米国防衛戦略が第一列島線へ 新4か国枠組みで対中抑止を強化

2026/07/21
更新: 2026/07/21

アメリカは、日増しに厳しさを増す西太平洋の安全保障上の課題に対応するため、防衛の重心を広範なインド太平洋地域から第一列島線へと移しつつある。日本、アメリカ、オーストラリア、フィリピンで構成される「新たな4カ国安全保障枠組み」の台頭は、第一列島線の安全保障環境を変えつつある。

米太平洋軍の名称復活 第一列島線重視を鮮明に

2026年6月16日、米国防総省は、インド太平洋軍の名称を1947年の創設時の名称である米太平洋軍に戻すと正式に発表した。

これに伴い、米国は従来の日米豪印戦略対話「Quad」について、首脳級から外相級へと位置づけを引き下げた。その一方で、アメリカ、日本、オーストラリア、フィリピンで構成される「新たな4か国安全保障枠組み」(Squad)を、西太平洋防衛体制の中核に据えようとしている。

太平洋軍の担当範囲に変更はないが、米政府関係者はこれを「歴史的な原点回帰」と位置づけている。ヘグセス米戦争長官(国防長官)は、今年6月にシンガポールで開かれたシャングリラ対話での演説で、「インド太平洋」ではなく、一貫して「太平洋」という言葉を使った。これは、2025年11月に発表された「国家安全保障戦略」で示された、第一列島線の防衛をさらに強化する戦略方針をうかがわせるものだ。

同戦略は、アメリカが「第一列島線のどこであっても侵略を阻止できる軍」を構築し、「敵対勢力を抑止し、第一列島線を守る」と明記している。これは、可能な限り広範なアメリカの同盟国グループを築き、Quadやバイデン政権時代のインド太平洋経済枠組みのような多国間協力を進める戦略ではない。むしろ、対象をより明確に絞った抑止戦略であり、広大なインド太平洋地域から西太平洋の中核地域へと焦点を移すものだ。インドや東南アジアの一部は、この中核地域には含まれない。

フィリピンが新要衝に インドに代わる新たな4か国枠組み

インドは長年、非同盟政策を維持してきたため、西太平洋で実際の共同作戦に参加することは難しい。これに対し、米国防総省は、地理的優位性と高い連携能力を備えた同盟国に資源を集中させている。新たな多国間安全保障枠組みに参加する4か国は、いずれもアメリカと正式な軍事同盟条約または二国間防衛協定を結んでいる。

こうした条約に基づく高度に一体化した軍事同盟により、米軍はこれらの同盟国の領土で、前方展開、後方支援、共同訓練を円滑に実施できる。なかでも最も注目されるのは、フィリピンがインドに代わり、4か国枠組みの新たな一角となったことだ。

フィリピンは第一列島線の南部の要衝に位置し、バシー海峡と南シナ海の重要な深水航路を直接押さえている。アメリカの安全保障戦略におけるマニラの地位向上は、アメリカの太平洋戦略の重心が第一列島線へと移っていることを示している。日本とフィリピンはもはや、抽象的な「自由で開かれた」構想上のパートナーにとどまらず、アメリカ主導の抑止力を支える前方展開拠点となっている。

第一列島線にミサイルとF-35 米軍の対中抑止強化

この戦略に対応する形で、トランプ米大統領の2期目の初めから、第一列島線の軍事化は加速している。

近年、米陸軍はフィリピンに「タイフォン」中距離打撃システムを配備した。また、同システムを山口県や鹿児島県などにたびたび展開し、共同演習を通じて迅速な機動展開と前方配備能力を検証している。さらに米軍は、沖縄、バタン諸島、ルソン島に「海軍・海兵隊遠征艦艇阻止システム」も配備している。これらのシステムが相次いで配備されたことで、米軍と地域の同盟国は、地上配備型の長距離精密打撃能力を手にすることになった。

「タイフォン」システムは、標準的なMk41垂直発射システムを採用しており、超音速で防空網を突破する能力を持つ「スタンダード6」ミサイルや、長射程の「トマホーク」巡航ミサイルを発射できる。その射程圏は台湾海峡、南シナ海、中国本土沿岸部の大半に及び、重要軍事施設や潜在的な陸海空部隊の集結地を広くカバーする。この配備は、冷戦後のアメリカが西太平洋で欠いていた地上配備型中距離打撃能力の空白を埋めるものだ。

