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欧米がEVシフト見直し 中国EV産業に逆風・専門家が警鐘

2025/12/19
更新: 2025/12/19

欧米で電気自動車(EV)一辺倒だった自動車政策が転換点を迎えている。EUは「2035年ガソリン車全面禁止」を事実上撤回し、米国もトランプ政権の下でEV優遇規制を見直し、フォードなど大手メーカーがEV生産縮小に踏み切った。一方、国家戦略としてEVに巨額投資を続けてきた中国共産党のEV産業は、需要鈍化と保護主義の高まりの中で構造的危機に直面している。専門家は、政治主導のEV偏重からコストとエネルギー安全保障を重視する現実路線への回帰だと分析する。

欧州、2035年ガソリン車禁止を事実上撤回

欧州委員会は、これまで掲げていた「2035年までに新車販売をゼロエミッション車に限定する」方針を大幅に修正した。新たな案では「排出量90%削減」との要件に緩和され、全体の約1割にあたる非EV車の販売継続を容認する見通しである。

この転換は、内燃機関技術に「延命許可」が与えられたことを意味し、自動車メーカーに一定の猶予期間を与える形となった。今後は、プラグインハイブリッド車(PHEV)やレンジエクステンダー型EV、従来型エンジン車でも、排出削減目標を達成すれば2035年以降も販売が可能となる。

欧州人民党(EPP)のマンフレート・ウェーバー党首は、「ガソリンエンジン禁止は事実上撤回された」と述べ、政治的潮流の変化を明確に示した。この政策調整は、中道右派政党と自動車業界の連携によるロビー活動の成果とされ、中国EVの攻勢、米国の通商圧力、域内市場の低迷といった背景を反映した現実的な対応である。

米在住の経済学者デイヴィ・ジュン・ホアン(Davy Jun Huang)氏は大紀元の取材に対し、「西側諸国の政策転換は環境保護の否定ではなく、『地球温暖化』をめぐる政治化への再検証だ」と分析する。

米サウスカロライナ大学アイケン・ビジネススクールの謝田教授も同様に、「気候変動の危機が過度に誇張され、その物語が再エネ政策やEV補助金の根拠となってきた」と指摘する。

ホアン氏はさらに、欧州の一部政党が気候変動への過剰な執着から単一的な電動化路線を推進した結果、中国共産党がその隙を突き、EVを通じて世界の自動車サプライチェーンに浸透したと述べた。

トランプ政権がEV優遇を修正 フォードも生産縮小

米国では、トランプ大統領が12月初旬、ホワイトハウスで声明を発表し、バイデン政権下で強化された企業平均燃費基準(CAFE)の全面見直しを表明した。大統領はこれを「ばかげた高コスト規制」と批判し、自動車価格の高騰や消費者選択の制限を招いていると指摘した。ホワイトハウスの試算によれば、新政策により米国の家庭は総計約1090億ドル(約16兆3500億円)を節約できる見込みである。

トランプ氏は「政府が補助金や規制によって市場を無理にEV化へ導くべきではなく、コストと消費者需要に基づいて技術選択を行うべきだ」と強調した。フォード、ステランティス、ゼネラル・モーターズの幹部らもこれを支持し、「手頃な価格と安定性への回帰」を歓迎している。

フォードは15日、195億ドル(約2兆9250億円)の資産減損を発表し、複数のEVモデル生産を中止すると明らかにした。これは、トランプ政権の政策修正とEV需要の低迷に対応する、自動車業界の象徴的な動きである。

ホアン氏は、トランプ政権の方針について次の三点を挙げる。

産業と雇用の安定:ガソリン車産業の基盤は米国内で成熟しており、安定した雇用を生む。

コストと生活負担:高インフレ・高金利下ではガソリン車のコストパフォーマンスがEVを上回る。

供給網と安全保障:EVはバッテリーとレアアースへの依存が高く、これらが中国に集中しているため安全保障上の懸念が大きい。

EVのコスト・インフラ・電力網に残る根本課題

近年の研究と実例が示すように、純EVは実際には「完全な無公害」ではない。ホアン氏は「排出が車から発電所に移るだけの可能性がある」と指摘する。火力発電比率の高い国では削減効果が限定的で、むしろ社会的コストが上昇する場合もある。

