マスク氏 テスラとスペースXの合併に前向き 狙いと課題は

2026/10/22
更新: 2026/10/22

イーロン・マスク氏は10月20日、EV大手テスラと宇宙開発企業スペースXの合併を支持する考えを示した。合併が実現すれば、企業価値が約3兆5千億ドルに達する巨大企業が誕生し、世界有数の企業価値を持つ企業となる見通しだ。

合併で相乗効果に期待

これまで、テスラとスペースXは、基本的に独立した企業とみなされてきた。しかし、マスク氏がAIやロボット、先端製造、衛星通信、計算インフラなどの分野に事業を広げるにつれ、両社の事業領域は次第に重なり始めている。AI向けの計算インフラには、地上のデータセンターに加え、将来的に宇宙軌道上に建設される可能性があるデータセンターも含まれる。

マスク氏は、両社の合併を支持する理由について、双方に大きな相乗効果が期待できるためだと説明した。

ロイター通信が21日に報じたところ、マスク氏は20日、スペースXの第3四半期決算に関する電話会議で、「両社の合併には非常に大きな価値があると考えている。私たちはすでに、超知能(SI)のシンギュラリティー(技術的特異点)の時代に入っているからだ」と述べた。

さらに、「超知能ソフトウェアや半導体設計、先端半導体の製造プロジェクト『テラファブ(Terafab)』、ロボット、物資を大量に宇宙軌道へ輸送する技術、衛星群『スターマインド』を活用した軌道上データセンター、通信サービスなどを共同開発することで、大きな相乗効果が得られる」と語った。

意思決定の迅速化と経営資源の集約

ロイターは、合併の利点の一つとして、意思決定の迅速化と経営資源の集約、影響力の強化を挙げている。

マスク氏が進める大規模な事業の多くは複数の企業にまたがっており、実施には各社の取締役会や株主から個別に承認を得る必要がある。合併すれば、資金や技術者、設備などをより柔軟に配分し、優先度が高く、成長が見込める事業に集中して投入できる。

マスク氏は以前から、AIやロボット事業を迅速に推進するため、テスラに対する自身の影響力をさらに強めたいと考えてきた。

現在、マスク氏はテスラ株の約5分の1を保有し、スペースXでは議決権を通じて経営を支配している。両社が合併すれば、マスク氏が新会社で持つ議決権の割合は、現在のテスラの持ち株比率を上回るとみられる。

資産運用会社テロス・ウェルス・アドバイザーズのアナリスト、ダン・シーハン氏は、合併そのものによってマスク氏の資産が増えるわけではないものの、資産が合併後の新会社の株式に集中することになると指摘した。

合併を審査するために設置される特別委員会は、こうした点も考慮する必要がある。

衛星通信からAIまで 両社の技術を活用

ロイターは、両社の技術や事業を組み合わせることで相乗効果が期待できる点も、合併の利点だと分析している。

例えば、スペースXのスターリンクは、テスラの無人運転タクシーや自動運転システム、人型ロボット「オプティマス」に通信サービスを提供できる。

一方、テスラの電池や蓄電システムは、将来のデータセンターを含め、スペースXで増え続ける電力需要を支えることができる。

実際、両社はすでに一部の事業で協力している。半導体とAI計算技術の開発プロジェクト「テラファブ」は、テスラの自動車やロボット、スペースXのAIシステムやデータセンターで使用する先端半導体の生産を目指している。マスク氏は2028年末までに本格的な量産を始めたい考えだ。

また、テスラが持つ工場の自動化技術は、スペースXが進める大型宇宙船スターシップの量産体制の構築にも活用できる。テスラの次世代スポーツカー「ロードスター」にも、ロケット技術を応用する計画がある。

合併後は、両社のサプライチェーンを一体的に管理することも可能になる。テスラが電池や半導体、製造設備の大量調達や量産で培った強みを生かし、スペースXが必要とする特殊金属や電子機器、推進システムの部品、衛星用機器などの調達を効率化できる。

株主承認や安全保障が課題 合併には高いハードル

マスク氏は20日、合併の最終的な決定権は株主にあると強調した。テスラの場合、合併には議決権を持つ全株式の50%に相当する賛成票が必要となる。実際に投票した株式の過半数では足りず、承認へのハードルは高い。

ロイターは、両社の合併における最大の課題は、地政学的な問題と規制当局の審査にあると分析している。

スペースXは、米軍や情報機関、NASAの主要な契約企業である。一方、テスラは中国共産党(中共)との密接な関係を維持しており、上海工場は同社の自動車生産と販売を支える重要な拠点となっている。

こうした両社が一つになることで、米国の規制当局や安全保障当局に加え、中共当局による審査も一段と厳しくなる恐れがある。

また、株主の承認や企業統治にも課題がある。投資家は、すでに複雑な事業構造を持つ2社を統合することが、それぞれ独立して経営を続ける場合よりも大きな価値を生むと納得する必要がある。利益相反や議決権の支配、資金配分なども重要な争点となる。

さらに、事業を進める上でのリスクも無視できない。スターシップ、無人運転タクシー、人型ロボット、AIデータセンター、移動通信、宇宙軌道上のインフラ整備は、いずれも巨額の投資が必要で、技術的な課題も多い。

テスラとスペースXが合併しても、こうしたリスクが減るわけではない。むしろ、両社がそれぞれ抱えていたリスクを、新会社がまとめて引き受けることになる。

高杉