解説
2026年1月3日、米国は現代においてほとんど例を見ない行動に出た。一国の現職指導者を、直接的、個人的、かつ決定的な武力行使によって権力の座から引きずり下ろしたのである。
米軍は、綿密に計画された「アブソリュート・リゾルブ(絶対的な決意)作戦」を実行し、ベネズエラの指導者ニコラス・マドゥロ氏とその妻を拘束した。両名は強襲揚陸艦イオー・ジマへ移送された後、ニューヨークへと送られた。そこで、麻薬テロ、コカイン密売共謀、武器密輸などの罪でマンハッタン連邦地裁に罪状認否のため出廷した。
国際社会の反応は即座に割れた。中国共産党(中共)政権はこの作戦を「極めて衝撃的」であり、主権国家に対するあからさまな武力行使であると非難し、ワシントンが「世界の裁判官」として振る舞っていると糾弾した。
そこから数千マイル離れたイランでは、ハイパーインフレ、通貨暴落、経済的絶望から端を発した全土規模の抗議デモが3週目に入っていた。人権団体は、数百人のデモ参加者が死亡し、1万人以上が逮捕されたと報告している。治安部隊は致死性の武器や大量拘禁を用いて対応をエスカレートさせ、司法当局は「迅速な裁判」を求めた。1月8日にはほぼ全土でインターネットが遮断され、連携や報告が著しく困難になった。
最高指導者アヤトラ・アリ・ハメネイ師は、デモ参加者を外国勢力の意を受けた「破壊者および工作員」であると非難し、体制として屈服しないことを誓った。
こうした背景の中、トランプ米大統領は異例ともいえる明確な警告を発した。もしイランの治安部隊が平和的なデモ参加者を暴力的に殺害するならば、米国が救済に向かうと公言したのである。1月15日には米軍による攻撃が差し迫っていたものの、土壇場で延期されたという報告もある。
現実世界における戦略
「アブソリュート・リゾルブ」のような作戦は、深夜のツイートやその場の思いつきから生まれるものではない。それは、長年かけて培われた諜報ネットワーク、維持されてきた古い起訴状を含む法的な下地、省庁間の連携、そしてあらゆる不測の事態を想定した綿密な備えといった、多層的な準備の集大成である。
トランプ氏のイランへのメッセージのような警告にも、形こそ違えど同じ論理が当てはまる。体制内部の残虐行為を外部の介入の可能性と明示的に結びつけることは、単なるレトリックではない。こうした発言は、一度口にすれば自らの身動きを封じ、対立のリスクを増大させ、もはや後戻りできない期待を周囲に抱かせることになる。米大統領がレッドライン(越えてはならない一線)を引きながら、その履行に失敗した際の代償は、歴史が証明している。
これらの動きが衝動的ではないと認識することは、すべてが中央で台本通りに進んでいると信じることとは異なる。現実世界の戦略は、カオス(混乱)とコンスピラシー(陰謀)の中間に存在する。政府や、いわゆる「ディープ・ステート」であっても、すべてを制御することはできない。彼らにできるのは、戦略目標に沿った「オプション(選択肢)」を構築しておくことだ。経済崩壊、政治不安、あるいは突然のパワーバランスの変化によってチャンスが訪れるまで、それらのツールを潜伏させておくのである。長年の準備が、二度と来ないかもしれない好機と交差する場所で、決断は具体化する。
盤面の読み方の変化
長年、ワシントンは世界の紛争地を「孤立した火災」として扱ってきた。あちらで鎮火し、こちらで監視するという手法だ。しかし、米国がそれらの火災に目を奪われている間に、中共は、しばしば背後からそれらの火災を支援し、一致団結した反発を招くことなく繰り返し前進してきた。これについては以前にも書いたことがある。中国がすべての危機を演出する必要はない。代理勢力は必ずしも操り人形である必要はなく、日和見的な連携だけで十分な場合もある。
これらは解決されない危機を生み出し、外交エネルギーを吸収し、同盟関係を疲弊させ、決定的な集中を遅らせてきた。その「ノイズ」が持続する限り、自由世界と中共との中心的な競争は後回しにされてきたのである。
マドゥロ政権下のベネズエラはその典型例だ。過去10年間、同政権は中国による数百億ドルの石油担保融資によって支えられ、2025年には日量数十万バレルを中国本土に送っていた。ベネズエラは、米国が「敵対勢力」と見なす国々の多くにとって、米国の目の前で活動するための「最前線の拠点」と化していた。
