ドラマ『VIVANT』が人気を集める 日本で高まる中国共産党の脅威への警戒

2026/11/01
更新: 2026/11/02

日本の人気ドラマ『VIVANT』第2シーズンは、中国共産党(中共)の情報機関を日本の情報機関の敵として描くという異例の設定を採用し、架空の情報戦を通じて日中間の安全保障や技術競争を描いている。中共の国営メディアは強く反発したが、制作側は国家間の対立をあおる意図はないと強調した。問題はその後、日本企業の商業提携にも波及し、日本社会で中国に対する安全保障上の懸念や、日本の情報体制改革などが改めて注目されている。

日本で人気を集める『VIVANT』

日本の人気ドラマ『VIVANT』は、TBSが近年制作した大型オリジナルドラマの中でも、特に注目を集めた作品の一つである。2023年に放送された第1シーズンは、サスペンス、国際政治、スパイ活動、予想外の展開を組み合わせたストーリーが日本で幅広い議論を呼び、最終回の世帯視聴率は19.6%に達した。

第2シーズンは7月26日に放送を開始し、2クール連続、約半年にわたる長編として放送されている。初回の関東地区の世帯視聴率は18.8%で、放送開始直後から注目を集めた。

第2シーズンでは、中共を日本の情報機関の主要な敵として設定している。関連する描写が最近、中共の国営メディアから批判を受け、このドラマは娯楽の話題から、日中関係、国家安全保障、企業経営などに関わる問題へと広がっている。

中国共産党系メディアが反発 制作側「対立をあおる意図はない」

10月4日に放送された第2シーズン第9話(通算第19話)では、自衛隊の秘密情報組織「別班」のメンバー5人が、中国の架空の情報機関「シンシー」(中国語表記「信息」)に拉致・拘禁され、主人公の乃木憂助(堺雅人)と弟のノコル(二宮和也)が協力して救出に乗り出す。

劇中では、シンシーの責任者である樊林杏(宮下今日子)が情報員を指揮し、拘束した日本の情報員から国際秘密組織「テント」の機密情報を得ようとする。中共の情報員は、別班のメンバーに指の切断や刃物で腹部を刺すなどの拷問を加え、ほかの拘束者が情報提供を拒み続ければ、毎日1人ずつ処刑すると脅す。

中国中央テレビ(CCTV)の微信公式アカウントは10月25日、論評を掲載し、こうした描写を「極めて荒唐無稽だ」と批判した。日本の情報員の指を切断したり、腹部を刺し貫いたりする手口は、中国を侵略した旧日本軍が用いた拷問と「大きく重なる」と主張した。さらに、同作は「白黒を逆転させている」「意図的に対立を生み、敵意をあおっている」と批判し「娯楽で包み込んだ敵意は、むき出しの宣伝より危険だ」とした。また、日本の海外活動を美化し、自衛隊の職務の境界を曖昧にしているとも主張した。

10月26日には『環球時報』も論評を掲載した。同作が中国の情報員を残酷な敵として描き、映像作品を通じて中国の脅威というイメージを形成していると批判し、日本の軍事・情報活動を拡大する政策と結び付けた。

これに対し、TBSの龍宝正峰社長は10月28日の記者会見で、ドラマは完全に架空の娯楽作品であり、特定の国を敵視したり、おとしめたりする意図はないと述べた。国家間の対立をあおる意図もなく、国民感情を傷つけるようなメッセージを発信したものでもないと説明した。

シンシーとは 架空の中国共産党の秘密情報機関

第2シーズンに新たな主要な敵として登場するシンシーは、中国国家安全省の系統に属する秘密情報機関という設定である。主に海外での情報収集、秘密監視、情報工作、秘密作戦に従事し、日本の自衛隊の秘密情報組織「別班」を主な敵としている。

つまり、脚本ではシンシーを別班に対応する中共の情報組織として設定し、二つの架空の機関の対決を通じて、日中の情報機関の衝突を描いている。

シンシーを率いる樊林杏は、劇中では中国国家安全省第6局の局長で、組織の指揮権を握っている。高度な情報判断能力を持ち、冷酷に行動し、情報網の操作に長けた幹部として描かれている。

