2025年5月6日、アメリカ最高裁は、トランプ政権によるトランスジェンダーの米軍入隊禁止を当面容認する決定を下した。現役兵士の除隊や新規入隊の拒否が進行する中、当事者および支援団体は強く反発中だ。
この問題は、トランプ大統領が1月に署名した大統領令に起因し、同命令は、性同一性障害を抱える現役および予備軍人を対象とし、軍隊における即応性、戦闘力、結束、誠実さ、謙虚さ、統一性、正直さといった高い基準と、性同一性障害を有する個人の医療的・外科的・精神的制約が両立しないと明言した。
同命令はさらに、性自認が生物学的性別と一致しない場合、兵士としての名誉や誠実、規律に基づいた生活様式へのコミットメントと矛盾すると述べ、私生活においても、たとえば男性が自らを女性と主張し、他者にその虚偽を尊重するよう求める行為は、軍人に必要な謙虚さや無私の精神と相容れないとする見解を示した。
非営利団体「スパルタ・プライド(SPARTA Pride)」はこの主張に異議を唱え、過去10年間にわたりトランスジェンダーのアメリカ人が、誇りを持って公然と軍務に従事してきたと指摘し、現在、数千人のトランスジェンダー軍人が、任務に対して、完全に適格であると同団体は主張する。
トランプ政権とバイデン政権の対応
トランプ大統領は、第1期政権においてもトランスジェンダーの軍務参加を禁止し、最高裁は2019年にこの政策の施行を認めた。一方、バイデン大統領が、2021年の就任後に同政策を撤回した経緯があった。
新たな大統領令に署名した後、国防長官ピート・ヘグセス氏は、国防総省に対し、性同一性障害の既往歴を持つ者の募集停止と、軍人の性別適合手術の一時停止を指示した。
国防総省は、2月に新政策を公表し、性同一性障害を持つ者について、特別な免除がない限り軍務に就けない方針を明示した。3月26日までに、各軍種は、該当軍人の特定と分離を開始する必要があるという。
同省のデータによれば、現時点で120万人以上の現役軍人が存在する。2016年1月~21年5月の、議会調査局(CRS)の報告によると、およそ1892人の軍人が性別適合治療を受けるための国防総省の承認を得ていた。その国防当局の発表によれば、2024年12月9日時点で、約4200人の軍人が、性同一性障害と診断され、さらに、2015年~24年にかけて、国防総省は、同障害に関連する医療ケアに、約5200万ドルを支出したとする覚書を提示した。
ワシントン州タコマ市では、7人のトランスジェンダー軍人と1人の入隊希望者、そして1つの支援団体が、トランプ政権の政策に対して訴訟を起こした。原告側は、この政策が性別やトランスジェンダーという身分に基づく差別であり、憲法に違反すると主張した。
連邦地裁は3月に、この禁止令の施行を差し止め、政権に対し、バイデン政権の政策復活を命じた。しかしその後、第9巡回控訴裁判所は、トランプ政権による緊急救済申請を認めず、訴訟中の禁止令の施行を容認しなかった。政権側は直ちに最高裁へ上訴した。
司法省は、政府を代表し、最高裁に提出した書類において今回の政策が、トランスジェンダーの身分や性別ではなく、医療状態および性別違和症に基づくものであると説明した。司法副長官ジョン・ソール氏は、政府機関には軍の構成を決定する権限があり、国防総省は、その権限を適切に行使したと述べた。
ソール氏はさらに、「選挙で選ばれていない判事が、国家の武装部隊管理に関する政府の職責を越権した場合、政府は取り返しのつかない損害を受ける」と指摘した。
一方、トランスジェンダー軍人を代表する弁護士団は、禁止令の施行によって現状が覆され、数千人に及ぶトランスジェンダー軍人が除隊に追い込まれ、職業人生が断たれると警告し、また、部隊全体の戦力にも深刻な影響が及ぶと主張した。
彼らは、裁判所に提出した書類において、「記録は明確で反論の余地がない。トランスジェンダー軍人が平等に、かつ公然と勤務することは、軍の戦闘力、殺傷力、結束力を高めてきた。トランスジェンダー軍人を排除する行為は、これらの能力を損なうだけでなく、公共財政にも悪影響を及ぼす」と述べた。
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