米中間で貿易戦争が激化する中、中国経済の輸出依存体質と中共の貿易政策が世界経済に深刻な影響を及ぼした。経済学者ジョージ・マグナス氏は、中共と良好な貿易関係を築こうとする姿勢を「危険な幻想」と断じ、各国に対して警戒を促した。
5月5日、中国経済の動向を長年にわたって分析してきたマグナス氏は、米中双方の利益を狙って中共との協調を模索する行為が「危険な幻想」であると警告する論考を公表した。
オックスフォード大学中国センターの研究員であるマグナス氏は、英紙『タイムズ』に寄稿し、米中が互いに課す関税がそれぞれ145%、125%に達し、もはや貿易禁止措置に近い状況にあると指摘した。こうした状況が、二国間貿易の崩壊を招く可能性があるとも述べた。
マグナス氏は、現下の情勢において、中共は、圧力を受けながらも好機を狙い、トランプ政権の経済・金融分野での脆弱性を見極めようと分析し、一方、アメリカは、インド、日本、韓国、ベトナムなどと新たな貿易協定を結び、有利な条件と引き換えに関税引き下げを模索中だ。
西側諸国には、「双方の利益を享受しつつ、中共との良好な関係を維持できる」という幻想が根強く残っていると、マグナス氏は観察した。
「多くの人々が誤った前提を共有し、英財務省や他国政府、多数の評論家がその考えを推進してきたのだ。それは、過激な関税政策や信頼性に乏しいアメリカの存在に直面したとき、北京との緊密な関係こそが安心と救済をもたらすという信念である」とマグナス氏は指摘し「このような考え方は幻想に過ぎず、極めて危険である」と明言した。
マグナス氏によれば、中国の輸出量は、世界全体の貿易成長率の4倍という異常なペースで拡大してきた一方で、輸入量は継続的に減少してきた。この傾向は、中共の重商主義的政策と産業保護策によって形成されており、各国が求める「中国による国内消費拡大と輸入促進」とは真逆の方向へ進んだ。
中共の経済モデルは、構造的に変化を拒み、今後も輸出偏重の姿勢を維持するとマグナス氏は見ている。さらに、中国やその他の国々が、世界消費の30%を担うアメリカの市場を、代替することは不可能であると断言した。
現在、中国は、アメリカ市場以外の販路を懸命に開拓しており、各国は、その動向に対する警戒感を高めた。
中国経済は、依然として低迷が続き、2025年3月の購買担当者指数(PMI)では、新規輸出受注に関する指標が2022年のパンデミック以来の最低水準を記録した。中国沿海部の省は輸出産業の中心地であり、今後、大規模な生産縮小や失業者の増加が不可避となる見通しであり、2024年には、中国経済成長の約3分の1を占める輸出が貿易戦争よって、すでに弱体化している経済にさらなる悪影響を及ぼすことが確実視されるが、マグナス氏は、中共が、選択可能な景気刺激策にも限界があると指摘した。金融緩和は、人民元の為替レートを押し下げ、財政出動はすでに重い債務負担をさらに悪化させるからであった。
中共の貿易政策と各国への警告
こうした状況により、中国は輸出成長に依存せざるを得ず、中共は、アメリカ市場の縮小を補うため、代替となる輸出先を模索する行動を加速させた。
マグナス氏は、ヨーロッパ、イギリス、そして複数の中所得国が、中国製品の流入に対する警戒を強める必要があると主張し、すでに約50の主要貿易国が、自国の鉄鋼、自動車、その他産業を守るために中国製品の輸入に制限をかけ、中国からのさらなる流入には、極めて敏感に反応中だ。
長期的に見れば、関税は、二国間貿易のバランスに影響を及ぼすが、世界規模の貿易不均衡に対しては、大きな効果を持たない。マグナス氏は、貿易不均衡の本質を、各国の国内貯蓄と投資の構造にあると位置づけた。
短期的には、アメリカは依然として大規模な貿易赤字を抱え、中国は黒字を維持し続けるだろうが、アメリカの関税政策は貿易赤字と黒字の地理的分布に変化をもたらすことになると言う。
貿易戦争の進行とともに、中国製品が第三国を経由して、アメリカ市場に再流入するケースが増加している。この現象が、トランプ政権が中国製品の迂回輸出や、各国との個別交渉に注力する理由となっていた。これまで、中国はメキシコ、カナダ、タイ、ベトナムといった国々を通じて、アメリカ市場へのアクセスを維持してきた。
マグナス氏は、『赤い旗:なぜ習近平の中国は危険にあるのか(Red Flags: Why Xi’s China is in Jeopardy)』の著者であった。
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。