中国共産党による「越境弾圧」がアメリカ社会を揺るがし、司法制度への浸透、訴訟戦術、「統一戦線」などの工作によって、企業や個人、さらには民主主義そのものが脅威に直面している。本稿では、中国共産党が用いる三つの大きな「陰険な手口」の具体例、被害の拡大を招く背景、そして国際社会が取るべき対応について詳述する。
最近では、この問題がアメリカ議会に波紋を広げている。下院司法委員会は、特別公聴会を開催し、多くの専門家や企業代表が中国共産党(中共)の「陰険な手口」を具体的に指摘した。
法制度を通じた中共の迫害手段
中共は司法制度を用いた「司法戦(Lawfare)」戦術を多用する。ワシントンのシンクタンク「民主主義防衛基金(FDD)」上級研究員のエミリー・ド・ラ・ブリュイエール氏によれば、この戦術は、司法制度内部に密かに浸透し、高額な資金とリソースを投じて訴訟を連発し、相手を徹底的に追い詰める手法である。特に、知的財産訴訟における「証拠開示」制度を悪用し、技術機密を盗み取った上で、アメリカ企業や代理人を通じて、中共の利益に貢献させる構図を構築した。
彼女は、実例として、ミシガン州で中国の大手リチウムイオン電池メーカー「国軒高科」の子会社が、23億6千万ドル規模の工場建設を進めようとしたケースを紹介した。地元住民は、これに強く反発し、プロジェクトを支持した地元役人は選挙で敗北した。すると、国軒高科は膨大な資金力を背景に、即座に連邦訴訟を提起した。このような訴訟は小規模な町にとって過大な負担となり、住民は長期的な法的闘争に巻き込まれることとなった。
「合法」の仮面を被った弾圧工作
法科大学院であるホフストラ大学ロースクール(Maurice A. Deane School of Law)のジュリアン・クー憲法学名誉教授は、「中共は弾圧行為に『合法』と偽装するのに長けている」と述べた。例えば、アメリカに亡命した中共の反体制派の一部は、本来中国では何の借金もなかったにもかかわらず、中共の裁判所が無理やり彼らに意味不明な『借金』をでっち上げ、アメリカの裁判所で強制執行しようとし、事実上、越境した追及・弾圧を行った。
さらに、毛沢東の元秘書・李銳氏がスタンフォード大学に寄贈した日記に対して、中共は氏の遺族を通じて中国国内の裁判所から返還を請求し、同大学を長期にわたる高額訴訟へと巻き込んだ。中共の目的は、アメリカの司法制度を利用して言論統制を行い、歴史の真実を覆い隠すことにある。
中小企業への圧力と経済的破壊
アメリカのシャーロット・パイプ・キャスティング会社も中共の攻撃対象となった。同社の上級副社長のブラッドフォード・ミュラー氏は、同社が過去数年間に約700万ドルを投じて知的財産を守ってきたと証言した。シンガポールの展示会では、中国企業が堂々と同社のブランドを盗用し、ロゴ入りの名刺まで配布した。住所には上海が記載されていたという。現地弁護士による法的対応も功を奏さず、多くのアメリカ中小企業が、同様の手口で破産寸前に追い込まれた。
中共「司法戦」の本質と米国への警鐘
ペンシルベニア大学法学・政治学教授ジャック・デリル氏は、「中共の司法戦は既に体系的な戦略となっており、アメリカ側に『沈黙効果』を生み出し、批判を封じ込めた」と警告した。もしアメリカが有効な対策を講じなければ、国際的影響力と司法制度の信用がさらに失われると指摘した。
デリル教授はまた、立法による対応を進める米議会に対して、「広範すぎる措置は、米中双方の企業や個人の正当な権益を損ねる恐れがある」とした。中共裁判所の判決の審査を強化する一方、アメリカ司法の開放性と公平性を維持し、中国共産党が仕掛けた法的罠に陥らないよう、行き過ぎは慎むべきだと訴えた。
