「なんだ、ちゃんとできるじゃん」
中国人記者のネパール報道を見たネットユーザーから、こんな皮肉が飛び出した。
中国国内では、被災者の声より「救援する当局」を大きく伝えていた中国人記者たち。ところが国境を越えてネパールへ行くと、家族を失った人を訪ね、行方不明者を探し、生存者にマイクを向け始めた。
取材できないのではなかった。中国を出たら、ちゃんと「記者」をやっている。
同じ災害、国境で変わる「報道」
8月26日、中国・チベット自治区とネパールの国境地帯を大規模な洪水と土石流が襲った。
中国側では、濁流がギロン国境検問所をのみ込む映像がSNSで拡散した。しかしその後、こうした現場映像や災害に関する投稿は、中国のネット上から次々と削除された。

中国国営メディアでは、救援隊や軍の活動、物資輸送、道路復旧など、「当局がいかに懸命に救援しているか」が繰り返し流された。被災者の苦しみより、救援する当局の「活躍」をアピールする報道が前面に出て、被災地の生の声はほとんど聞こえてこない。
その一方、中国のSNSでは複数の芸能ニュースが「急上昇ワード」に登場した。海外の評論家からは、災害への関心をそらすため、芸能ニュースを意図的に押し上げたのではないかとの指摘も出ている。
消されていく被災地の声。その一方で増えていく芸能ニュース。そして繰り返し流される、当局の救援をたたえる「感動の美談」。
AP通信の9月3日付報道によると、ネパール側では少なくとも1118人が死亡し、3900人以上が行方不明となっている。一方、中国側では9月2日正午時点で、死者21人、行方不明者541人と公式発表されている。
もちろん、国境の両側で被害の大きさは異なるため、この数字だけで単純に比較することはできない。それでも、中国側の公式数字に疑いの目が向けられるのには理由がある。中国ではこれまでも、大規模災害や感染症、重大事故が起きるたび、情報統制や発表の遅れ、死傷者数をめぐる疑念が繰り返されてきた。積み重なった不信は大きい。今回も現地から自由な情報がほとんど出てこないため、当局発表をそのまま額面通りに受け取ることは難しいとの声が出ている。
そうした中、中国側では、死者が1000人、あるいは数千人に上る可能性があるなどとネットに投稿した少なくとも10人が、当局から処罰を受けた。
もちろん、市民による推測が事実とは限らない。だが、その真偽を確かめようにも、現地から自由な情報はほとんど出てこない。被災地で何が起き、どれほどの被害が出ているのかを外部から確かめること自体が難しい。
ところが、同じ中国人記者が国境を越えてネパールへ行くと、ちゃんと「記者の仕事」をしている。家族を失った人を訪ねる。行方不明者を探す人に話を聞く。生存者に「何が起きたのか」「どう逃げたのか」と尋ねる。
「なんだ、ちゃんとできるじゃん」と、ネット上では、そんな皮肉交じりの声も上がった。
取材する力がなかったわけではない。国境を越えたら、ちゃんとできている。つまり、できなかったのではない。中国国内では、できなかったのだ。国境を越えた途端、記者は「記者」に戻った。
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