EVの限界は特に商用車とインフラ整備に顕著である。欧州では、40トン級の電動トラックが約30万ユーロ(約4800万円)と、ディーゼル車の2倍に上る。運送業界の平均利益率が2~3%に過ぎないことを踏まえると、補助金や安定収益なしの転換は困難である。

また、充電インフラの整備遅れも深刻だ。重型トラック向け公共充電施設は欧州全体で約1500か所にとどまり、必要とされる3万5千か所には遠く及ばない。今後、毎月約500か所の整備を継続し、同時に電力網の大規模拡張も求められる。これは、巨額投資と行政・企業・住民の協調を要する長期課題である。

謝田教授は、「EVは航続距離や充電速度、寒冷地での性能劣化といった根本的課題を依然として抱えている」と述べる。「高緯度地域では電力消耗が激しく、現段階ではガソリン車の完全代替は難しい。技術が未成熟な段階で行政主導のEV推進を行うのは資源の浪費に近い」と警鐘を鳴らす。

ガソリン車人気が再燃 世界の消費者意識が転換

英国の会計事務所アーンスト・アンド・ヤング(EY)が16日に発表した調査によると、世界でガソリン車の人気が再び高まっている。

報告によれば、世界の自動車購入予定者の50%が今後2年以内に内燃機関車(新車または中古車)を購入する意向を示し、2024年比で13ポイント上昇した。一方、純EVとハイブリッド車の人気はそれぞれ14%、16%低下した。さらに、潜在的EV購入者の36%が地政学的リスクや供給網の不透明さを理由に購入を延期または再検討している。

ホアン氏は、「EV化はもはや唯一の進路ではなく、多様な動力源が併存する過渡期へ移行している」と分析する。EV市場の成長は続くが、その速度と収益構造は当初の想定より緩やかになっているという。

中国EV産業に構造的危機 「誤った大きな賭け」と専門家

欧米の政策転換を受け、中国のEV産業が大きな打撃を受けている。中国共産党は従来のエンジンや変速機分野で技術的突破口を開けなかったため、国家補助金に頼ってEV産業を急成長させ、200社以上の新興メーカーを誕生させた。EVを「新質生産力」の中核と位置づけた戦略である。

謝田教授は、これを「誤った方向への大きな賭け」と評する。中共はEVが短期間でガソリン車を完全に置き換え、低価格戦略で欧米市場を制すると見誤った。しかし、欧米市場の閉鎖や補助金縮小の流れの中で、淘汰が進み、4分の3の企業が倒産する可能性があるとみられる。

「EVバブルが崩壊すれば、中国経済の減速を一段と悪化させるだろう」と謝田氏は警告する。

ホアン氏も、「欧米の政策見直しは理想主義的な路線を修正するもので、中国産業への影響は避けられない」と述べた。近年、中国の自動車産業は外資撤退が進み、投資の中心はメキシコや東南アジアに移っている。伝統的な外資系合弁企業の縮小も顕著である。

結果として、世界市場がガソリン車やハイブリッド車へ再び傾く中、中国が数兆円規模で投じたEV関連投資は構造的危機に直面している。

政治主導のEV偏重から現実路線へ 世界自動車産業の行方

専門家らは総じて、EUの方針緩和、米国の政策転換、消費者意識の変化を通じ、世界の自動車産業が政治主導のEV偏重路線から、コスト・エネルギー・安全保障を重視する現実路線へと回帰しつつあると指摘する。政治的理想に基づき資源を過度に集中させた中国のEVモデルは、いま厳しい現実の試練に直面している。

易如
程木蘭