの自由を含むアメリカ国民の権利を制限する権限を付与することだ。我々の憲法の基本原則に違反する」と述べた。

「国家主権を弱体化させ、国家の権利を侵害し、憲法で保障された自由を危うくする」「結果、WHOは諮問機関から公衆衛生の世界的権威へと昇格することになる」とも記した。

パンデミック条約とIHR改定案が採択されれば、「公衆衛生上の緊急事態」を宣言した際に、WHOに権力が集中する可能性があるとして問題となっている。

アラバマ州、アラスカ州、アーカンソー州、フロリダ州、ジョージア州、アイダホ州、インディアナ州、アイオワ州、ルイジアナ州、ミシシッピ州、モンタナ州、ネブラスカ州、ネバダ州、ニューハンプシャー州、ノースダコタ州、オクラホマ州、サウスカロライナ州、サウスダコタ州、テネシー州、テキサス州、ユタ州、バージニア州、ウェストバージニア州およびワイオミング州知事が書簡に署名した。

5月27日〜6月1日に予定されている世界保健総会での採択を前に、条約交渉が大詰めを迎えるなか、WHOは最終合意に向けて権限を一部縮小したようだ。

最新のIHR改定案では、加盟国が「WHOを国際的な公衆衛生対応の指導・調整機関として承認」し、「公衆衛生上の緊急事態」にはWHOに権限を委譲するという従来の条項が削除された。また、WHOの勧告は拘束力を持たないとも書かれている。

以前の改定案では、権限の範囲について、WHOは「公衆衛生に影響を与える可能性のあるすべてのリスク」に対処するとしていた。気候変動や移民問題も「公衆衛生上の緊急事態」と解釈される可能性があり、権限を行使する自由度が大幅に拡大されていた。

最新の改定案では、WHOの権限の範囲を疾病に限定しようとしている。

現在、WHOは政治家や著名人を起用して、パンデミック条約とIHR改定案の広報キャンペーンを展開し、加盟国の署名を促している。

3月20日、英ゴードン・ブラウン元首相はWHOを擁護し「パンデミック条約の国際的合意を白紙撤回にしようとする陰謀論者らによるフェイクニュースのキャンペーンを暴露する」国際的な対応を行うよう呼びかけている。

「いかなる国も主権を委譲することはなく、自国の法律を脇に置くようなことにはならない」と強調した。

WHOに権限を付与するか否かという問題は、米国では党派性が表れた問題になっており、民主党には支持する人が多い一方で、共和党員は概ね反対している。

上院の共和党議員全員が条約に署名しないよう要請

5月1日、上院の共和党所属の議員49人全員がバイデン氏宛ての書簡に署名し、WHOのパンデミック条約とIHR改定案に署名しないか、署名する場合は憲法の規定通りに上院での条約承認を経るよう要請した。民主党の上院議員はこれまで、上院での条約承認を経ることについて、前向きな姿勢を示していない。

共和党の上院議員らは、書簡の中で「予測可能であったが、パンデミックにおけるWHOの失敗は甚だしく、わが国に永続的な損害をもたらした」と指弾した。

また書簡の中では、「米国は、WHOが自身の最も基本的な職務を果たせなかった今回の事態を無視する余裕はなく、IHRの改正やWHOの権限を拡大するパンデミック条約を検討する前に、包括的なWHO改革を主張しなければならない」とした。

そのうえで、「我々は、バイデン政権がこのような構想を支持し続けていることを深く憂慮しており、軌道修正するよう強く求める」と強調した。

米国では、公衆衛生は州政府が固有の権限に基づいて行われ、州政府は連邦政府の政策や指示に制限されず、州独自で公衆衛生の政策を実行できる。共和党が多数を占める州では、パンデミック条約に対し積極的に反対する動きがある。

ルイジアナ州およびフロリダ州では最近、州政府職員はWHOの強制的な命令には従わないとする法案が可決され、オクラホマ州など他の州でも同様の法律が検討されている。

米22州の司法長官も8日、バイデン氏宛てた書簡に署名し、パンデミック条約に署名しないよう求めるとともに、WHOが各州の公衆衛生政策を決定しようとするいかなる試みにも抵抗すると表明した。

司法長官らは、「最新の改定案は以前より大きく改善されたとはいえ、まだ問題が多い」「交渉手続きは流動的かつ不透明であり、以前の改定案にあった最も悪質な条項の復活を許す恐れがある。結局のところ、これらの目的は公衆衛生を守ることではない」と述べている。

「WHO、特に事務局長に権限を委譲し、言論の自由、プライバシーの自由、移動の自由(特に国境を越えた移動)、インフォームド・コンセントに対する市民の権利を制限しようとしている」と非難しました。

経済記者、映画プロデューサー。ウォール街出身の銀行家としての経歴を持つ。2008年に、米国の住宅ローン金融システムの崩壊を描いたドキュメンタリー『We All Fall Down: The American Mortgage Crisis』の脚本・製作を担当。ESG業界を調査した最新作『影の政府(The Shadow State)』では、メインパーソナリティーを務めた。
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