5月20日、中華民国(台湾)総統府にて、頼清徳総統が就任一周年を迎え、台湾の現状と未来戦略を語る演説を行い、気候変動対策や経済安全保障、民主主義の堅持、グローバル展開など、台湾が「世界の光」となるための具体的な政策と国際的役割を示した。
1. 国民への感謝と痛ましい事故への哀悼
演説冒頭、頼総統は、新北市三峡で発生した重大交通事故に触れ、犠牲者と家族への深い哀悼の意を表した。政府は直ちに行政院主導の専案チームを設置し、被害者支援と事故原因の究明、再発防止に全力を挙げると約束した。
「政府の目的は国民に奉仕することにある」と頼総統は強調し、国民から託された重責を胸に刻み、就任以来一年間、国民と共に様々な困難を乗り越えてきたことへの感謝を述べた。
2. 三大挑戦への対応 気候変動、健康、社会の韌性
頼総統は、台湾が直面する三大グローバル課題として「気候変動」「健康促進」「社会の韌性(レジリエンス:しなやかに適応し、立ち直る力)」を挙げ、総統府に三つの専門委員会を設置したことを報告。それぞれの分野で段階的な成果が出てきたと述べた。
気候変動対策とグリーン経済
台湾は、国際社会と歩調を合わせ、各省庁が「ボトムアップ」で自主計画を策定し、行政院は「トップダウン」で6部門20項目の減炭フラッグシップ計画を推進。2030年までに1兆台湾ドルを超える予算を投じ、民間のグリーン投資も5兆台湾ドル以上を目指す。2035年には温室効果ガス38%削減(±2%)という新たな国家目標を掲げ、空気質も改善し、PM2.5の年間平均濃度は2015年の21.82から12.8へと大幅に低減して、今年からはカーボンプライシング(炭素税)制度も導入し、2050年のカーボンニュートラル達成を目指してゆく。
健康台湾の実現
コロナ後の時代に対応すべく、国家級防疫センターを建設し、感染症対策の中枢を強化した。国民健康のためにはがん検診の普及や「がん新薬基金」の設立、5年間で489億台湾ドルの「健康台湾深耕計画」を策定した。医療・健康分野への投資を拡大して、今年度の健康保険総額も712億台湾ドル増額し、制度の持続可能性を確保した。
3. 国家安全と社会の団結 韌性強化と統戦への対応
頼総統は、国家安全保障と社会の団結を守るために、国家レベルの備えを進めると強調。各省庁の力を結集し、統一戦線の脅威に対する17の項目を提起し、国民の団結と自由・民主主義の生活様式を守るため、4100億台湾ドルの特別予算を編成、そのうち1500億台湾ドルを国家韌性強化に充てる方針で、政府と野党の両方がこれを支持するよう呼びかけた。
4. 台米経済関係の深化と経済安全保障
アメリカによる新たな関税政策への対応として、頼総統は五大戦略を策定し、産業界との対話を重ねてきた。行政院は「強化安全韌性特別条例」をまとめ、4100億台湾ドルの特別予算で、産業支援・雇用安定・経済強化・民生向上・国土安全に対して、その韌性強化を図る。
特に電力価格や供給安定への要望が産業界から強く出されており、政府は台電(台湾電力)の財務健全化と電力価格の安定に向けて補助金を投入し、エネルギー安全保障を最優先課題と位置づけ、再生可能エネルギーの多角的開発を進める。
台米関税交渉も順調に進行中であり、頼総統は「国家利益・産業発展・いかなる業界も犠牲にしない」という三原則を掲げ、最良の交渉成果を目指すとした。
5. 民主主義の価値と国際社会での役割
台湾は、アジアにおける「民主の灯台」として、自由市場の原則を守り、国際社会の民主的パートナーと共に発展してきた。頼総統は「民主は台湾の市場であり、価値であり、国力の表現である」と述べ、民主主義の堅持こそが台湾の最大の強みであると強調した。
