正直「観光どころじゃない」? そんな言葉が思わずこぼれるほど、北京の街はどこか張り詰めた空気に包まれている。
観光に来たはずなのに、歩くたびに止められ、荷物検査に身分証の提示。気軽な旅行のはずが、いつの間にか緊張を強いられる時間へと変わっていく。
北京では、もともと厳しかった監視体制をさらに強化している。ビッグデータと顔認証を組み合わせ、身分証の情報と生体データを結びつける仕組みが広がり、個人の行動はほぼ追跡される状態にある。
実際に北京を訪れた観光客は、5日間で手荷物検査を6回、身分証の確認を15回も受けたという。地下鉄の乗り換え口や観光地の入口、公共スペースでも確認が行われ、「どこへ行っても止められる」と不満を漏らした。移動のたびに足止めされる状況に、旅のリズムは何度も途切れる。
現地の人の話でも、こうした確認は日常化している。特に天安門広場や中南海(中国の最高指導部が集まる場所)周辺、前門などでは検査が厳しく、地下鉄でも基本的に手荷物検査が行われ、場所によっては身分証の提示を求める。
さらに、特定の人々に対しては通過すら許さないケースもある。長年、政府に訴えを続けてきた人々などは、身分証を提示した時点でその場で止められ、地元に送り返されることもある。
監視は空間だけでなく「人」に向けられている。北京市内のホテル関係者によると、宿泊客の身分証番号が「65」で始まる場合、追加の登録や警察への報告が求められることがある。「65」は新疆ウイグル自治区の番号を示すもので、出身地だけで管理対象として扱われる実態がある。新疆出身の漢族でも対象となり、チベット族については宿泊自体を断られるケースもある。
北京では顔認証システムの導入も進んでいる。街中に設置した監視カメラと連動し、人が現れるとすぐに身元や過去の情報と照合する。誰がどこから来たのか、どのような経歴を持つのかまで把握する仕組みだ。
また、宿泊、交通、通信、インターネットの利用情報も当局のシステムと連動している。こうしたデータの統合により、個人の移動経路は継続的に記録される。
市民の間では「安全対策を超えている」「出かけるだけで疲れる」といった声が広がる一方、当局はテロ対策や社会の安定を理由に管理を強化している。
自由に歩くことすらためらう空気が広がる北京。観光客にとっても、ここはもはや「見る街」であると同時に、「見られる街」だ。
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