イランもこれと同様のパターンを示している。中国との間で2025年に更新された長期戦略協定は、エネルギー供給や軍事協力を深めるものであった。これはテヘラン(イラン政府)が制裁を回避する助けとなる一方で、米国の関心を中東の不安定な情勢に釘付けにしてきた。
「2025年国家安全保障戦略」は、もはや各地域をバラバラの独立した問題としては扱わない。世界を一続きの「大国間競争」という舞台として捉え、中国を「米国の地位を脅かす最大の競争相手」と明確に定義している。
これによりロシアへの対応を二の次とし、アジアへ戦力を振り向ける余裕を生み出す一方で、米州(南北アメリカ大陸)については、移民対策や麻薬掃討、インフラ整備を強化する方針を打ち出した。これは、「米国の目と鼻の先に、外部のライバル国(中国など)が入り込むのを許さない」という、かつての「米州における米国の優位性」を再び宣言する論理の復活といえる。つまり、他国がビジネスを隠れ蓑にして、米国のすぐ近くで戦略的な影響力を強めることを断固として阻止する構えだ。
盤面を畳み込む
点と点を結ぶ一つの仮説を提示しよう。米国は、今日中国と正面から対峙するのではなく、「段階的な隔離」を進めているのかもしれない。つまり、戦略的重心(中国)に対処する前に、周辺部を剪定し、緩衝地帯や陽動、間接的な利点を取り除くという忍耐強い取り組みだ。産業やサプライチェーンを本国や友邦国に戻しつつ、戦略的均衡を変えるのに十分な数の「ノード(結節点)」を除去しようとしているのではないか。
ベネズエラは、まさにその戦略の狙いどころを象徴している。マドゥロ政権は、自国だけの力で存続していたわけではない。
キューバの諜報・治安機関がマドゥロの権力維持を裏で支える見返りに、ベネズエラは石油を供給し、制裁下にあるキューバの経済を支え返していた。また、中国による融資やエネルギー協定が、政権を延命させる「資金という名の生命維持装置」となっていた。
このように複数の国が互いに支え合うネットワークがあったからこそ、政権は打たれ強く、何度窮地に陥っても立ち直ることができたのである。
マドゥロ氏を除去すれば、その影響は連鎖する。ハバナは重要な生命線を失い、制裁の網をすり抜けていた石油の密売ルートは断たれ、ベネズエラ国内でうごめいていた他国の工作員や利権勢力は行き場を失い、消えていくことになる。一つのノードが盤面から消えれば、他も自動的に弱体化する。
もしイランの抗議デモが、米国の明示的な警告と相まってテヘラン内部の亀裂を加速させれば、その波及効果はイラン国内に留まらない。主要なエネルギー経路が狭まり、地域的な代理勢力の拠点が窮地に陥り、永続的な陽動エンジンの一つが信頼を失う。さらに、ロシアがウクライナ戦争で使用するドローンも減少することになる。
戦術レベルでは、米国の圧力は抽象的な概念ではなく、ますます個人やネットワークを標的にしている。広範な非難声明に代わり、身柄引き渡し、資産凍結、情報の暴露が行われる。トランプ氏のイランに関するレトリックはこのパターンに合致する。街頭での弾圧を地政学的な結末に直結させ、国内の残虐行為を外交的に切り離しておくことを許してきた従来の「防火壁」を撤廃しているのだ。共通の狙いは、いわば「中国が動ける足場を削り取ること」にある。米国が他の地域に気を取られている隙に、中国が肩代わり(アウトソーシング)させていた工作や、こっそり得ていた利益を、これ以上生み出せないよう彼らの活動拠点を一つずつ潰していくことだ。
その間、米中対話は続き、貿易交渉は迷走し、首脳会談ではきれいごとが並べられる。これは信頼の回復ではなく、周辺環境の再編が進むまでの時間を稼ぐための戦術的な遅延である。
ここで注目すべきは、中共が両ケース、および昨夏のイラン・イスラエル紛争において、いざという時に同盟国や代理勢力を見捨ててきたことだ。これは、中国と「永遠のパートナーシップ」を結んだ他のすべての指導者たちに強力なメッセージを送ることになる。歴史的に公正を期せば、米国も過去に同盟国を見捨てたことは一度や二度ではない。しかし、少なくとも現政権は、同盟国であり続けるために何を求めているかを非常に明確にしているようだ。