アメリカをはじめとする民主主義国との連携が深化し続けており、互いに切磋琢磨しながら信頼と協力を積み重ね、頼総統は「意見の違いがあっても、誠実な対話と信頼があれば、より深い理解と友情が生まれる」と述べた。
6. グローバル経済戦略 台湾発、世界へ
頼総統は、台湾の経済戦略を「台湾に立脚し、世界に展開し、アメリカとの経済連携を強化する」ことと明言。近年はフィリピン、インド、ベトナム、タイなどと投資保障協定を更新し、カナダとも投資促進協定を締結。今後も友好国と投資保障や二重課税防止協定の締結を進めて、アメリカ以外の民主主義国との市場連携も拡大し、イギリスとは「貿易パートナーシップ協定」を締結した。CPTPP(包括的及び先進的環太平洋パートナーシップ協定)など、地域経済統合への参加も積極的に追求してゆくことになる。
内需拡大と産業高度化
台湾経済の体質強化には、輸出主導と内需拡大、ハイテクと伝統産業の両立、ソフトウェア開発と製造業の強化が不可欠だ。アメリカインテグラ、マイクロン、グーグル、NVIDIA(エヌビディア)など多国籍企業が台湾に拠点を設け、最新技術と国際的な研究開発が進む。台湾はAI時代の中核拠点となりつつある。
7. 主権基金と国家級投資プラットフォームの創設
政府は、台湾経済発展の原動力となる「主権基金」を設立し、グローバル市場への投資を強化する。政府主導で民間企業と連携し、AI時代の主要市場をターゲットに世界展開を図るという。
国内では、サプライチェーンの強化や産業の再構築、中小企業の転換・高度化支援を推進し、国家開発基金の機能強化により、産業の国際競争力を高め、台湾経済の基盤を固めるという。
8. 民主台湾の誇りと世代を超えた継承
頼総統は、「台湾はかつて世界で最も長い戒厳令が敷かれた国だったが、今やアジアの民主の灯台となった」と述べ、過去の先人たちの犠牲と勇気、現代の若者たちの多様性と積極的な政治参加を称賛した。
「台湾人は誰一人として民主と自由を手放さない。いかなる総統も民主自由の価値を裏切ることはできない」と断言。民主主義の核心は「分裂の中に団結を見出すこと」であり、民主の争いはより大きな民主で解決すべきだと訴えた。
9. 与野党対話と国安情勢ブリーフィング
国内の政治的分断に対しては、与野党政党の協力と対話を重視。頼総統は、国安チームに対し、野党党首への「重要国安情勢ブリーフィング」の実施を指示すると発表し、政党間の立場を超え、国家の安全と利益を最優先に、率直な意見交換と協力を呼びかけた。
10. 世界の「シリコンアイランド」台湾 国際的な存在感
演説の終盤、頼総統は、台北国際コンピュータ展(COMPUTEX)の開幕を紹介。台湾は「世界のシリコンアイランド」として、グローバル経済とAIの中枢を担う存在となった。40年余の発展の歴史を振り返り、台湾の技術革新と国際競争力の象徴であると語った。
11. 台湾は世界の台湾へ 「世界の光」を目指して
頼総統は「今や台湾は、世界の台湾であり、グローバルなサプライチェーン、経済交流、地域安全保障の不可欠な存在」と強調。どんな困難にも屈せず、台湾人の「三分は天命、七分は努力」という精神で、結束して未来に挑み続けると誓った。
「台湾を世界の光、世界平和の舵取り、世界繁栄の推進者とする」との決意で演説を締めくくった。
結語
頼清徳総統の就任一周年演説は、台湾が直面する課題と未来への展望を具体的に示し、国民の結束と国際社会での役割を強く訴える内容となった。気候変動や健康、経済安全保障、民主主義の堅持、グローバル戦略まで、多岐にわたる政策を総動員し、台湾が「世界の光」となることを目指す総統の強いリーダーシップが示された演説であった。
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