海外活動の拠点は、架空の「ゴルバド共和国」に置かれている。主要拠点の「シャキ城」は城郭型の施設で、主に情報員の秘密拘禁や尋問に使われる。拘束された別班のメンバーも、ここに収容される。

第2シーズンの主軸は、拘束された日本の情報員の救出だけではない。核融合技術や、その技術を握る外国人も物語に関わっている。シンシーは情報工作や関係者の支配を通じて、重要な技術や情報の獲得を狙う。

脚本は日中の情報機関の衝突を、先端技術、技術面の安全保障、国家の戦略的利益と結び付けている。これにより、劇中の情報戦は従来の軍事情報の領域から、エネルギー技術や先端技術をめぐる競争へと広がっている。

日本の映像作品における中国の描き方に変化

『VIVANT』が日本で人気を集め、日中の世論で論争を呼んでいることは、日本の映像作品における中国の描き方や、日本社会の情報・国家安全保障問題への関心が変化していることも示している。

まず、日本の映像作品が、中国という実在の国を直接取り上げるようになった点である。『東洋経済オンライン』が10月16日に掲載した論評は、日本のテレビ局が実在の国を直接、敵役に設定するのは珍しいと指摘した。その背景には、「日本国民の中国に対する不信感と、日本政府の安全保障認識の変化」があるという。

筆者は、2023年放送の第1シーズンは国際情勢や情報活動を扱っていたものの、架空のテロ組織「テント」を敵役とすることで、実在の国とは一定の距離を保っていたと指摘した。一方、第2シーズンでは中国を直接、情報戦の相手に設定しており、日本の映像作品における国際政治や安全保障問題の描き方に変化が生じていると分析した。

次に、日本社会で情報機関や国家安全保障への関心が高まっている点が挙げられる。『朝日新聞GLOBE+』と『JBpress』は最近、それぞれ情報機関の実際の運用や、別班の歴史的背景について分析した。

こうした議論は、日本での情報機関への関心が映像作品の範囲にとどまらず、現実の政策課題へと広がりつつあることを示している。

世論の圧力が日本企業の商業活動にも波及

『VIVANT』をめぐる論争は、映像作品から日本企業の商業活動にも波及した。

中共の国営メディアが同作を批判した後、サンリオの中国子会社は10月28日、同作とのコラボレーションを終了し、今後の関連企画や宣伝活動も中止すると発表した。日本のサンリオ本社も10月29日に正式な告知を出した。

『東洋経済オンライン』が10月30日に掲載した論評は、サンリオにとって、第2シーズンの具体的なストーリーや海外の政治的反応を事前に予測することは難しかったと指摘した。その上で、問題が起きた後は、中国市場、ブランドイメージ、その他の消費者の反応を考慮し、何を優先するか判断しなければならないとした。

論評は、映像作品をきっかけとする政治的論争が、日本企業の市場リスクや、経営判断に対する圧力へと発展する可能性を強調した。

今回の論争からは、映像作品における国家安全保障の描写が、現実の日中関係、情報体制改革、企業の商業活動と結び付いていることが分かる。問題は一つのドラマの描き方にとどまらず、中共がもたらす安全保障上の課題への日本社会の関心や、政治的な世論が企業の経営環境に及ぼし得る影響も映し出している。

日本、情報体制を強化 中国共産党の安全保障上の課題に対応

日本政府は近年、情報体制改革を進めている。5月27日には「国家情報会議設置法」が成立し、国家情報会議を設置して、政府上層部による情報活動の戦略立案、省庁間の調整、情報分析能力の強化を図っている。

この改革は、中共がもたらす安全保障上の課題と密接に関わっている。nippon.comの分析によると、改革の背景には、中共による対日輸出規制、インターネット上の偽情報、世論工作、サイバー攻撃などがある。こうした問題が、日本に情報収集・分析や省庁間の調整の仕組みを見直すよう促している。

英国の国際戦略研究所(IISS)が8月6日に公表した分析は、中国とロシアが海外での情報活動について比較的成熟した能力を持つ一方、日本には海外で秘密裏に情報を収集する専門機関がなく、一定の能力格差があると指摘した。

『VIVANT』第2シーズンに描かれる日中の情報戦は架空の物語である。しかし、情報収集、海外での浸透工作、技術面の安全保障、外国勢力による影響などは、実際に日本政府が関心を寄せている政策分野でもある。

(責任編集:孫芸)

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