毎年8月下旬、中国各地で末端の公的機関や地域コミュニティーの採用データが相次いで公表される。今年は国家公務員試験の採用枠が小幅に減った一方、応募者数は371万人を突破し、初めて大学院入試の受験者数を上回った。
各地では、行政補助職や地域コミュニティーのソーシャルワーカーなどの採用にも応募が殺到している。100人に1人を超える狭き門となる地域もあり、多くの人気公務員職を上回る競争率となっている。
上海市嘉定区のある地区では、地域コミュニティー職員5人の募集に対し、応募者が1千人を超え、競争率は200倍以上となった。
北京市朝陽区や一部の大都市でも、人気のコミュニティーワーカー職は100倍を超えるケースが相次ぎ、一部では300倍以上に達している。
広東省や浙江省などの一部地域では、コミュニティーワーカーの平均競争率は30~80倍程度だが、中心部では1つの採用枠に数百人が殺到するケースも出ている。
大紀元のコラムニスト、王赫氏は「中国では現在、職場での過度な競争が深刻化している。中国経済が低迷するなか、職場で必死に働いても、以前に比べて給与は大きく下がっている。努力しても、高収入の仕事が見つかるとは限らない。そうした状況では、公務員に準じるような安定した仕事が、激しい競争から距離を置きたい人たちにとって魅力的な選択肢になる」と述べた。
評論家らは、景気低迷や民間企業の採用縮小を背景に、求職者が何よりも雇用の安定を重視するようになったとみている。
王赫氏は「従来、公務員試験を目指していた人たちが格下の仕事を選ぶようになったというより、これまで注目されなかった安定職に急に人気が集まるようになった。経済の先行きが大きく揺らぐなか、安定性がある仕事ほど魅力が増している」と指摘した。
国家公務員試験では採用枠が縮小する一方、応募者数が371万人を突破し、大学院入試の受験者数を上回った。さらに、行政補助職やコミュニティーワーカーにも応募が殺到している。
こうした対照的なデータは、中国の若者を取り巻く雇用環境の構造的な変化と、仕事に対する意識の変化を浮き彫りにしている。
民主中国陣線副主席で、独立中文ペンクラブの広報担当である盛雪氏は「鄧小平が始めた改革開放は、最初から民主主義と自由を備えた真に豊かな社会をつくるためのものではなく、中共の支配層を豊かにする仕組みだった。国力が強まった時期にも、社会の底辺を支える十分な保障制度は築かれなかった。そのため、経済や政治に問題が生じると、社会全体の土台が揺らぎ始める。今起きていることは、その直接的な結果だ」と語った。
これまで若者は就職難に直面すると、大学院へ進学することで就職時期を遅らせる傾向があった。しかし、修士号取得者の増加に伴って高学歴の希少価値が薄れ、「大学院を卒業しても就職難から逃れられず、むしろ競争が激しくなる」と感じる若者も増えている。
盛雪氏は「かつて人気だった業界の多くが、中国経済の低迷による直接的な打撃を受けている。民間企業の活動余地も大きく縮小している。市場化された組織も周辺に追いやられ、以前は人気の高かった外資系企業や海外の投資機関、投資プロジェクトも、特にコロナ禍以降、中国市場から大規模に撤退している。ここ数年、経済悪化のペースはさらに速まっている」と指摘した。
分析では、国や家庭が高等教育に多額の資金を投入し、産業革新や技術開発、高付加価値サービスを担う人材の育成を期待してきたにもかかわらず、高学歴人材が大量に従来の事務職へ流れれば、社会全体のイノベーションや生産性向上にも影響が及ぶと指摘されている。
王赫氏は「中国では労働力そのものが不足しているのではなく、高度な技能を持つ技術者が不足している。しかし、こうした人材を育てるには長い時間がかかる。企業同士の競争が激しいなか、長期的に人材を育成しようとする企業は少ない。中国では教育と実際の雇用・職業訓練の間に大きな隔たりがある。多くの企業では高度な技術を必要とする職種が不足している一方、必要な人材を労働市場から確保できていない。その結果、多くの人材が十分に生かされない状況が生じている。これは複数の政策が積み重なった結果だ」との見方を示した。
若者が国家公務員や、これまでさほど注目されなかった地域の安定職に押し寄せている。先行きへの不安が強まるなか、若者が待遇や将来性よりも「安定」を優先せざるを得ない現状が浮かび上がる。これは一時的に景気悪化をやり過ごすための選択なのか。それとも、高学歴者が能力や学歴に見合わない仕事に就く状況が長期化する兆候なのか。
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