盤面整理に伴うリスク
この「畳み込み戦略」が実在するとしても、それが万能薬というわけではない。拡散していた「頭痛の種」が、凝縮された「重大な危険」へと形を変える可能性がある。
強制的な解決は、圧力を解放するのではなく、むしろ圧縮させる恐れがある。慢性的な危機は時に安全弁として機能するが、それを取り除くことは、大国間へと飛び火しかねないエスカレーションを招くリスクを伴う。同時に、すべての同盟国がワシントンの脅威認識を共有しているわけではない。単独行動を警戒する欧州や中南米のパートナーは、より鋭い対立に抵抗するかもしれず、連合の分裂とコストの増大を招く可能性がある。
敵対者も適応するだろう。中国は、自らの陽動ノードが弱体化するのを黙って見ているはずがない。サイバー攻撃、経済的威圧、そして新たな圧力ポイントの構築が加速する可能性がある。中国が陽動を生み出す能力には限りがあるという仮定は、誤りであることが判明するかもしれない。ワシントンが常に機先を制し、主導権を握り続けられるとは限らないのだ。
米国内でこの戦略を維持できるかも重要な鍵となる。こうした戦略は、一度始めたら最後までやり遂げなければならない。もし圧力が中途半端になれば、標的とした国の体制を崩壊させるどころか、かえって彼らを団結させ、独裁を強めさせてしまう恐れがある。
また、2026年のアメリカ中間選挙のような国内政治の節目で戦略が中断されれば、事態が収拾不能になり、以前よりもさらに悪化するという最悪の結果を招きかねない
最後に、攻撃の矛先を国家ではなく「指導者個人」へと向ける手法は、敵味方の境界を明確にする。しかし、一国のリーダーを個人的に追い詰めて「超えてはならない一線」を越えてしまえば、相手は「殺されるか、生き残るか」という存亡の危機を感じ、なりふり構わぬ予測不能な行動に出るかもしれない。
そうなれば、もはや外交的な話し合いで事態を収める余地は急速に失われ、一気に破滅的な対立へと突き進むリスクがある。
何がこれを真実たらしめるか
国の戦略が本当に切り替わったかどうかは、政治家の華やかな演説ではなく、「実際に繰り返される行動」を見れば明らかになる。もし、今回の「米国の戦略転換」という仮説が正しいのであれば、今後、次のような「4つの兆候」がはっきりと現れてくるはずだ。
第一に、「攻める順番」だ。米国を本命の対決(中国)から遠ざける「目くらまし」や、中国が裏で操る「手先」となっている国々を、一国ずつ順番に、狙いを定めて叩き始める動きが見られるかどうかである。
第二に、個人化(パーソナライゼーション)。指導者、資金提供者、協力者が、起訴や没収、あるいはそれ以上の個別的な圧力に直面するにつれ、抽象的な議論は影を潜める。
第三に、「外交を時間稼ぎに使う」動きだ。米中間の話し合いは続けられるが、一向に根本的な解決には至らない。もし米国が、中国の息がかかった国々(周辺の足場)を崩さないまま安易に中国と妥協するなら、それは戦略ではなく、ただの「譲歩」にすぎない。
逆に、中国と対話を続けて衝突を避けつつ、その裏で中国の協力国(レバレッジ)を一つずつ着実に無力化しているのであれば、それこそが戦略的な時間稼ぎの証拠となる。
第四に、「無駄な混乱を許さない」姿勢だ。ここぞという場所では、目先の平穏を守るよりも、一気にケリをつけて「白黒はっきりさせる(明確さ)」ことを優先する。一方で、戦略的に重要でない場所では、だらだらと紛争を長引かせないよう、味方にも敵にも速やかな停戦を強く迫る。
その結果、本筋とは関係のない「脇道の争い(余興)」が減り、新しい戦争を始めることにも慎重になる。そうして余計な負担を削ぎ落とし、真の標的に対して全神経を集中させていくのだ。
以上の考察は、最近の行動を説明しうる論理と、その戦略が孕むリスクを理解しようとする試みである。それらの行動を是認あるいは否認するものではない。今後数週間から数ヶ月の展開は、実に興味深いものになるだろう。
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