アメリカ政府は、中国の風力タービン大手・明陽智能によるイギリス進出計画に対し、国家安全保障上のリスクがあると警告した。イギリス政府は、投資の可否を慎重に審査しており、中国企業の欧州エネルギー市場への進出が新たな国際的懸念となっている。
ワシントンは、イギリス政府に対し、明陽智能(MingYang Smart Energy)社がイギリス国内に建設を予定する工場が、国家安全保障に悪影響を及ぼす可能性を指摘した。アメリカ政府当局者が「フィナンシャル・タイムズ」に対して、明陽社によるスコットランド工場建設と北海風力発電所向けの設備供給に関し、トランプ政権が懸念をイギリス政府に伝達したと明かした。
この警告は、イギリス政府が投資の可否を検討していたタイミングと重なった。明陽社は民間企業であり国有企業ではないが、外部からは、中国共産党(中共)当局の影響力が同社の経営判断に及ぶとの見方が広がっている。
かつてイギリスでは、中国の鉄鋼企業「敬業グループ」との取引に対する批判が高まり、これによりイギリス政府は明陽社によるイギリス洋上風力発電サプライチェーンへの参入について、慎重姿勢を強めた。現在も関係機関が投資阻止の是非を議論しており、国家安全保障法に基づいて、閣僚が外国投資を拒否する権限を持つものの、最終判断はまだ下されていない。
イギリス政府の報道官は、明陽案件への具体的コメントを避けつつ、「いかなる事案であっても国家安全保障を犠牲にすることはない」と表明し、「エネルギー関連投資は最高レベルの審査を受ける」と強調した。
アメリカはまた、イギリス政府がロンドン市内に、新たな中国大使館の設置を許可した件を含め、中国のイギリスにおける活動全般に対して、たびたび懸念を示してきた。「フィナンシャル・タイムズ」は、こうした動きがキア・スターマー首相による対中関係改善の試みに重なると分析している。
アメリカ安全保障当局は、中国製風力タービンに電子的監視機能が搭載されている可能性を警告し、特に軍事施設の近隣に設置された場合、リスクが飛躍的に高まると指摘する。ワシントンは以前、明陽社がドイツ国内で事業を展開することについても、ベルリンに警戒感を伝えていた。
明陽社は、これまでイギリスで、風力タービンの製造実績を持たなかったが、複数の開発業者と協議を進めており、北海およびケルト海における浮体式洋上風力発電設備の供給計画を進行中である。対象にはGreen VoltプロジェクトやCerulean Winds社の案件が含まれ、さらにスウェーデン企業Hexiconとも優先供給契約を締結して、ケルト海プロジェクトに関与していた。これらの協業を通じて、明陽社は、ヨーロッパにおける事業拡大を加速させてきた。
中共軍と関係があることが明らかになる
「ニュースウィーク」によれば、「明陽グループ」は退役軍人である張伝偉が設立した。張は中共および人民解放軍と密接な関係を築いており、この企業が大量の退役兵士を雇用している事実を受け、NATO加盟国の間で、安全保障上のリスクに対する懸念が高まった。
中共広東省退役軍人事務庁のウェブサイトに、張伝偉に関する略歴およびインタビューを中国語で掲載した。、張は1978年、16歳で人民解放軍に入隊し、18歳で共産党への入党を申請した。同ウェブサイトが2023年に公開した略歴は次のような内容である。「共産党入党以来、張伝偉は一貫して党に忠誠を誓い、信念を堅持し、本来の姿勢を守り、入党時の初心と誓いを実践してきた」「彼は産業の力で国家を興し、産業を通じて国家に貢献することを使命としている」と記されている。
さらに略歴に、このグループ企業が300人以上の退役兵士を雇用していることも明記され、2022年時点で、チーム構成の過半数が退役兵士の貢献によるものである。彼らは「突撃隊」のリーダーであったり、重要任務の中核を担っていたとも記されているが、ただし、「突撃隊」の具体的な役割や勤務地についての説明はなかった。
2024年1月、ドイツ国防・戦略研究所(GIDS)は報告書を発表し、中共が「明陽グループ」などの民間企業を活用して、世界秩序に影響を及ぼす手段を得ようとしていると警告した。これに先立ち、張伝偉は全国人民代表大会の代表として、南シナ海の係争海域に、風力発電所を建設する提案を行った。これらの海域は、中国の排他的経済水域を超えていたという。
同研究所は、危機発生時に、中国側が管理する重要インフラを人為的に操作し、機能停止させる可能性があることを指摘した。
「ニュースウィーク」が入手した機密報告によれば、このシンクタンクは、中国企業による風力発電設備の供給を容認することが、技術的・政治的・サプライチェーン上のリスクを招くと判断し、ドイツ政府に対して明確に拒否するよう勧告した。
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