中共の「政治戦」、台湾と海外華人社会への全面浸透
中共が米国司法制度に仕掛ける「司法の罠」に加え、台湾や世界各地の華人社会への政治的介入も急速に進行している。
2025年7月23日、米国議会は、重鎮らを招いて特別公聴会を開き、複数の専門家が中共の「政治戦争」の実態を告発した。
元米海軍情報司令・退役少将マイク・スチューデマン氏は、「中共の政治戦争は台湾だけでなく世界規模に及んでいる」と分析。中共が駆使する三つの戦術として、
「白色手段」:経済・外交による表向きの圧力
「灰色手段」:半公然とメディアへの浸透や偽情報を利用すること
「黒色手段」:スパイ、ハッカー、ギャングを動員した破壊活動
を、挙げた。これらの「陰険な手口」を組み合わせて、台湾内部の団結を破壊し、アメリカを中心とした海外世論の操作まで狙っているという。
スチューデマン氏によれば、台湾政府は、軍や公務員の忠誠審査、中国籍取得者への調査、二重国籍保持者の永住権制限、サイバーセキュリティ部門の創設などを通じて、スパイやハッカーの侵入を阻止中だ。
続いて登壇した米シンクタンク「ジェームズタウン財団」会長ピーター・マティス氏は、中共「統戦部」の実態に言及した。統戦部は、中共の政治戦争を主導する機関であり、同盟者や中立勢力を育成しつつ、敵対勢力の孤立を図る役割を担うという。海外の華人社会に対しては、監視・圧力・嫌がらせを繰り返し、台湾や反共勢力の言論活動を封じていると指摘した。
マティス氏は、中共が長期にわたり経済・文化交流を同盟国に統一戦線活動を推進し、世界各地で政治的影響力の拡大、情報操作、華人コミュニティの掌握を図ってきた事実を強調した。
アメリカ国内における具体的な浸透について、アメリカ企業公共政策研究所(AEI)の研究員である黄韻琪(Audrye Wong)氏は、明確な警告を発した。彼女は、ニューヨーク・ブルックリン地区において、少なくとも三人の親中派候補が統一戦線組織の支援を受けて当選した事例を挙げた。2024年のニューヨーク州上院選では、中共の支援を受けた共和党候補が、台湾の蔡英文総統と面会した民主党議員・曲怡文(Iwen Chu)を打ち破った。
黄氏は、こうした浸透型の地方政治戦略によって、アメリカの政治環境が段階的に中共寄りに変化していると警告し、また、中共は華人社会内部にとどまらず、アメリカの極左勢力や反戦団体を取り込み、台湾問題を「反米帝国主義闘争」として位置づけ、米社会の認識を歪めていると指摘した。
大学キャンパスもまた、中共の浸透が深刻化しているエリアである。黄氏は、多くのアメリカの大学で中国学生学者連合会(CSSA)が中共の統一戦線部門により掌握され、資金提供を通じて、学術界や世論に影響を与えようとしている事実を明らかにした。
このような脅威の深刻化に対し、スチュードマン少将は、アメリカが台湾との協力関係を積極的に公開し、情報と資源の提供を通じて、台湾の安全審査体制を強化すべきと提言した。同時に、米台両国はサイバーセキュリティ協力を拡充し、中共のハッカーやスパイ活動に対抗する専門人材を育成する必要があると述べた。
黄氏は、アメリカの官僚や政治家が華人団体と接触する際、その組織の背景を徹底的に調査し、統一戦線の影響を受けないよう警戒すべきと強調した。彼女は、中共の浸透を防ぐ鍵は、華人社会の多様な声を守り、一党独裁による世論支配を許さない姿勢にあると主張した。
中共が神韻芸術団を恐れる理由
中共は統一戦線を通じて世界の華人社会に浸透してきたが、中共が最も恐れている対象は、一つの芸術団体。その団体こそ、世界的に名高い神韻芸術団である。