地上配備型ミサイルシステムに加え、F-35ステルス戦闘機も第一列島線における制空・制海作戦の中核となりつつある。

日本、韓国、オーストラリア空軍のF-35Aに加え、日本に駐留する第7艦隊の空母や強襲揚陸艦に搭載されるF-35C、F-35Bを含めると、西太平洋に展開するF-35戦闘機の総数は300機を超えている可能性がある。ステルス能力と高度なセンサー融合技術を備えたこの戦闘機は、高い脅威下でも敵の防空網を突破し、偵察、制空、精密打撃任務を遂行できる。また、統合作戦部隊と目標情報を共有できるため、第一列島線の共同作戦における重要な結節点となっている。

同時に、米海軍は空母打撃群への依存を減らし、より柔軟で分散型、かつ高い攻撃力を持つ海上打撃戦力の構築を進めている。先進レーダーAN/SPY-6を備えたアーレイ・バーク級駆逐艦や、バージニア級原子力攻撃潜水艦は、すでに米軍の前方展開における重要戦力となっており、第一列島線周辺の海域や重要海峡で、哨戒、対潜、対艦、情報監視任務を行っている。

米国防総省は、太平洋への前方展開を支えるため、予算配分の見直しも進めている。「太平洋抑止イニシアチブ」を通じて、在日米軍基地とフィリピンの米軍関連施設の防護能力を強化し、グアムの総合防空システムを拡充している。さらに、長距離対艦ミサイル(LRASM)や射程延伸型統合空対地ミサイル(JASSM-ER)の調達も加速させている。こうした予算措置の狙いは、圧倒的な火力優勢と後方支援ネットワークを築き、第一列島線における米軍の軍事プレゼンスに十分な生存性と強力な打撃能力を持たせることにある。

同時に、アメリカは防衛責任の分担も進めている。日本とフィリピンに対し、より多くの防衛義務と財政負担を求めている。日本は防衛費をGDP比2%へ引き上げることを約束し、トマホーク巡航ミサイルを含む反撃能力の整備を進めている。自衛隊は奄美大島、宮古島、石垣島などで12式地対艦誘導弾の配備を始めている。フィリピンは「強化防衛協力協定」(EDCA)の拡大を通じ、台湾や南シナ海に近い重要軍事基地の利用を米軍に認めている。

台湾はなお太平洋戦略の核心

この戦略調整の中で、台湾の位置づけは慎重に定められつつある。アメリカは公式の公開発言で台湾に触れる頻度を減らしており、意図的に戦略的曖昧さをつくり出しているようにも見える。しかし、米軍の実際の作戦配備を見ると、台湾は最も重要な核心に位置している。米軍は第一列島線の南北両端で軍事配備を強化している。こうした打撃戦力の歴史的な配備は、地域秩序を変えようとする中共を明らかに念頭に置いたものだ。

現在、台湾はアメリカや地域同盟国と法的拘束力を持つ軍事同盟関係を結んでいない。しかし、台湾の軍事装備にはアメリカから購入した兵器システムが多く含まれており、データ形式や情報共有などの面で、米軍装備と本来的なつながりがある。必要に応じてこれらのシステムを接続することに、大きな技術的障害は基本的に存在しない。

米軍がルソン島と琉球諸島に展開する長距離ミサイル陣地とレーダー監視網は、実質的に台湾海峡と西太平洋を一体化させている。現時点でこれらの配備規模は限定的かもしれないが、重要なのは、それらがかつてない形でこの地域に配備されていることだ。台湾海峡周辺で軍事的な挑発や衝突が起きれば、第一列島線の各拠点に分散配置された交差火力による打撃に直面することになる。

太平洋軍の名称を復活させることは、戦略的現実に合致しているだけでなく、米国防総省が太平洋防衛線の強化に向けて、より多くの予算を確保するうえでも役立つ。これにより米軍は、インド太平洋全域ではなく、第一列島線により多くの資源を集中させ、重要海峡、島嶼、海上交通の要衝を押さえる能力を高めることができる。

夏洛山
大紀元時報(中国語)記者。長い従軍経験があり、軍事番組「Military Focus」を主宰する。