世界の中央銀行でつくる国際決済銀行(BIS)の委員会が10月末、決済システムの将来像をまとめた報告書を公表した。日本銀行によると、技術革新や利用者需要の変化、新たな主体の登場で決済システムは著しく進化しており、その構造は多様化・複雑化している。それでも中央銀行のお金が信頼の土台であるという構図は変わらないという。この変化は私たちの暮らしと経済に何をもたらすのか。
財布から現金が消える日常
変化はすでに足元で進んでいる。経済産業省によると、2025年のキャッシュレス決済比率は58.0%、決済額は162.7兆円に達した。政府は2030年までに65%、将来的には80%への引き上げを目指す。背景について日本総合研究所は、スマートフォンの普及による生活のデジタル化、コロナ禍を機にした非接触決済やネット通販の拡大、マイナポイントなど政府の推進策を挙げている。
「自動で動くお金」の登場
次の波は、お金そのもののデジタル化である。株式会社ディーカレットDCPによると、ゆうちょ銀行は2026年度中をめどに、預金をブロックチェーン上のデジタルな札として扱う「トークン化預金」の取り扱い開始を検討していると発表した。預金保険の対象とするなど、安心して使える設計を目指すという。
ゆうちょ銀行は不動産会社などと家賃決済の自動化を試す実証実験も始めた。契約条件と支払い処理を連動させ、家賃や光熱費を即時に決済したり、一定の期間内で支払日を柔軟に変更・指定したりできる仕組みだ。「月末にまとめて引き落とし」という習慣は、過去のものになるかもしれない。
民間の動きも速い。円建てステーブルコインを発行するJPYC社によると、発行開始から1年で累計発行額は120億円、口座開設数は2万8千件以上となり、実店舗やECサイトなど150以上の事業者が決済に導入した。
経済にはコスト減と競争の波
経済面でも送金コストが低下し、競争の活発化しており大きな動きを見せている。ロイターによると、2022年に銀行間の送金網「全銀システム」がPayPayなどの資金移動業者に開放された際、全国銀行協会会長は送金コストの引き下げにつながる可能性があり、キャッシュレス化に大きく寄与すると期待を示した。
先行例はブラジルにある。新興市場向けの国際送金サービスを専門とするグローバルテクノロジー企業EBANXによると、ブラジル中央銀行が運営する即時決済「Pix(ピックス)」は、ブラジルの中央銀行によると1億7千万人以上の消費者がPixを利用しており、2020年の開始から2025年9月まで、Pixは1962億件の取引を処理し、16兆米ドルを移動させたという。
便利さの裏に潜むリスク
ただし、良いことばかりではない。日銀によると、銀行預金は預金保険や中央銀行口座へのアクセスなど強固な制度に支えられている一方、ノンバンクには通常これに相当する仕組みがないと指摘。見た目は同じ「デジタルの円」でも、万一のときの守られ方は違うのである。
報告書は、中央銀行と民間のどちらか一方が経済のすべてのお金を供給する状況では、安定性も効率性も十分に確保されないとし、国際協力を持続的かつ強固に続ける重要性を強調している。
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