神韻芸術団は2006年、法輪功修煉者のグループがニューヨークで設立した。団員たちは卓越した中国古典舞踊と音楽を通して、共産党以前の中国伝統文化を世界に発信し、同時に中共による法輪功迫害の実態を訴えてきた。この活動により、神韻は中共の越境弾圧の主要標的となった。
2022年末以降、中共は神韻に対する越境的な法的弾圧を強化し、党首の習近平がアメリカの法制度を悪用して神韻や法輪功への締め付けを命じた。中共の工作員はアメリカで、アメリカ国内国歳入庁(IRS)の職員に賄賂を持ちかけ、神韻の非営利資格を取り消すよう画策した。さらに、彼らは、神韻本部のあるニューヨーク州オレンジ郡に潜入し、法輪功学習者の監視を行い、環境訴訟を捏造してコミュニティの破壊を試みた。

中共と関係の深いアメリカ人も、神韻本部に対して繰り返し環境訴訟を起こしたが、すべて裁判所が却下し、最新の訴訟は「偏見を以て却下」され、再訴訟も禁じられた。
神韻が直面した越境的な弾圧は、過去一年間において、かつてない激しさを見せた。神韻の司会者リーシャイ・レミッシュ氏は、弾圧の手段には、直接的な暴力による脅迫、世論を利用した攻撃、法的手段を用いた嫌がらせ、さらには爆弾による脅迫や殺害予告までも含まれていたことを明かした。それにもかかわらず、神韻は一度も公演を中止せず、満席となる会場で観客の支持を得てきた。
なぜ中共は、そこまで狂気じみた執念で一つの芸術団体を迫害するのか。リーシャイ氏によれば、中共が神韻をこれほどまでに恐れる理由は、芸術という手段を通して、中共の支配と虚構を暴き、「共産党のいない本物の中国」を世界に示す真実の力にあるという。この力が人々の良心を呼び覚まし、中共の欺瞞を根底から崩すことに繋がるからである。この「真実の力」こそが、中共が恐れている理由である。
神韻の団員たちが人々の心を打つ芸術を生み出せるのは、自らが中共の迫害を体験してきたからであり、主演ダンサーの孫弘威氏は、幼少期に母親が法輪功修煉により7年間投獄され、自身は13歳で台湾へ留学した。主演ダンサーの郭新宇氏は、祖父が法輪功修煉者として迫害され命を落とした。ダンサーの劉子幸氏の叔母・高蓉蓉氏は、2005年に拷問により37歳で命を落とした。
高蓉蓉氏の事件は国際社会に大きな衝撃を与えた。彼女は生前、中共警察による7時間の電気ショックを受け、顔が激しく損傷し、その写真が流出して中共当局を動揺させた。2005年6月16日には、当時の政法委書記・羅干と公安部長・周永康が瀋陽に赴き、直接に死までの迫害を指揮した。
神韻の団員たちはこうした苦難に屈せず、むしろ芸術によって真実を伝える使命をより強く自覚し、2025年7月20日、数百人の神韻芸術団員がニューヨーク・マンハッタンの街頭で行われた「法輪功迫害停止」パレードに参加し、中共による越境弾圧への抗議の意思を表明した。
団員の王琛氏は、過去1年で100件以上の爆弾脅迫や世論攻撃を受けたと述べ、声を上げなければ他の団体も同様の脅威に晒されると強くその認識を語った。彼女は、中共の越境弾圧に対し、共に立ち上がり抵抗するよう呼びかけた。
パレードを見守っていた中国大陸出身の移民観客は、自らの心が深く揺さぶられたと語り、隊列に加わって正義を伝えたいと感じたという。彼は、中共によるアメリカへの専制的迫害の持ち込みを決して容認してはならず、中共の解体こそが、中国人民に真の自由をもたらす唯一の道であると強く訴えた。

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