アメリカのトランプ大統領は、難攻不落の新たな防空システム「ゴールデンドーム」構想を発表した。開発に成功すれば、アメリカ全土に大陸間弾道ミサイル(ICBM)1発の侵入も許さない体制ができあがるが、その道のりは遠い。主な原因は、実戦とかけ離れた兵器の運用テスト体制にある。
アメリカ海軍のケビン・アイヤー元大佐は4月5日にジャーナルで「The Illusion of BMD Testing in Ships(弾道ミサイル防衛運用テストの幻想)」を発表、イージスシステムを搭載した米駆逐艦および巡洋艦の弾道ミサイル迎撃シミュレーションがいかに非現実的かを指摘した。
テストで使用される艦船には電子機器を冷やすための特殊な空調設備が搭載され、博士レベルの技術者が入念な準備を行う。また、気球から発射されたミサイルを巡洋艦が実際に迎撃する際は、実戦では想定できない過剰支援、事前準備、状況設定がなされていた。
最近ではコンピューター上で弾道ミサイルの迎撃をシミュレートするため、ますます実戦からかけ離れているという。総じて、アイヤー氏は実戦での有効性を懸念しており、「過大評価されたテストはミスリーディングで、悪く言えば幻想だ。あたかも実際の戦闘で問題なく使用できるかのような印象だが、今になってもその真偽は定かではない」と述べた。
兵器運用テストにおける万全な支援体制や特殊設備の搭載は、実際の運用と著しく乖離している。しかし、今やそれが軍需産業の標準作業手続き(SOP)となり、退役軍人や天下りした官僚らによって脈々と継承されている。
このような非現実的な運用テストは、陸上における弾道ミサイル防衛の脆弱性をも露呈させる。例外的な支援と楽観的な状況設定の下であってもテスト結果は平凡なもので、高度な核兵器保有国によって防空システムが突破される可能性を全く考慮していない。根本的な改革が行われない限り、宇宙空間での弾道ミサイル防衛構想にさえ粗末な運用テストが用いられることになる。
加えて、宇宙空間でのミサイル防衛構想は技術的、外交的な問題も抱えている。
目下、アメリカは信頼に値する弾道ミサイル防衛網を構築できていない。当然、トランプ大統領の発表したゴールデンドームはその克服を前提としている。
しかし、現状の運用テスト体制が原因で実戦での有効性を担保できていないのは弾道ミサイル防衛にとどまらない。2015年6月、アメリカ海兵隊はF-35プロジェクトの継続に固執するあまり、独自で戦闘機の「運用テスト」を行った過去がある。ロッキード・マーチン社の技術者をはじめとする多数の支援人員が強襲揚陸艦に配置され、故障に備えた予備機も含め通常配備をはるかに上回る支援体制でF-35Bの運用テストが行われた。
要するにF-35Bは、周到なお膳立てがなければテストに合格できなかったことを意味する。それでもなお、海兵隊はこのテスト結果を受けてF-35Bは問題なく任務遂行ができるとの判断を下した。兵器システムの運用試験・評価を担う米国防総省の運用テスト・評価局(DOT&E)は、海兵隊による運用テストは「不正だ」と明確に指摘した。
政府監視団体やシンクタンクらの見解では、10年経過した今のDOT&Eは軍需産業、軍部、国会からの独立性を著しく失った。DOT&Eは、それまで公開していた報告書を機密としてF-35の信頼性や運用面での欠陥を隠蔽し、本格的な生産フェーズである「フルレート生産」への移行を許可した。
もう一つの例は、ベトナム戦争で配備されたスパローミサイルとF-4ファントム戦闘機だ。当初、試験運用でのミサイル命中率は90%以上を誇り、戦闘機に機銃を搭載する必要はないとされた。機銃を取り外したF-4ファントムは視程外射程ミサイル(BVR)であるスパローミサイルを搭載して実戦に投入されたが、その命中率は90%を下回った。さらに、「視程外」で使用されるはずのスパローミサイルは多くが「視程内」、すなわちドッグファイトの距離で命中していた。
このようなシステム的欠陥によって機銃をもたないF-4は劣勢に追い込まれ、ソ連のMIG-17やMIG-21の機関銃と空対空赤外線誘導ミサイルで撃墜された。当時のアメリカ海軍および海兵隊は早急にガンポッド(機関銃)をファントムに取り付け、応戦した。
これまで幾度となく、兵器会社の運用テストに依存する過ちを繰り返してきた。人命、装備の損失のみならず、予算オーバーで信頼性に乏しく、基準以下の性能しか発揮できない兵器システムに対して国民の血税が湯水のように使われてきた。
しかし、これが弾道ミサイル防衛となると話が変わる。1発のICBMが防空網を突破すれば、数十万の市民が命を落とす。私を含めアナリストらは、運用試験が抱える欠陥を省みて、アメリカが北朝鮮などのならず者国家から発射されたICBMを1発すら防げないのではないかと危惧している。
世界の核保有国は、1発で都市を破壊できる弾頭が16もついた弾道ミサイルを数百発同時に発射できる。それらの核攻撃からアメリカ全土を守ることのできる弾道ミサイル防衛システムを開発できる可能性は、現時点でゼロに等しい。
これは、ゴールデンドーム構想にとって何を意味するのか。同構想は画期的だが、到達できる目標はずっと限定的なものになるということだ。いいところ、ならず者国家から発射された少数の弾道ミサイルを迎撃できる程度の性能だろう。しかし、それほどの防衛力でも相手の核先制攻撃に不確定要素をもたらすため、抑止力としての価値は大きい。
とはいえ、それを達成するにも完全な第三者機関によるいっそう厳格な運用テスト、評価が必要だ。そして、1発のICBMに対して数発のミサイルではなく大量のミサイルを迎撃に向かわせ、実戦で99.9%以上の迎撃率を保証し、核兵器から市民を守る強い覚悟を示すべきだ。
限定的な核ミサイル攻撃に対処できる防衛システムであっても、それを構築する道のりは遠く、莫大な予算が必要となる。けれども、ゴールデンドームが開発、配備され、北朝鮮のような核保有国が発射した少数の核ミサイル数発に対して100%近い迎撃率を発揮できるならば、十分価値のある目標と言える。
悲しいことに、1発のICBMに防空網を突破させる方法は無数にあり、ゴールデンドームによってならず者国家が発射した数発の核ミサイルを迎撃できるだけでは不十分だ。我々は当分の間、依然として核兵器による相互確証破壊(MAD)に依存せざるを得ないだろう。
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